そして密約がなされる
カイルが本領発揮してきました。
そう彼は団長大好きの腹黒イケメンです。
「では正妃さまをください」
まるで八百屋でリンゴをくださいと言っているかのようにカイルはさらっと爆弾を落とした。
「せいひ・・・正妃・・・ってミルガルドのことか?」
「ミルガルド・クシャナ・セイヤード・キリク様のことです」
公式の場とはいえ半パニック状態の様子なのに親しい者が呼ぶはずの真名ではなく呼び名を使う王は伴侶である正妃との不仲は本当だと公に知らしめたことに気づいてはいなかった。
宰相はそれに気づき、さすがに苦い顔をしながらもカイルに「それは正妃様を金貨7千枚と引き換えろと?そのような非道は・・」と苦言したがそれを、いいじゃないかと王が宰相の言葉をさえぎった。
「恥ずかしい話だが、正妃の贅沢で国庫も圧迫されたし、子も出来ないから正妃にしておくのはどうかと話しあっていたからな。ちょうどいいじゃないか。ただ、正妃の意思もあるし、いくらなんでも我らが嫌がる正妃を金で傭兵団に売ったと思われれば外聞が悪いにも程があるからな」
「でしたら、我らが見事に竜7体を撃退致しましたらミルガルド妃殿下を我ら黒団に褒美として下賜いただけませんか。そうして頂けるなら金貨3千枚も何もいりませぬ。また、妃殿下のご意志を優先して頂いて結構です。妃殿下のご了承がいただけなければ残念ですが金貨5千枚で請け負いましょう」
カイルから好条件を引き出した王は満足げに言った。
「それならばいいだろう。宰相もそれでいいな」
「はい、王の仰せに従います」
金以外を欲しがったことがない傭兵団にセイヤード国の元正妃を褒美としてやればより恩義を与えられ、ほかの国よりも近づけるとの思いもあったし、金食い虫はいなくなるうえ、国の為に妃を失った慈悲深い可哀相な王という美談にするのは簡単だったからだ。
高慢な女だから傭兵団に受け渡し彼らの子でも孕めばすぐにでも死を選ぶだろうから子が出来ぬように薬を飲ませることもないかとゆがんだ笑みを浮かべた。
己の母に似た黒髪の王族の女。それは、彼にとってもっとも嫌う存在だった。
政略結婚のため恋人と引き離された母は息子を顧みることなく本を読んでいるか、窓際で自慢の長い黒髪をすいて空を見上げる人形だった。
寵姫はそんな母を持つ自分をかわいそうにと可愛がってくれた腹違いの妹の乳母の娘だった。天真爛漫で素直な彼女を愛し母のことを忘れたと思っていたが、寵姫を守るには一時的な正妃の存在が必要になった時に彼は母に似た黒髪の王族の女を犠牲に選んだ。彼女の存在を無視することにより自分に無関心のまま死んだ母に復讐できた気がした。正妃が嫌がっても傭兵団に渡す気な彼にとってあくまでも、正妃ミルガルドは駒か母への復讐のための人形であった。
そんな人形をなぜほしがるのかと問う、正妃へのゆがんだ悪意を隠しきれぬ王に唾棄したい気持ちを隠し、カイルはにこやかに笑って言った。
「我らにとって黒竜を倒す前から黒は特別な色なのです。なぜなら団長が黒髪だからです。われわれ黒団は団長に心酔しているがために傭兵団を結成したのです。10年がたち、その節目として敬愛する団長に捧げものを探しておりました。団長にあやかり多くの黒い美しく高貴なものを集めましたが、どれも喜んでもらえず…何なら喜んでいただけるのか問うたところ、自分のような黒髪は少ないからこういう髪をもったものが欲しいと、あの何も欲しがらぬ団長が…。正妃様は美しい黒髪の持ち主と聞きました。あの方なら団長も喜んでくれると思いまして」
正体不明の黒団の団長は黒髪であり黒髪フェチで団員は団長フェチなんだろうかとさっきまでの冷静ぶりはどこにやらとい様子で団長についての熱い思いを語るカイルに周囲は若干ひいていた。