第二話「人生の楽しみ方」(1)
件名:調査報告書序文
改めて論じるまでもないことだが、盤古片とは約一万年前の地層から発掘された新たなエネルギー体である。
これは我々が用いる『桃李』や『美髭』『燕人』と言った強化武装等の動力源となるのだが、以外にも、人体に微量なりとも投与すれば驚異的な治癒力や身体能力が得られるという検証結果も出ている。
つまり医学、エネルギー問題、生産性の向上、そして軍事とありとあらゆる分野に変革をもたらす代物であり、それに伴う莫大な利益が生じることは疑いの余地もない。
その源泉とも言うべきものは、巨人の腕の化石としか思えない形状の岩盤である。
ゆえにその死後、肉体が森羅万象へと変化したという中国の創造神、盤古にちなんで名付けられた。
化石燃料という言葉が既にあるが、まさしく我々は十億トンの石油の源泉以上の偉大な資産を掘り当てたと言って良い。
が、その研究は遅々として進んでいないのが現状である。
なぜなら、我らが調査に及んだ時にはすでにその含有量は三割ほどしかなく、七割は消失していたからだ。
……ならば、その七割はどこへ消えた?
一体どこに、いや誰に入っているか。
発生した事故から二年の時を経て、我々はようやくその答えを得ようとしていた。
…………
花見大悟は、まるで己の精神が二つに割れてしまったような、そんな夢現の感覚の中にいた。
一方で自分は眠りの中にいて、その一方でそんな自身を冷静に見つめる自分がいる。
薄く開けた目から光が差し込む。
そこでようやく、ブレていた花見大悟の意識が、一つとなって覚醒した。
「……っ!」
起き上がると、そこは見たこともない部屋だった。
だが、安上がりな家具や調度品や、棚に飾られたコピーの聖書で、どういう部屋なのかは分かる。
どこぞの、ビジネスホテルだろう。
腹の痛みがぶり返す。思い出した。
あの異形同士の戦いの後、立つに立てなくなった自分はキハルに伴われてホテルで休ませてもらったのだ。
色々問題はあるだろうが、夜のうちに抜ければ問題ない。……と思いつつも、結局疲労はピーグで、眠りこけてしまったのだろう。
「あっ、起きた」
隣から聞こえてきたのは、キハルの声。
「っ! お前、いったい!?」
頭の中に弾ける様々な疑問。その一端でも聞くことが出来たらと思い、顔を上げる。
が、次の瞬間、大悟の顔はギシリと歪んで固まった。
「よっ」
だが、生徒相手にそんな顔をした自分を、非難できる人間がいるだろうか?
いるわけがない。
この女子高生が、実はローブ姿の怪人だとかは問題じゃない。
隣に座る教え子がバスタオル一枚でいて、固まらないほうがどうかしている。
湯上がり直後らしい。細い亜麻色の髪をきれいに束ねている最中だった。わずかに火照った白い素肌を、大悟の目に晒す。
ほどよく引き締まった手足を目で追って行くと、バスタオルにくるまれた女性らしい身体の流線が、強烈な印象として焼きつく。
青い果実のように、瑞々しさと若さがありながら、その内に柔らかさを秘めている。
半裸体の美少女が、ニコニコと、恥じらいもせず大悟に身を寄せているのである。
人の美醜にこだわらない大悟でも、思わず拝みたくなる美体だ。
だが、彼女は十歳も年下の小娘だった。
担任するクラスの生徒だった。
それと、一つベッドの上にいる。
どう見ても、不祥事だ。
彼女の姿に見惚れるよりも、
「私の人生終わったぁぁぁぁ!」
……と、嘆く方が先だった。