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第三話「己を知るために」(1)

 件名:Re:忠告

 >相変わらず君の発想は、柔軟さと闊達さ、そして突飛さと無礼さに溢れている。報告書というよりは我が目を疑った。

 >まさか私を通さずして黙れ本家に直接連絡をつけよう黙れとするなど、これは重要な背信行為である。組織内に亀裂をもたらす黙れ一大事だとは君は思わないか。

 >念のため、君の端末を傍受しておいたおかげで、あの恥ずかしい文章は無事送られずに黙れ済んだよ。感謝だまれして黙れ欲黙れしだまれい。

 >自分の職務黙れ黙れも全うできず、よくもここまでご大層な文句が書けるものだとうるさい黙れ感心さえしてしまう。

 >他人の讒言などしているうるさいゆとりがあったらうるさいうるさい本来の任務に精励したまえ。


 >本部より通達があった。

 >捕獲作戦から、討伐任務に変更。これより我らは、一切の手段を問わず対象Sを抹殺する。

 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ


…………


 ミツボシ鉄鋼本社。

 二十五階の会議室では、報告会の後片付けが行われていた。

 床に散乱する書類、叩き割られてヒビの入ったデスク。脚の歪んだチェア。

 動員した人間の質というものもあるだろうが、相当荒れた内容となったその痕跡が、所々に見られていた。

 その比較的片付いたスペースで、射場重藤は端末を睨み、露骨に舌打ちした。


「上司からの忠告も無視か。まったく良い度胸をしているな」

 

 その呟きに、背後の少女はデスクに残ったコーヒーカップを片付けるその手を止めて、首を傾げた。

 困ったような微笑を浮かべるその顔立ちは、幼さを残している。外見の割には背の高い少女で、一六○センチをオーバーしていた。

 やや水気に乏しい髪を後ろで束ねた少女の笑みは、中性的ながらたっぷりと魅力を含んでいた。


「聞いたぞ、射場! いったいどういうつもりだ!?」


 そこに怒鳴り込んできたのは、そのビルの主であるはずの三村佐野助だった。

 眉間と鼻に作った溝に滝のような汗が流れて、したたり落ちる。そんな彼の浅ましさを嗤うかのように、重藤は冷視し、鼻を鳴らした。


「公共の施設を白昼襲うとは一体どういう了見だと訊いている! いやそれならまだ良い! そのうえ負けたじゃないか! 最もコストと年月のかかった『盤龍鱗』だったんだぞ! この報告会だってそうだっ。わたしには無断で開いておいて、こっちには何の情報も与えない! ……このことは『本家』に報告させてもらう」


 一気にまくし立てた彼は、そのまま踵を返して室内を出ようとする。その足を、


「『本家』に報告されて困るのは、どちらですかな社長」

 という重藤の恫喝が止める。


「……なんだと?」

 三村は転身した。いつもは見せない勇気、いや怒りをたぎらせて詰め寄る彼と、彼の相手を、少女は緊迫した面持ちで相互に眺めていた。


「まずは理由にお答えしましょう。白昼堂々学校で『司空』を襲ったのは、そのタイミングとその場所が、彼女に十全の力を引き出させない環境であったため。事実、今まで後手に回っていた我々が、一時的にだが攻勢に転じることができた。『燕人』は確かに廃棄となりましたが、戦闘中に回収、および戦闘地域一帯に残有していた『盤古片』は『桃李』が確保しています。量、質ともに、『燕人』の奮戦と破壊に見合う以上であったことを保証します。……次に報告会の件ですが……貴方にはもはやご出席いただく必要がなくなりました」

「どういう、意味だ……?」

「それを言わねばなりませんか」


 重藤は、落ち込み気味の肩をすくめた。とぼけた顔を作ったままに、彼の右手が持ち上がった。

 すると室外で待機していた黒服の人員が五名ほど、すぐさまなだれ込み、中年男の太い腕を背後から押さえつけた。


「三村佐野助。貴方には我々への上納金を密かに着服している疑いがあります。よって本日、『本家』への更迭が決定した」

「い……射場くん……これは……」

 物理的な制圧と、社会的な制圧。その双方から苛まれ、みるみるうちに三村の覇気は喪われていった。

 弱く語気の末尾、彼が告げようとしていたのは弁解か。それともなお燃え尽きない彼の怒りだったのか。

 それが分からないままに、彼は室外へと連れて行かれた。


「……ふん、クズが」


 目を眇めて横広い背を見送った重藤は、一転して穏やかで優しげな目を少女に向けた。

 肩に手を置き、『盤龍鱗』のシリンダーを彼女の両手に握らせた。

「さて、そろそろおしまいにしようか。あいつと協力し、今度こそ『司空』の息の根を止めてやれ。きっと、めでたい初陣になる」

「はい、父さん」


 手の中に確かな感触を感じながら、十二歳の少女は使命感と共に強く頷いた。

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