第2章『笑顔で…』
帰り道、後ろに気配を感じた幸希はフッと振り返る。
そこには、同じクラスで親友の
城川賢治が居た。
「学校、何で休んだ?」
城川は背が高かった。
「鈴佳か?」
黙る幸希。
「…やっぱり。良いか、お前が鈴佳ちゃんのこと好きだったのはわかる。でも鈴佳
ちゃんはもう……」
「うるせぇ!!てめぇに何がわかる!!」
幸希が話に割って入る。そして、小さく
「ゴメン…」
と言い小走りにその場を去っ
た。城川が言おうとしていた事はわかる。
でも、そんな事聞きたくなかった。
出しきった涙が込み上げ、目の前が霞んだ。
「黒須…さん?」
声を掛けられた気がしたが目が霞んで見えない。でも、聞きなれた声。恋だ。
目の涙を袖で拭い、声がした方向を見る。
「やっぱり黒須さんだ。学校来ませんでしたね。風邪ですか?」
恋の名字は鈴川。恋は鈴佳の友達だ。
「いや、風邪じゃない。」
ふーんと、言いながら近づいてくる。良い匂いがした。
そして、幸希の所まで来て一言。
「じゃあ、今から遊びに行きましょう」
一瞬の沈黙。
「えっ?」
「駄目…ですか?」
俯き、大きな溜め息。かなりのショックだったらしい。恋は続ける。
「そうですよね。黒須さんはいろいろ忙しいんですよね…変なこと言ってすいません
でした」
そう言って、踵を返す。普通なら、ここで恋を止めて
「遊びに行こう」
とでも言うの
かもしれない。でも、そんな気分にはなれない。
そう思い俯いていると、下からヌッと恋の顔が出てきた。
「うわっ」
驚いて1、2歩後退した。
それを見て恋は笑った。
「黒須さん元気出して。私、落ち込んでいる黒須さんは好きじゃない」
そう言って恋は背後に回り、幸希の脇をくすぐった。
「恋、止めろ。止めろって。くすぐってえよ」
「黒須さん。遊び、行きましょう」
幸希には断ることは出来なかった。
「おう」
「何処行きます?」
2人で歩く道、蝉の声がうるさい。
先程の雨で出来たのだろう。アスファルトの小さ
な水溜りを避けながら歩いた。
「えっ?考えてないのか?」
「はい」
長い沈黙。
・
・
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沈黙を破ったのは恋だった。
「…思い出巡り」
「はっ?」
恋の声が少し大きくなる。
「思い出巡り。鈴佳との思い出の地に行くんですよ。
それが、終ったとき何か得られるかも知れないですよ。行きましょう!!」
そう言って、恋は幸希の腕を引っ張る。
「ちょっと待て。何処に行くんだよ」
「思い出の場所ですよ」
「だから、具体的に何処?」
恋の足が止まり、くるっと振り向き笑って言った。
「出会いの場所。私と黒須さん、城川君、そして鈴佳が初めて出会った場所」
思い出した。
小高い丘の上、
小さな広場、
ベンチに腰掛けた女の子。
舞散る桜。
そうだ。あの日、あの場所で俺達は出会った。
「わかった。あの場所だな」
時計を見る。時計の針は午後二時。時間はたっぷりとある。
2人は丘へ向かって歩いて行った。