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第二戦 『とある男と《世界》の闘争』

 てっきり需要が無いと思って放置してたのに…。


 読んでくれる人がいる以上、書かない訳にはいくまいて。



第2節


 かつて、戦争の根絶を夢見た男がいた。

 男の名は、《覇道正義はどうまさよし》。


 現・覇道財閥総帥にして、実に世界の半分を手中にする男の名前だ。


 彼は幼少期、誰よりも正義の味方に憧れた。

 彼の『正義』に対する『悪』は、常に《戦争》だった。


 無慈悲に、無意味に、無作為に、無秩序に、無情に、無駄に、無限に、ただただ限りある命を奪いゆく《戦争》こそ、彼の最大の『悪』であり、『敵』だった。


 彼は《戦争》の原因は貧困や、経済格差、宗教格差などの、ようは『差』にあると考えた。


 そこで、彼は一つの会社を興す。


 元々、彼にはその才能と天運が有ったのだろう、その会社は一代にして巨大な世界企業へと発展し、やがて世界の利潤の半分を操る程に成長した。


 だが、ここに来て彼は自らの過ちに気付く。


 何故なら、世界の二分の一を手中にした後も、戦争は無くならなかったのだ。


 戦争は『差』のみによっておこるものに非ず。


 人々の『感情』からも、戦争の火種は熾るのだ。


 この事に気付いた覇道だったが、既に時遅し。


 会社は方向転換できないほどに肥大化し、自身も老衰の最中にあったのだ。


 このままでは、自分の興した『覇道財閥』の後継者を争って、それこそ《戦争》が起きかねなかったのだ。


 戦争を根絶する為に興した会社が、戦争の火種を熾すとは、もはや笑い話にしかならなかった。


 老い先短い彼は考える。


 『差』だけでなく、『感情』によっても戦争が起きるのならば、それらを全て真っ平らにできるほどの『力』が有れば良い。


 だが、『力』だけでは駄目だ、そこに『感情』が無くては『感情』によって戦争が引き起こされるのを止めることが出来ない。


 そう結論した彼は、全世界に対して、ある告知をしたのだった。


 それこそが、戦争根絶戦闘闘技大会《ラグナロク》。


 北欧神話の最終戦争の名を冠したこの大会は、その名の通り、戦争を根絶する為の戦闘の祭典だ。


 優勝賞品は『覇道財閥総帥の座』。つまり、『世界の半分』である。


 この告知に全世界がどよめいた。


 だが、そのどよめきはすぐさま鎮火することになる。

 何故なら、この大会の参加資格は『意思を持つもの』。


 脳を持つ者のみならず、AIなどの人工知能、果ては遠隔制御の兵器すら参加を認められるのだ。


 この世界において、戦闘用ロボットが実用化されて久しく、戦場は『命の奪い合い』の場ではなく、『命を奪う』だけの場へと変化していた。

 同時に生物兵器などの多様性に富んだ自律兵器の台頭、ロボットの巨大化、生物の脳とリンクする制御装置の発明。


 改造人間、人造人間、半獣人に、空想生物の生物兵器も登場した。


 ここまでくると、もはやちょっとしたファンタジーだ。


 これらの兵器群が参加する事に加え、ルールがたったの三つしか無かったのだ。


 すなわち、


『一つ、指定の領域以外での戦闘行為の禁止』


『一つ、復元・代替不可能な部位、部品、個体の破壊の禁止』


『一つ、最後まで立っていた者が勝者となる』


 これだけだった。

 これでは、ルールなど無いに等しい。


 二つ目のルール、復元・代替不可物の破壊の禁止は、兵器ではない個人の参加を擁護するものであるが、誰が好きこのんで兵器群の戦闘に突っ込んで行くだろうか。


 命の奪い合いを禁じた場所で、命の奪い合いの真似事をするのだ。

 まさしく、この世界の戦場の縮図でもあった。


 そして、勝者には敗者の『全て』が与えられる。


 すなわち、その兵器のみならず、技術、技術者、権利など、そのバックボーンに存在する企業や研究所すらも含めた『全て』だ。


 世界の半分を手に入れるか、『全て』を失うか。


 |オール・オア・ナッシング《全か無か》とは、まさにこの事だった。


 リスクは果てしなく大きかったが、覇道財閥の持つ『世界の二分の一』というのは人を狂わせるほどに大きかった。


 最初は傍観を決め込んでいた企業や研究所も、どこそこの企業が参戦した、あそこの研究所も出るらしい、と聞くと、段々落ち着かなくなってくる。


 なんせ、参加しても参加しなくても、優勝賞品が『世界の二分の一』なのだ。そこに関わってこない人間の方が少数だろう。


 優勝すれば、『世界の半分』どころか、『世界の全て』を手にすることだって夢物語では無いのだから。


 最終的に、全世界を巻き込んだ大会が始まる事となった。


 兵器関連の、ありとあらゆる企業、研究所、並びに個人を呑み込んで、戦争根絶戦闘闘技大会《ラグナロク》は、かくして幕を上げたのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「づあ゛ぁ゛!?」


 もし、睡眠の途中で、1mの高さからコンクリートの地面に叩き付けられたとしよう。

 そんな状況で、人間と言うのはどんな声を発するのか、と問われたならば、俺は間違い無く、『ああ、それはね、「づあ゛ぁ゛!?」だよ』と答えるだろう。


 そんなくだらない事を考えつつ、痛む背中をさすりつつ、眠気まなこをさすりつつ、俺は立ち上がる。


 不思議な事に、ここは俺の寝室ではなく、何かの実験施設のようなコンクリートの壁に覆われたドームのような空間だった。火薬の匂いと、何かのガス臭に紛れて、血の鉄くさい匂いが充満している。


 危機感を煽るようなその匂いに、起きぬけの頭に喝を入れ、警戒態勢に入る。


 考えるのはまずこれだ。


 はて、俺は何故このような場所にいるのだろうか。


 痛みは有った、夢では無い。


 そう思い、周囲を見渡すと、いまだに重たい瞼も、糸で引っ張るが如く上がってしまうような光景が目に入って来る。


 なんと、狼男が女の子を襲っているのだ。しかも、真っ裸で。


 アキトは知る由も無かったが、その狼男は銃弾のシャワーを浴びて、数回ミンチになった後、再生していたのだが、狼男といえば《おがみ》、《おがみ》といえば狼男、と認識しているアキトにしてみれば、トチ狂った同族が少女を襲っているようにしか見えない。


 父や祖父ではない。それくらいの見分けは付く。


 とにかく、よく分からないが、少女が危機的状況に在り、今まさに狼男の腕が振り下ろされんとしているのは分かる。


 どうやら、狼男は何かに驚き、身を硬直させているようだ。その隙を逃すほど、本物の《おがみ》は甘く無い。


 いまだに靄がかかったような思考を振り払い、駆けだすと同時、口笛のような音色と共に《気》を練り上げる。


 指先に集中させたそれの、イメージは『クロウ』。

 切断の為のそれでは無い、生物の肉と骨を削ぎ落し、抉り取る『カタチ』。


 狼男と少女の間に身体を割り込むように滑り込ませ、一方の手で少女の腰を、もう一方の手で少女を掴む狼男の腕を狙う。


 アキトの敵意を感じたのか、狼男が慌てて動き出そうとするが、すでに遅い。


 静かに、しかしわずかな怒りを込めて、処刑宣告コール


「《拝無神流》、奥義が一、《虎爪コソウ》」


 すれ違いざまに奥義を叩きこむ。

 指の先から、《気》が狼男の腕に喰らいつき、捻じ曲げ、穿ち、削り取る。


 その一方で、少女を抱え上げ、勢いをそのままに、狼男との距離を取る。


(おっ、もっ…!?)


 女性に対して思う事では無いのかもしれないが、一見華奢に見えたその少女は、まるで金属か何かで出来ているのかと疑うほどに重かった。


 その重量に腕が千切れるような錯覚におちいりながらも、なんとか堪える事に成功し、少女の救出を果たす。


 その瞬間、


――――――オオオオオオオォォォォォォォォォッ!!!!!!???


 周りの壁から、まるで地鳴りのような歓声が聞こえてきたのだ。


 その上、


『おおっと!?これは突然のハプニングです!!突然の乱入者によって、フレイヤ選手、この危機的状況を脱しましたーーーー!!彼は一体何者なのでしょうか!?Dr柳田陣営の隠し玉なのかぁーー!?』


 まるで、興奮したスポーツや格闘技の実況者のような、いや『ような』ではなく、まるきりの実況が聞こえてきたのだった。


 スピーカーらしき物体は見当たらなかったが、このコンクリートのドーム中にワンワン響いている。


「おい!ちょっと待て!! これはアリなのか!?」


 狼男が周囲の壁に向かって、何事かを喚いている。


 よくよく見れば、周囲のコンクリート壁のちょっとした合間隙間に、カメラのレンズのような物がいくつも見え隠れしているのが分かる。


「は、え?は!?」


 正直、全く状況について行けない。


 だが、とりあえず《おがみ》たる理性を振り絞り、なんとか頭を回転させ、状況を分析する。


(いや、分かるかっ!!)


 分からなかった。


 目が覚めたら、アンダーグラウンドの闘技場のような場所で、見世物になっていた、なんて理解できようはずもない。


『突然の光と共に現れた、彼は一体何者なのか! 現在、データベースを洗っていますが、今の所全く検索に引っかかりません!! ですが、ここは戦争根絶戦闘闘技大会《ラグナロク》!! 飛び入りも一向に構いません!! このリングの上では、勝者こそが『全て』だぁ――――!!』


――――オオオオオオオオオォォォォォォォォッ!!!!!


 実況者の熱の入った声が聞こえてくる。その中の単語を拾うに、どうやらここは何かの格闘技の大会であろうことは、朧ながら理解出来た。


 だが、『戦争根絶』の部分がイマイチ理解出来なかった。


 それに、目の前に狼男がいる訳も。


 だが、悠長に状況に関して考察している場合では無くなったようだ。

 先ほどまで、何者かに抗議していた狼男だったが、どうやら言い分が通じなかったらしく、苛立ちの混じった視線がアキトを捉えた。


「まあいい…どの道、大した武装も無いみたいだしな。不用意に飛び込んできた事を後悔させてやる」


 狼男が何事かを呟く。


 先ほど、アキトが引き千切ったはずの右腕は、すでに再生されている。


 アキトの知っている狼男ならば、そうであって然るべきなのだが、彼はそこに違和感を感じずにはいられなかった。

 そもそも、《おがみ》であるならば、白銀の発光があるはずでだが、目の前の狼男にはそれが無い。


 そんな違和感を頭の隅に追いやりながら、アキトは必死に会話を試みる。


 まあ、一度は腕を千切っておきながら、今更ではあるのだが。


「ちょ、ちょっと待て!! これは何がどうなってるんだ? それにあんた、《おがみ》じゃ無いのか!?」


「はぁ!? 何を訳の分からねえ事を言ってやがる! 今さら命乞いか? 大丈夫だ、命までは取らねえよ、ルールだからな。命までは(・・・・)、な!!」


 そう言って、襲いかかって来る狼男。完全に聞く耳を持たないらしい。


(《おがみ》じゃ無いのか…?)


 考えるが、答えは出ない。


 少女を抱えつつ、回避に移るアキトは、ただこの状況に流され、翻弄されるばかりであった。


 ―――今はまだ。

 設定がなんとなく、『戦闘城塞マス○ヲ』に似てる気がするぜ…。

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