違和感の正体
予定よりシリアス回が長くなってしまっています。
申し訳ございません。
セイヤード国の闇はもうすぐ晴れる予定です。
彼女たちが去った後、情報の整理を行うためにも3人の男たちは王の執務室で話し合うことにした。
むさぼるように彼女の残した資料を読む宰相。
「違和感…いったい何のことだ!欺瞞の愛だの真実の愛だのなんの戯曲だ!!!」
そういって、彼女のいう真実とは一体なんなのだと頭を抱える王。
「アセイ、一つわかった」
幼馴染ということもあるが王の真名を呼べるほど信頼される寡黙な騎士団長は王にそう声をかけた。
「なにがだ?」
「彼女が輿に乗っていた理由」
「ただのわがままじゃないのか?」
「足さばきを隠すためだろう、婚儀の時は緊張のせいかと思ったが、左足を地面に擦るように歩いていた。あれは帯剣して歩くことがくせになっている者の歩き方だ。それにあの輿なら薄布で囲まれているから印象をあいまいに出来る。初めて間近で見たがあの強い目はただの高慢な姫とは思えないからな。侍従を介して話していたのも声に気づかせないためだろう。以前、遠征中に黒団団長の戦いを見たことがあるが、指示の声が戦場でもよく通るんだ。女のような高い声なのに威力があって、支配者の声とはああいうものかと思ったほどだ。それと侍従たちだが、気配が薄い上にかなり腕がたちそうだ」
武人として優れた観察眼を持つ騎士団長はなぜ、気づくことが出来なかったのかとため息をついた。
「なるほど、諜報兼護衛ですね。彼女はこの3年かなりの襲撃を受けていたようですね」
資料を読み終わった宰相が言葉をはさむ。
「なに?そんな報告は受けていないぞ」
「彼女の宮に配されていた使用人たちの入れ替わりが多すぎるんです。しかも、すぐにいなくなるのは経歴が辿れぬ者ばかりです。アセイ、私は寵姫様を正妃にすることは認められません」
「なにをいってる!!!正妃への襲撃をマーリアがやったとでもいうのか!!」
「まあ、寵姫様の一派の仕業でしょうが、それだけではございません。これをごらんください。正妃様が使ったとされた費用ですが、門番の記録によれば彼女のもとには王室御用達の店が新年の時の衣装を作る時だけ来ているのが確認できます。それ以外の訪問の記録がないのです。あの多額のドレスや宝飾品をうった者たちは一体、どこで彼女にそれを売ったのでしょう。彼女や侍従たちが宮を出た時は監視に会った人間をすべて報告させておりました。ただ、門番には不審な来訪者を報告しろと・・・記録のすべてを報告させていれば、来ているはずのものが来ていないのに請求だけ来ていることに気づけたはずでした。祖国のドレスだったのも新しく作らせていないことを我らに気づかせるためだったのでしょう。それをこの国になじむ気はないという意思表示と思い込んでしまった…私のミスです」
「店が請求を間違えただけじゃないのか!門番を取り込んでいたんじゃないのか?」
「門番は近衛に日替わりでやらせておりました。取り込むことは不可能でしょう。
そして、多額の費用を請求してきた店は全て寵姫様のお気に入りの店です」
「なに、マーリアの…?まさか…」
「陛下、目をお覚ましください。私も調べておりました。あまりにも寵姫様一派の羽振りが良いので、どこから費用を得ているのかと。まさか正妃様の費用の流用とは…。この資料によれば正妃様は寵姫様の3分の1もつかっておりません。私が追えなかった金額と一致します。この資料は正しいです。これほどの情報収集能力を持つ人材を逃すとは…不覚でした」
「そんなはずは・・・」
「宮中を整理しなくてはいけないな」そう騎士団長はため息をついた。
「もう、正妃様もおりませんし、すぐに新たな方得ることもを難しいでしょう。
ひとまず、フィア王子を王太子にすることは認めますが、寵姫様は離宮にいっていただきましょう」
寵姫を罪に問えば王の子が罪人の子となってしまう。ほかに王の子がいない今はそれは出来なかった。
そのため、正妃の隔離用だった離宮にて寵姫を軟禁することを宰相は提案した。
「マーリアが何をしたというんだ!彼女は俺の救いだ!彼女がいなければ!!!」
頭では理解しても心ではその提案を受けいることが出来ない王はそう嘆いた。
「アセイ、なぜお前はそんなに彼女に執着するんだ?彼女のどこがいいんだ?顔もミルガルド様より相当劣るし、内面もあまりいい噂も聞かないぞ。護衛の騎士によればお前がいる時といない時じゃ侍女への対応も真逆だそうだし。茶会などでもずいぶんと傲慢だと聞いている」
部下からの報告を聞いてはいたが、社交の場でしか彼女と会ったことがない騎士団長には彼女の魅力はまったくわかっていなかった。
王より5つほど年上の彼はアセイが10になるころには戦場にいた。
戦の後始末を終えて戻ってきたときには8年ほどの時が経ちアセイは18、自分は23になっていた。その間に先王は逝去しアセイは17で王となっていた上に、マーリアが王女を生んでいた。彼女の出自に不満はあったが先王たちが許したのだからと、何も言わなかったことを彼は一生悔やむこととなった。