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そして彼らはやってくる

竜襲撃の謎です。

彼と彼女の裏事情でお気づきの方もいたと思いますが…そうあれが原因です。

「姫さん、砂竜がいつもの頼むってさ。あんなかっこつけて去ってすぐにあの国に行くのも嫌だからそっちに行くって言っておいた」


カイルにそういわれて、もうそんな時期かとミルガルドは準備を始めた。


「じゃあ、砂竜の里に行ってくるわ」


そういって彼女は愛用の剣を腰に差し、砂竜の里に向かっていった。


人と意志の疎通ができないと思われている竜たちだが、実はある方法で人との念話が可能になるのだ。

それは竜にとってあまり知られたくない情報なので、秘匿されていた。

黒竜の生まれ変わりの彼女とて、そのやり方を教えたのは幹部しかいない。

それを教えても大丈夫な人間しか幹部にはなれないと言った方がいいだろうか。


その方法とは竜石を飲むことである。

この竜石は竜の心臓部にあり、竜の命ともいえるものだ。

これを飲むと人は竜に近くなり、強靭な力と強い生命力を手に入れることになる。

そして、竜が飲んだ人間を仲間と誤認するために竜との念話が可能になるのだ。


竜は不死身ではない。

ミルガルドが運悪く崖から落ち死んだ様に、当たり所が悪ければ竜の鱗も役には立たない。

大勢の人が竜を襲えば竜を殺し竜石を手に入れることは可能なのだ。

その為、竜は死ぬと仲間が死骸から竜石を取り出し竜の里に保管する。

竜は人が使えぬ術を使い、目くらましの結界のようなものを張り竜の里を守っている為、人が入ることはかなわないからだ。


ミルガルドは自身の記憶をもとに竜だった自分の死骸を探しだし、竜石を手に入れた。

彼女は念話が届く所に竜がいない状況で死んだために、仲間に自分の死を知らせることは出来なかった。

その為、死骸がそのままだという確信があったからだ。

だが、その場所に行けるまでには3年ほどかかった。

仲間を作り、剣技を鍛え、そして彼女はかつての仲間との再会を果たすことが出来た。

まぁ、その際に元夫の黒竜の浮気疑惑などの騒動が起こったが、竜は人になった彼女を歓迎した。

彼女の仲間に里にため込んだ竜石を与えるぐらいには。


そのため、彼女と幹部たちは竜との念話が可能なのである。

そして、竜が彼女達を歓迎したのにはもう一つ理由がある。

それが、彼女が砂竜の里に呼ばれた理由であり、彼女たちが竜撃退を仕事にしている理由でもある。


『よく来たな、ミル。今回はこの子を頼む。何しろ初めてでな、うまく出来んようだ』


そう里に来た彼女を迎え、念話で話すのは砂竜の長老である。彼の足もとには小さな砂竜がいる。


『はいはい、任せて!大丈夫よ、痛いのはちょっとだけよ』


そういって小さな砂竜の体の背中の部分に切りつけるミルガルド。

見守る他の竜も切られた子竜も平然としている。


『ありがと!これで大丈夫そう!』


そういって子竜は突然、体を丸く縮めたかと思ったら背中からずるずると何かを脱ぎ始めた。

そう、彼らは脱皮するのである。


『ありがとう、ミルよ。我らでは皮にだけ傷を付けるなんて器用なことはできないからな。』


『いいのよ、竜の鱗って高く売れるし。気にしないでちょうだい。私も脱皮の失敗で竜が死ぬのは見たくなかったしね。』


実は脱皮が苦手な子竜や個体がいるのだ。

鱗を避けて皮に傷を少しつければ脱皮は簡単なのだが、彼らは巨体ゆえか、力加減が下手な為に深い傷になってしまうのである。

脱皮時期の新しい鱗は柔らかく、深い傷は命取りになってしまう為に、仲間の手助けは難しいのである。

岩などに体をこすりつけて上手く傷を付ける竜もいるが、強い個体ほど鱗が固く、上手に傷がつけられないのである。

そして、脱皮時期に脱皮が出来なければ鱗が二重となる為に、やはり命を落としてしまう。

弱い生物にわざと傷をつけさせようにも、野生の動物は本能が強く、竜を見た途端に逃げてしまい無理だった。

そこで、竜が目をつけたのが人である。


彼らは本能が薄いのか竜を見ていったんは逃げるが多くを連れて立ち向かってくる。


そして彼らの持つ武器は竜にとって浅い傷を付けるのにちょうどよかった。


その為に、脱皮がうまくいかない竜は人里に行って適当に物を壊し、傷を付けてもらって帰って来ていた。それは長い間有効な手段だったが、人が力をつけ始めたのか傷が深く付きすぎてしまい脱皮に失敗して死んでしまう個体も出てきた。

特に飛べないタイプの竜は囲まれ一か所を集中して狙われると逃げられず殺されてしまうこともあった。

脱皮に失敗しても死ぬために人を恨むことはないが、そうなれば竜石の回収も出来ないために、竜石の秘密に気づかれたくない竜の悩みの種だった。


そんな時にミルガルドが竜の記憶を持ったまま人に生まれたのである。

彼女は竜石の秘密も大切さも脱皮の辛さも知っていて、力加減も意思の疎通もできるという奇跡の様な存在だった。だからこそ、彼女は再び、ちょっと変わった仲間として歓迎されたのである。


そして、彼女によって竜の襲撃への対抗手段は傷をある程度、何か所かにつけて竜が逃げるのを待つという方法に変わった。

そのために、竜は安全に人間に傷を付けてもらい脱皮することが可能になった。

もちろん、そんな事情は彼女や黒団幹部達しか知らない。


彼女は人間の立場から竜を守るのだ。

竜退治の英雄として、自分たちが死んだあとも長く生きる竜たちが困らないように。

竜と人との秘密の架け橋として…。


そして彼らはやってくる。

そう脱皮の為に…。


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