真実の扉
「なっ!!!なに!!!いったいどういうことなんだ!ありえん!!」
激昂する王に彼女は言った。
「私が黒団を率いていることは大神官様もご存じよ。傭兵団の結成の時に立ち会ってくださったもの。暗黒時代以降の傭兵団の結成には神官に戦乱を起こす意図は持たないと誓わなくてはいけないことぐらい知っているでしょ。あの方に聞いてみればわかるわよ。11の小娘の言うことなんてどの神官も聞いてくれなくて唯一聞いてくれたのが大神官様だもの。あの方がいなければ黒団は結成できなかったわ」
一神教のこの世界では神殿のトップである大神官は神の代理人とも言われ、その影響力は一国の王をも凌ぐ存在である。
幼少期に良い大人に恵まれなかった彼女にとって唯一、尊敬に値するのが大神官だった。彼は、子供だからと言って真剣に語る彼女をないがしろにすることもなく後の幹部となる人間や支援者を引き合わせたりと黒団の後見人のような存在だった。
「なっ大神官様だと…」
「陛下。あなたが少しでも本当に私を見ようとしたのなら気づいたはずよ。違和感にね。」
「なに…どういうことだ?」思い当たる節がない王は不審げに問う。
「私がなぜ輿に乗って移動しているのか、侍従を離さないのか、式典以外では祖国のドレスを着ているのか、あなたちゃんと考えたことある?わかりやすくしたつもりだったんだけどね。私への接触を制限して監視していたのになぜわからないのかしら」
そうため息をつきながら彼女は近くの騎士に紙の束を渡した。
「これを見て、よく考えなさい。欺瞞の愛から目を覚まして真実の愛に気づきなさい。真実の欠片はあなたの身近な人が持っているわ」
そういって彼女は黒団を引き連れて悠然と去って行った。
思わせぶりな彼女の言葉の意図がわからぬ王に違和感の片鱗をつかんだ宰相、そしてそれを見守る騎士団長。
隠された真実の扉を開く鍵を持っているのは誰?