#説明書
…………。
ヒマだぁぁぁぁぁーーー。
ゴロンと乾いた苔の上に寝そべっているオレは、木々の隙間から微かに見える空を意味もなく眺めてみる。
しばらくしてやはり飽きたので、雛菊の方を見てみる。木に隠れた彼女は、既にこっちを見てはいなかった。
(何をしてるっのかな~?)
木の後ろに回り込むと、彼女は太い幹に凭れて本を読んでいた。
それも、かなりの厚さの本。
(あれ?どこかでみたような気が……。ま、いっか。)
内容が気になって、彼女の横から本を覗き込む。
『彼の発見は魔法技術そのものを変えた。
以前より魔術発動スピードはUPし、 消費魔力も大幅に減少した。それにより、人々はより多くの魔術を扱えるようになった。
彼はその後も研究を続け、いくつもの研究成果を発表した。
その中でも、魔物のレベルについての研究は――』
「ひゃあ!」
可愛らしい悲鳴を上げて、雛菊は本を閉じると二、三歩退く。
「あ、悪い。……しっかし魔法だの魔物だの、意味わかんねぇ。そんなの読んでて、おもしれぇのか?」
彼女に訊いてみるが、彼女は辞書みたいに分厚い本を抱えたまま、一歩、また一歩と退いていく。
その瞳に浮かんでいるのは怯え、……か?
しかし、頬は真っ赤に染まっている。
「あ、の……。……えっ……と。」
「ん?」
「…………こ、こ、これ、よ、読んでませんか……?」
そう言って、彼女は持っていた本をオレに差し出す。
『イミャース説明書 地球:日本語ver』
首を傾げる俺に、彼女は本を捲って1ページ目を見せる。
『貴方は、【イミャース】へ召喚される一人に選ばれました。
拒否権はありません。強制的に召喚します。
期間は1年です。
その間、貴方はイミャースで暮らさなければなりません。
イミャースで暮らすという事は、イミャースのことについて
いろいろと、知らなくてはなりません。
ここに、ある程度の知識は載せておきましたので
どうかご活用ください。
貴方の無事を祈ります。
Q.R. 』