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プロローグ
眠っていたらしい。
花見大悟は深い眠りから覚醒した。
目の前には満天の星空。
視界を侵食するように桜が広がり、ぬるい風が濡れた首筋を撫でて行く。
そして、
「あ、起きた」
頬に、すべすべとした股が当たっていた。
ウールとポリエステルの合成繊維の向こう側に、ちょうどいい細さの足がすっぽりと収まっている。
膝枕、されていた。
言葉もなく呆然とする彼を、幼くも美しい顔立ちが覗き込んでいる。
花見大悟。
独身。
二十三歳。
職業、教師。
もう一度言う、独身。
いわゆる『元カノ』にもされることのなかった、膝枕。
しかも、日本的な慎ましげな美人に、一つ問題があるとすれば、
「いい加減おりてくれよ。足が痺れる」
天真爛漫に笑うこの可憐な少女が、恋人でもなんでもなく、自らの生徒ということだった。
そして、百メートル四方に散って乱れる斬撃の痕跡、それに囲まれていながら、この笑顔ということだった。