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第十六話 智と実

渋滞きらい・・・。


上り線は混んで大変でした~。皆どこでトイレしてるんでしょうね?(´・ω・`)

第十六話 智と実


 もう黙り込んでどのくらいの時間が経っただろうか。私はただただ混乱している。秋庭実の真実は、それだけ私には青天の霹靂となっていた。もう何がどうなっているのか分からない。ただ自分は今まで何も知らずにハーヴェストとして秋庭実に甘えていたと言う事実が恥かしかった。まともに秋庭実の顔を見られない。だって私は匿名なのをいいことに、素の自分で思いっきり彼に甘えていたのだから。


「ねえ、私達って今この世界で一番幸せなんじゃない?」


「この世界に生まれたかったな。そうすれば何も考えずにあなたと一緒に居られる。」


「もっといっぱいギュってして欲しいな。」


「キス出来ないのがもどかしいね。」


「ちゃんと触れてあなたを感じてみたいな。」


「秘密のデートって大好き。何だか悪いことしてるみたいだよね。」


「ずっと大好き。」


今までチャットでハーヴェストに囁いた甘い言葉。彼からはちゃんとした答えをもらったことはほとんど無い。当然だ。相手が誰か分かっていれば、私でもゲーム内とは言えとても口に出せなかっただろう。いつかハーヴェストに出会ったら、きっと恥かしさで私は押し潰されると思っていたし、彼の目を見れなくなっていたと思うから。それが唐突に本人を前にしているのだ。耳まで真っ赤に染まりながら、私は動くことも出来ない。


「やっぱりショックだよな・・・。」


動けない私に秋庭実は済まなそうな目を向けていた、と思う。彼の顔を見れないのだから、私の憶測だ。


「そりゃあね・・・。あなただって分かるでしょう?今まで私が何をして何を言っていたか知っているんだったら。」


「俺を恨むか?」


「出来れば殺して何も無かったことにしたいわ・・・。」


「だよなぁ。」


だけどそれは無理な話。犯罪だし、何より大好きな彼を手にかけることなど出来ないだろう。数え切れない愛の言葉、それは紛れも無く自分の本音だった。ゲームじゃなければ、一生こんな大胆な言葉は出てこなかったと思う。秋庭実は私に許してもらえないと言ったが、許されないのは私も同じ。裏返せば、彼は私と別の男のデートを常に目の当たりで見せ付けられていたという事。私は好きな相手が、ゲーム内でも別の女とベタベタしていたら耐えられないと思う。彼はそれに数ヶ月もの間耐え続けたのだ。決して自分に向かない言葉と知りながら、私のラブラブアタックに耐え続けていたと言うこと。どれだけ彼に傷を与えたか分からない。


「秋庭君、何だろう。私は何を言えばいいのかな?」


「何をって?」


「私はあなたに謝られてるけど、私のほうが知らなかったとは言え、あなたに対してひどいことをしてたと思うわ。黙ってて悪かったとかじゃなくて、言い出せない状況を私が作り上げていただけだと思う。だって、一花にバレた時には、もう私達に自分の素性を明かせない所まで来てた訳でしょ?」


「それは俺が悪かったよ。だって30歳のニートだなんて自己紹介しておいて、今さら同級生です。ましてや同じ大学ですなんて言えなかったんだから。最初の嘘から、俺は君に本当の自分を晒せなくなっていた。合コンで出会ったときは本当にびっくりしたよ。」


確かに最初に嘘を吐いた彼が悪いのかもしれない。些細な嘘が次の嘘を産み、嘘はまた一つまた一つと詰みあがり、遂には私達の間に巨大な壁を作り上げたのだ。一花はその壁をいとも簡単に飛び越えて彼の真実に飛び込んだ。あの娘のそんな所は、凄い才能だと思う。私なら嘘を見抜いた瞬間に平手でも出そうだけど、彼女は笑って「それがどうしたの?」くらい言ったのかもしれない。


「とにかく一度、俺達の関係を清算したい。その後の展開は君に任せる。」


「清算って・・・、もう終わらせるって事?」


「そうだ。この関係は一度終わらせないと、俺は次に進めない。君もそうだろう?」


この関係を終わらせる。それがどういう事なのかは分かる。もう二度とハーヴェストとして彼は私の傍に居てはくれないと言うこと。そう考えると、自分が如何にハーヴェストに支えられていたか分かった。考えただけで足がガクガクと恐怖に震えているのだから。


「ちょっと待って、突然過ぎて私は今決められないわ。」


「でももうハーヴェストは居なくなる。俺ももう君に二度と連絡は取れなくなると思う。」


ハーヴェストが居なくなる?秋庭実と連絡が取れなくなる?何故そこまで話が飛躍するのだろうか。


「だから待ってよっ!大体、居なくなられたら私困るんだけどっ!?」


「何で困るんだ?」


「それはその・・・、兎に角ちょっとだけ返事を待ってっ!」


私はもう叫んでいた。秋庭実もハーヴェストも同時に私の前から消えてしまう。そんなことが今の私に耐えられるわけが無い。


「じゃあ、一度君を送っていくよ。答えが出たら連絡をくれ。」


「・・・・・・うん。」


車内は沈黙だけが支配する。私は、アパートに着くと何も言わずに部屋に入った。秋庭実は私のことを『君』と呼んでいた。これが今の2人の正確な距離なのかもしれない。小さな溜息と共に、私は玄関で座り込んでしまった。





 すでに時計は昼を回っていた。彼の打ち明け話は長かったが、こんなに時間が経っていたとは思わなかった。私は暗い気持ちでお風呂の準備をする。とにかくサッパリして考えたい。今は頭の中がグチャグチャで、何を考えても纏まりはしないだろう。落ち着かなければならなかった。私はたっぷりと湯を張って、熱いお湯に体を沈める。昨日から体を洗っていなかったので、お湯がとても心地よい。お気に入りの入浴剤も、ハーブのいい香りで私を満たしてくれた。


「清算か~。何だか別れ話みたい。」


私は一人呟く。冷静に考えれば、これは別れ話の類に入るのだろう。でもゲームのキャラクターと別れ話など、ちょっと現実味が無い。私は秋庭実と付き合っていたわけでは無いのだから、彼との別れ話とはとても思えないのだ。ハーヴェストは未だに私の中では別人で、何だか全部現実では無いような気がしてくる。


(ハヴさんと別れる。そんなことあり得ない。秋庭君が私の前から居なくなる。もう会えなくなる。そんなこと考えたくない。もうどうしたらいいのか分からない。)


決断はもう迫られている。だけど私は、どちらも失いたくないのだ。我ながら最低だと思う。どっちも私のなんて贅沢な話だ。同一人物なのだからそれは違うのかもしれないけれど、私はどうしても別人だと思ってしまう。


(秋庭君には、色んな醜態も見られてるし、自然に接するなんて出来るのだろうか?それ以前に、次からはちゃんと付き合うことになると思う。その時、私は彼とちゃんと恋人になれるのだろうか?ハーヴェストとの関係は、どうすればいいのだろうか?ゲームではハーヴェストとして、私に接するつもりなのだろうか?そもそも、彼は冒険者を続けるのだろうか?もうっ!私はどうしたらいいのよっ!?)


私はもやもやしながらお風呂を出る。そして1つの結論が出た。今からまた彼に会おうと。彼の顔を見れば、きっと答えが出る。





 彼は今、従兄妹を迎えに空港に出たという。例の可愛い従兄妹だろう。午前中に着くはずだったけど、私との騒動で忘れていたらしい。激怒して電話してきた従兄妹に平謝りしながら、急いで空港に行くところだそうだ。家には一花を待たせているから、良ければ家で待っていて欲しいとメールが着た。


(そう言えば、今日はクリスマス・イブだったな。昨日の一件ですっかり忘れてた。どうりで皆浮かれた顔をしているわけだ。)


電車に揺られながら、私は車内を見渡してそう思った。午後5時、もう帰宅するサラリーマンや学生、他にも様々な人で車内は混雑していた。皆が幸せそうな顔をしているような錯覚に陥るけど、半分は当たりだろう。現にカップルで手を繋いでいる人や、プレゼントのような物を抱えた人、楽しそうに笑う親子など、今の私は目を背けたくなるような光景もちらほら見える。秋庭邸の最寄の駅に、私は初めて降りた。考えてみれば、タクシーか送迎でしか彼の家に行った記憶が無い。一花の家に遊びに行く時に、何度も通り過ぎた駅だったけど、初めて降りてみると、新鮮で違って見える。ちなみに一花と秋庭実に嫉妬した夜はタクシーで帰っている。早く家に帰り着きたかったからだ。あの後、酷い目にあったっけ。


(よく考えれば、秋庭君は私を何度も助けてくれてるな・・・。それだけ自分に隙があったってことなんだろうけど。でも彼が居なければ盟主に全てを奪われていたかもしれない。思えばあの時から私は彼を好きだと確信したんだった。それまでは漠然とハーヴェストと重ねて淡い恋心があっただけ。二又なんて言いたくないけど、彼らを別人と認識しながら好きになって随分悩んだなぁ・・・。)


駅を出ると、秋庭実の家まで歩く。時間にすれば10分くらいだけど、私は随分と遠回りをして彼の家に辿り着く。遂にここまで着てしまった。エントランスまで行くと、秋庭実が私を待っていた。


「遅かったな?」


「うん、色々考えながら着たんだ。」


「そっか、家は今、従兄妹と一花が睨み合ってるから外で話そう。」


「睨み合ってるのっ!?」


「そそ、チャムの取り合い。」


「ああ、そういう意味か。」


私は漠然と想像して、まだ見ぬ従兄妹さんの顔も知らないのに笑ってしまう。


「それで、ちゃんと考えてくれた?」


「ええ、ちゃんと考えたわ。」


ここに着くまでに、私は1つの結論を出していた。


「聞かせてくれるか?」


「ここではちょっとね。ねぇ、車でまたドライブに連れて行ってくれない。誰も邪魔の入らない場所へ。」


「いいよ、落ち着いて話せる場所へ行こう。」


そして2人で駐車場へ向かう。一花と従兄妹さんにはもう少し待ってもらわなければならない。





 案内された場所は何時かのダム。随分と長い時間、2人で車に揺られていた。終始無言。ダムに向かってるなと気付きながら、私は何も言わなかった。ここは2人の始まりの場所かもしれない。この時から、私は彼に淡い気持ちを持っていたのだから。


「・・・着いたぞ。」


車を小さな駐車場に停めた秋庭実は小さく言った。緊張しているのが凄く伝わってくる。私はもう結論を出していたので、そう緊張はしていない。


「あの時以来だな。どうしてもここを、もう一度君と見たかったんだ。」


「ここが初めてのデートだったから?」


「そうだな、あれがデートならそうだろうな。」


照れくさそうに微笑んだ秋庭実。私も釣られて笑う。


「で、どうするんだ?先に言わせてもらえば、俺の気持ちは変わらない。」


「結論を急いじゃう?」


「何だか焦らされてる?」


「そうかも。ちょっとは意地悪し返したいじゃない。」


「意地悪ってお前・・・。」


「秋庭君、あのね、私やっぱり今のままじゃ付き合うとか無理だと思うんだ。」


「やっぱりそうか。何となく分かってたよ・・・。」


「秋庭君に茶霧、そんな呼び方しか知らない私達じゃ恋人同士なんて無理でしょ?」


私は言葉を続ける。秋庭実はすっきりしたような顔をしていた。やはり少し沈んではいるが、やっと開放されたような晴れやかさも感じられる。そして、何か思いついたのだろう。私に向かうと、口を開けた。


「茶霧、俺を殴ってくれ。」


「どうしたの急にっ!?」


「男としてちゃんとケジメを付けたい。もう振られてるけど、これは君を騙していた俺への罰だ。思いっきり頼む。」


どこまでも真面目な男だなと私は苦笑いする。でも、これはいい切欠かもしれない。これから全てを始めるためにも。


「とんだ変態ね。ドMだったのかしら?」


「勘弁してくれよ・・・。これ以上言われるとダムに飛び込むぜ俺・・・?」


「冗談よ。じゃあ、きついのを一発あげるわ。目を閉じて歯を食いしばってっ!」


「わかったっ!」


そう言って秋庭実は目をギュッと閉じて口を真一文字に閉じる。私は左手を彼の頬に添えた。


「いくわよっ!覚悟はいいっ!?」


「!」


私は右手を振りかぶる。そして、ゆっくりと振り下ろして、そっと彼の左の頬に添えた。


「!?」


ビクリと一瞬だけ彼が体を揺らす。でも、私は彼の顔を固定して離さない。


「何だってんだ?」


彼がゆっくりと目を開ける。殴られると思っていたのだから顔は疑問の色を隠せない。


「きついのを一発って言ったでしょ?」


私は微笑んで、そのまま彼の唇に自分の唇を重ねた。ぴったりと重ね合わされた唇の感触に、彼はもう動かなかった。





 彼が動けないのをいいことに、私は随分と長い間唇を重ねていた。人生で2度目のキスは、ちゃんと自分の意思で出来たことに満足して私は彼を解放する。開放された秋庭実は、目をパチクリさせながら私を見た。


「茶霧っ!何の真似だよっ!?」


彼はひどく狼狽していた。きついビンタをもらうはずが、甘いキスをもらったのだ。その慌てた様子に、私はイタズラっぽく笑い返す。


「おっかしい。秋庭君の顔。」


「えっ!?あ、いや、何て言うかっ!?」


「あ、もう秋庭君じゃダメね。ねぇ、実って呼んでいい?」


「え、はい、あの、どうぞ・・・。」


「私の事も、今後は智って呼ぶことっ!いいわね実?」


「あ、はい、何と言うか・・・、はい。」


「よろしいっ!じゃあ、帰ろう?」


「はい。」


まだ腑に落ちない秋庭実は、車の中でも不思議そうな顔をしている。


「なぁ?」


「何?どうしたの?」


「俺って振られたんだよな?」


「そだよ、どうして?」


「いや、意味わかんないっす・・・。」


「私、茶霧さんは秋庭君を振りました。でも私、智は実と付き合いたいと思います。」


「どういう意味でしょうか・・・?」


「最初に言ったでしょ?茶霧、秋庭君って呼び合うんじゃ無理だって。でも、今後は名前で呼び合います。するとどうでしょう。私達はちゃんと恋人になれそうです。これでいい?」


「いやさっぱり・・・。」


「何よ?それとも嫌なの?やっぱりもう会わない?」


「いやっ!それは勘弁して欲しいです・・・。」


「じゃあ文句言わないっ!」


「・・・はい。」


私も不器用だ。実はとっくに心は決まっていたのだ。彼とちゃんと付き合おうと。でも、秋庭実とハーヴェストとしての彼には、きっとわだかまりを残すと思った。だから、全く新しい私達の関係を無理やりにでも作りたかったんだ。ただ名前で呼び合うだけだけど、無理やりだけど、私はこれでいいと思った。そして、微笑むとギアに掛けられた彼の手に、ソッと自分の手を重ね合わせた。

とりあえずのフィナーレになります。


この後、後日談なんか数話書くかもしれませんが、恋は決着を着けました。

続くようにしてますけど、これで最終話の可能性もあります。


感想としまして、作者には設定が無理すぎたという点ですね。オンラインゲームなんてほとんど噛んでないですもん。もう少しこの設定をうまく使いたかった。勿体無いことをしました。


登場人物は、やはり一花に一番の愛着がありましたね。天然は書きやすくていい。茶霧さんは美人という設定が少しハードル高かったです。後半はキャラを意図的に変えて、感情移入しやすくしたつもりですが如何でしたか?


初の恋愛小説、楽しんで頂けましたら書いた甲斐もあります。次はファンタジーか中二設定でも書いてみようかな?w

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