#意外と家庭的?
「ここ……でいいんだよな。」
唯一家の明かりが点いていない一番右の家の玄関扉を、オレは恐る恐る開ける。
「……お邪魔しまーす。」
中はもう真っ暗。
雛菊が壁のスイッチに気付き、電気を付けてくれる。そして彼女は靴を脱ぎ、パタパタと何処かへ駆けていく。
――今気付いた。オレらの靴、学校指定の上履きじゃねぇか。
この靴で外歩き回ってたとか、……なんかなぁ~?
戻ってきた雛菊は、手に濡らしたタオルを2枚持っていた。
「……うん?」
一つをオレに手渡し、もう一つを持って靴を履いた彼女は外に出る。
外には、一時的に置いた机達がいた。雛菊はその横でしゃがみこみ、机の足に軽く付いてしまった土や葉っぱを持ってきたタオルで拭き取る。
そしてすぐにその作業を終えると、机を家の中に運び入れてしまった。
しかしそのまま帰らず戻ってくると、今度はジッとオレの前で立ち尽くしてしまう。
「……何か?」
「ぇ!……と、……ぅぅぁ。……て、手伝いましょうか?」
「……うん?」
「えと……あの、重くて大変そうですし。」
「うっ。」
確かに。
重いままやるのは無駄骨ってやつだろう。
「……お手伝い、お願いします。」
「は、はいいッ!!」
まず、引き出しの中身を出し、部屋に持っていった。
2階は4つの部屋と小さなベランダがある。
オレは裏庭側の隣接する家とは逆の方向の部屋を選んだ。
雛菊はベランダ側の部屋にしたらしい。空いた左の部屋二つは何になるんだろう?物置か?
適当な床に教科書類を置き、俺は下へと戻る。
下では既に、雛菊が俺の机を家の中へと入れていた。仕事の早いこった。
「あ、あの……。」
降りてきた俺を見、雛菊は机の隣に立ち尽くすと俯いてしまう。
「あ、うん。サンキューな。」
「あぅ。えと……いぇいぇ……。」
俺がお礼を言うと、彼女は頬を真っ赤に染めてブンブンと首を振る。
「じゃぁ俺は、これを上に――」
「あ、あの!」
先程から、何かを言いたげな様子の彼女。
仕方なく俺は、彼女の言葉を待つことにする。
「……夕ご飯、……な、何が良いですか?」
しばらくして聞こえたのは、そんな小さな声だった。
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「だ……大丈夫ですか?」
「ん?何がだ?」
不安そうな顔をして、聞いてくる雛菊。
対して俺は、質問の内容が分からずに首を傾げた。
「お、お口に合います……か?」
キュッと体を縮め、耐えられなくなったらしい彼女は俯く。
「おいしいんじゃね?」
夕飯は、簡単にパスタとスープ。
茹でるだけの市販品パスタに、お湯の中に袋ごと入れて温めるだけのソースを絡めたもの。
それと、粉末状で湯を注げば簡単にできるインスタントスープ。
どうやら包丁が無いくせに、地球産インスタントの類はあったらしい。
手抜きだと言って、作っている間もずっと申し訳なさそうだった。
「料理、上手いんだな。」
料理の感想にホッとしたのか、ようやく自分も手を付け始めた彼女に聞いてみた。
作ってる時の手際が、初心者っぽくなかったのだ。
「……お、お母さんが仕事で忙しいから、夕ご飯は私が作っていたんです。」
俯く彼女の声は、少しだけ嬉しそうに聞こえた。