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第十五話 彼の秘密③【秋庭実side】

私の戦闘力は53万です。 byポロリの中の人


深い意味はありません(・ิω・ิ)

第十五話 彼の秘密③【秋庭実side】


 マンションの駐車場で一花と落ち合った。茶霧はまだ眠りから覚めない。仕方ないので、俺が背負って行こうとするが、四肢に力が無いためにズルリと落ちてしまう。面倒なのでお姫様だっこで部屋へ連れ帰った。一花も一緒なので、管理人には眠って起きないなどと言い訳しておく。来客用のベッドを俺がメイキングしている間に、一花はトイレに茶霧を連れて行き喉に指を突っ込んで胃の中身を全て吐かせた。茶霧はひどく咽たが、それでも目を覚まさない。口に水を含ませよく濯ぐと、顔に付いた汚れを落として、ベッドに寝かせた。


「あ、服が皺になっちゃうわね。ちょっと脱がすからみのりんは消えてっ!」


「消えてって・・・。」


「見たいの?」


「いや、そういうわけじゃ・・・。」


見たいに決まっている。


「じゃあさっさと出て行ってね。レディの着替えなんて見るものじゃ無いわよ?」


一花に恐い笑顔を向けられて、俺は渋々退散する。本当は見たいのもあるが、一向に目を覚まさない茶霧が心配で片時も傍を離れたくなかったのだが、仕方ない。身の回りの世話は、やはり同姓の一花が一番だった。20分もすると、一花からお許しが出て部屋へ入る。茶霧は清潔なTシャツを着て、化粧も綺麗に落とされている。アップされていた髪も結い紐を解かれて綺麗に櫛で梳かれていた。スゥスゥと寝息が規則正しく聞こえる。薬は一応1個ずつ奪ってきた。いざと言うときにきっと役に立つだろう。勿論悪用するのではなく、医者に見せる為の物だ。一花は脱がせた服を持って部屋を出て行く。ピンクの紐っぽいものが垂れていたけど、女性の服はよく分からない。確かピンクは着ていなかったはずだと思い返したが、どうでもいいことなのですぐに忘れてしまった。それで後々痛い目を見るが、その時は何とも思わなかった。その夜、一花はずっと茶霧の傍に座り込み、俺は落ち着かずリビングや自室を忙しなくウロウロしながら、結局一睡もできなかった。





 翌日、長い眠りから目覚めた茶霧は頭痛があっただけで、ケロリとしていた。薬による副作用は無いようだった。ただ、昨夜の記憶はほとんど無いらしく一花を激怒させ、心配していた俺は迂闊にも彼女のあられもない姿を見て全力でビンタを食らった。念のために病院へ連れて行ったが、薬も多分市販されている睡眠薬と、軽い興奮剤だろうということだ。血液検査だけ待って、違法な物かどうか判断したいと医者に言われた。俺は、帰りの車の中で、ハーヴェストとの関係の清算を持ちかけたが、あっさりと拒絶された。彼女はこの後もハーヴェストと付き合っていくつもりらしい。どうやら俺はまだハーヴェストとして彼女を支えてあげないといけないようだ。


(いつか秋庭実として彼女の傍に立ちたいもんだな・・・。)


俺の願いが叶うのはいつの事になるやらだ。今回の騒動で、少しは彼女の核心に迫れたつもりだったが、その後、1ヶ月以上も彼女からの連絡は無かった。そう簡単には心を許してくれないらしい。俺はまだしばらくハーヴェストとして、元気一杯のチャムの傍にいようと思っていた。その期間が長ければ長いほど、彼女の前に真の姿で出られなくなることを気付いていながら。





 もうすぐ学校の講義も終わる12月12日、従兄妹が俺の家にやってきた。名前は秋庭朋美。親父の妹の娘だったが、母親が離婚したので秋庭の性を名乗っている。俺の2歳年下で18歳、現役の女子高生だ。尤も、来年は卒業してうちの大学の経済学部に入学すると聞いた。馬鹿だと思っていたが、入学した商業高校では常にトップをキープする才女だったらしい。でもそれは商業高校のレベルだ。普通科の連中と違って、簿記やパソコンの資格などを大量に持っている以外、英語、数学などの知識はほぼ無い。なので商業高校からの生徒は初年度から一般教養で苦戦するらしい。その辺りを補助して欲しいので、俺の部屋に住まわせろと叔母からのお達しがあった。


(冗談じゃねえよ・・・。何で俺がチンチクリンの相手をせないかんのだ。)


でもこの街を案内はしないといけない。俺は地方から飛行機に乗ってやってきた従兄妹を迎えるために空港へ着ていた。もう3年は会っていない従兄妹。空港の掲示板は俺が到着した時には、すでに従兄妹の便の到着を掲示していた。


「もう着いてるな。たしかロビーで待ち合わせのはずだけど。」


広いロビーにはたくさんの人間が溢れ、荷物を持ち行き交っている。トランクをゴロゴロ引きながら歩くサラリーマンや旅行のような服装の家族連れ。多種多様な人間が交錯するロビーで3年前の面影だけを頼りに従兄妹を探さなければならない。手っ取り早く携帯に電話を掛けたが、搭乗した時に電源をOFFにしたのだろう。


「この電話は、電波の届かないとこ・・・・・」


「ちっ。」


俺は舌打ちしながら尚もロビーを見る。ふと1人の少女と目が合った。何処と無く見覚えがある。


「朋か?」


「実ちゃん?」


それでハッキリした。こいつが探していた従兄妹のようだ。いつの間にかすっかりと大人びている。前に会ったときは薄っぺらだった体もすっかりと成熟した女性のそれになっていた。従兄妹とは分かっていても、ついついその体に目を走らせてしまった。


「うわ、この人久しぶりに会った従兄妹にエロイ視線送ってるよ・・・。そんなだったっけ?」


言われて気付くがもう遅い。俺は慌てて否定したが、一緒に住む話はその日のうちに叔母に電話して却下した。


「実、従兄妹同士は結婚できるんだからあんたの嫁にやってもいいんだよ?」


叔母は大笑いしながらそう言ったものだ。ちなみに彼女と勘違いされた一花は朋美に鋭い視線を向けられて困ったそうだ。





 明日はメリークリスマス・イブ。俺は一花に呼び出され大学のカフェに向かっていた。茶霧からはこの1ヶ月何の連絡も無い。ハーヴェストとして毎日会っているので、彼女が相変わらず元気にしているのは知っている。だが、やはり顔も見れないのは苦痛だった。恋人として毎日会いながら、手の届く場所で指を咥えているしか出来ない自分にも嫌気が差す。どうしようもないが、これは自分が招いた結果だ。甘んじて受け入れるしか無いだろう。当然彼女をクリスマスに誘うなど無理な話だった。憂鬱な気持ちでカフェに向かう。今年のクリスマスは、冬休みに入った朋美と一花で3人寂しく(?)クリスマス会でもやろうと言う話になっている。朋美はもう大学進学を決めているので、就職活動や進学で必死な同級生とは遊んでもらえないらしく、俺に飛行機代をせびって遊びに来る予定だ。着くのは明日の午前中の予定だった。


(虚しい・・・。)


俺はまだ茶霧との楽しいクリスマスに未練タラタラだったが、もう一花には決定事項としてクリスマスを明けるように命令されていた。カフェで一花と待ち合わせも珍しいなと思いながら駐車場に車を停めると、メインストリート沿いにあるカフェに入る。店内を見回すと、一花の姿は無く、一人でボンヤリとしているとびきりの美女の姿を確認した。突然の事に声を掛けるか戸惑ったが、意を決して声を掛ける。


「茶霧じゃねえか。何してんだ?」


我ながら平静を装うのはうまいと思う。心拍数はすでに跳ね上がっていた。茶霧は、伏せていた顔を上げたが、その顔に一瞬引いてしまう。何故なら睨まれたからだ。


(何でキレてんだよっ!俺何かしたっけかっ!?)


「・・・一花と待ち合わせだよ。」


俺だと確認すると、茶霧はまた顔を伏せる。どうやら元気ではないらしい。俺は不思議に思っていた。昨日も冒険者で楽しくデートをしたはずだ。こんなに暗く沈んでいる理由が分からない。


「ふぅ~ん、俺も一花に呼び出されてるんだ。ここいいよな?」


そう言うと茶霧の向かい側の席に座り、コーヒーを注文する。また茶霧に睨まれた。意味が分からない。


「何だ?今日もご機嫌斜めだな。」


「・・・そんなんじゃないわよ。」


「そっか?でも機嫌悪そうに眉に皺を寄せてる顔のほうが見慣れてるかもな。うん、いつもの茶霧だ。」


またやってしまった。どうして悪態が先に立つのだろう。俺って奴はいつもそうだ。好きな女の子に意地悪したい小学生から成長しきれていないのだろう。男は何時までも少年の心を持ち、変わるのはオモチャの値段だけだと言う例え話を聞いたことがあるが、正にその通りだと思う。


「・・・やっぱり俺はお前に嫌われてるんだなぁ。」


俺は素直にそう言ってみた。この際、その辺をハッキリさせて自分にケジメを付けたいと言う気持ちが強くなっていたのだ。驚いたような目をして俺を見た茶霧だったが、また目を伏せる。


「一花は何も教えてくれないし、やっぱりあれ以来ろくに口も聞いてくれないとさ、堪えるよ。」


これも素直な言葉だ。


「・・・そうじゃない。」


「え?」


「き、嫌ってなんかいないよ。だからそんな顔しないで。」


嫌っていない。その事実は俺に微かな希望を持たせた。だけど、目を伏せている茶霧を見ているととてもそう楽観的には思えない。やはり俺は嫌われているなと結論せざるを得なかった。


「そうなのか?でもずっと避けられてる気がしてたんだけど・・・?」


「だ、だって秋庭君には色々と変なとこばかり見られてるし、何だか恥ずかしくて・・・ね。」


そんなことを気にしてまともに目も合わせてくれなかったらしい。確かに覚えはあり過ぎる。まあ女の子なら無理もないかと思った。


「そんなこと気にしないでいいのに。お前ってやっぱり真面目なんだな。」


返事は無い。無言の時間だけが過ぎていく。俺は耐え切れずに息を吐いてしまった。


「一花のやつ遅いな。もうとっくに時間は過ぎてるのに。」


我ながら白々しい台詞だった。でも何か切欠は欲しいのだ。茶霧はまだ無言だったが、不意に携帯を取り出して呟く。


「死ねばいいのに。」


俺はギョッとして茶霧を見てしまったが、茶霧は表情も変えずに一花からのメールがあった事を俺に告げる。そして、この後2人で買い物に行かねばならないことを教えてくれた。一花の意図は読めないが、俺は素直に2人で居られることを嬉しく思っていた。





 茶霧のメールから数分、俺の携帯も太鼓の音を奏でる。これは最近気に入って使っている着信音だ。茶霧はツボに入ったようで笑っている。そんな様子を見て俺も先ほどよりは幾分気分も楽になった。


「お、何か久しぶりに笑ったとこみたな。」


自然にそう口に出る。やはり茶霧は笑っている顔が最高に可愛いと思う。だがメールを開いた瞬間、俺は言葉が出なかった。


【メール】


一花ちゃんですよ!


指令1:買い物中は手を繋ぐこと。腕を組むのも可


指令2:キスとかしちゃってもいいのよ!


指令3:2時間だけなら遅れていいからね!


指令4:守らなかったらわかってるわね?( ̄∀ ̄)


【メール了】


「何コレ・・・?」


メールを見せた茶霧の反応は淡白だったが、やはり不信感はあるらしい。怪訝な顔をしていた。


「指令だって・・・。2と3は意味不明だけど・・・。」


「本当に意味不明だわ・・・。」


「買い物中は手を繋ぐって・・・、ちょっとなぁ?」


「そうね。秋庭君も困るでしょう?」


「え?いや・・・、お前がまたいらぬ誤解を受けるのが・・・。」


俺が困る理由は何一つ無い。だが、茶霧はまた要らぬ誤解を受けることになる。これ以上関係を悪化させるのは避けたかった。


「そうね・・・。でも指令4は何なの?あなた一花に弱味でも握られてるわけ?」


弱味と言えばそうだ。だけど、それを茶霧本人に知られるのは絶対に避けたかった。


「う~ん、そうだな。これをばらされると俺は首を括るか学校を辞めるかしないといけないかもしれない。」


本当にそうしそうな自分が恐い。


「そんな秘密なのっ!?秋庭君何したわけ???」


(あんたのせいだ。俺がこんなに恐がってるのは。)


「ははははは・・・。それは言えないから困るわけで・・・。」


俺は乾いた笑い声を上げながらそう弁解するしかなかった。茶霧は少し考えたような顔をしたが、不意に右手を差し出す。


「そりゃそうね。いいわ、ハイッ!」


俺は軽いパニックになる。何で素直にこんなアホな指令を実行する気になったのか疑問だったのだ。


「何の真似だ?」


驚いた俺は何度も茶霧の顔と手を見比べる。


「だからハイ。いいよ、手を繋ぐぐらい。」


「おいおい、一花のおふざけだぞ。見張られてるわけでも無いのに律儀に守らなくてもいいよ。」


「でも、万が一見られてたら秋庭君が困ったことになるんでしょ?」


「まぁ、そりゃあね・・・。」


「いいわよ。別に減るもんでもないし。」


俺は色んな物が減っていくと思う。


「ほんとにいいのか・・・?また要らない誤解を・・」


「1回も2回も同じよ。それとも私とじゃ嫌?」


嫌な訳が無い。寧ろ金を払ってでもお願いしたい。


「え?そ、そんなわけないだろうっ!」


声も上ずる。


「私もう手が疲れてるんだけど?」


まだ握ろうとしない俺ににイタズラッ子のような視線を送り、早く手を繋ぐように促す茶霧。最高だ。こんなシチュエーションをくれた一花にキスしてやりたくなる。


「あ、ああ。悪いな・・・。」


俺はそう言って、ソッと茶霧の手を握る。少し冷たくしっとりした感触。そしてとろける様に柔らかい。


「あのさ、やっぱり照れるよな?」


「当たり前でしょう?私も心臓が痛いくらいよ・・・。」


「お、俺もかなり。」


茶霧も同じ気持ちでいてくれる事を嬉しく思う。


「後で一花にはきついお灸を据えてやらないとねっ!」


「だな。頭を撫で撫でしてやらなきゃな。」


俺は調子に乗って冗談を口走る。しまったと思ったが茶霧も困ったような笑顔を向けた。


「もうっ!冗談ばっかりなんだから。さぁ、早く買い物済ませちゃおう?」


「ああ、行こうか。」


俺は浮き足立つ足を押さえながら会計を済ませると駐車場へ向かった。





【メール】


一花ちゃんだよ!次の指令いっくぜい!!!


指令1:手はちゃんと指を絡めましょう。テーマは祈りです。


指令2:買い物は後でいいので、2人でドライブでも楽しんできて^-^b


指令3:ギアのチェンジは2人でやろうね?初めてのドキドキ共同作業。


指令4:なんなら夜まで帰ってくるなコノヤロウ


RrayしたらPlayしてもいいのよ!って誰うま!!!


【メール了】


(うまくねえよバカヤロウが。何のプレイだ。)


「何よ?どんなこと書いてあったの?」


急に焦った俺に茶霧が不思議そうな目を向ける。吸い込まれそうな大きな瞳にドキドキしながら俺はメールを見せる。


「・・・馬鹿よねあの娘は。そこは同意する。」


「だよな、絶対に馬鹿だ。」


俺達は同じ考えのようだ。


「祈りって何よ・・・。あれ?あの恋人繋ぎ?」


「多分俺も同じ形を想像してる。これだよな?」


俺は両手を胸の前で合わせて握る。左右の指が交互に重なり、まるで祈りを捧げるようなポーズを取った。


「うん、きっとそれよ・・・。」


その時また茶霧の携帯が鳴る。先ほどとは違う着信音で、電話だったようだが、短い会話であっさりと通話は終わったようだ。茶霧は呆然として耳から携帯を離すと俺に悲しそうな目を向ける。


「それで合ってるってさ・・・。あの娘どこからか見てるわよ。」


「嘘だろう・・・。どこだっ!?」


「分かんないけど、ちゃんとしないと秋庭君やばいよ・・・。」


心配そうな目で俺を見る茶霧。これは下手すると全て暴露する用意をしているってことだろうか。


「やっべぇ・・・、マジでこれはやべぇ・・・。」


俺は頭を抱えるしかなかった。これを言われると俺は終わる。茶霧は絶対に俺を許さないだろう。茶霧は何か考えていたが、やがて俺の方を向くと言った。


「分かったわ秋庭君。一花は私が説得するから、こんな馬鹿げた遊びに付き合わなくていいよ。」


「へ?」


何のことか分からない。


「だからここで終わりにしましょう。付き合ってくれてありがとう。」


茶霧はそう言って車のドアを開けた。助手席から出るとスタスタと歩く。


「お、おい待てよ茶霧っ!」


俺は慌てて茶霧を追いかけた。このまま去られては本当にまずいと思う。


「大丈夫よ秋庭君。」


「いや、意味わかんねぇってっ!俺が遊びに付き合うってどういう意味だっ!?」


「いや、そのまんまの意味だけど?」


「付き合わされてるのはお前の方だろうっ!?」


「ううん、それは違うわ。」


「どういうことなんだ?説明してくれよ。」


「だから、これは一花が私とあなたを付き合わせようと仕組んだことなの。ごめんね・・・。」


意味が分からない。一花は茶霧にも俺と付き合えとしつこく言っていたのだろうか。


「意味わかんねぇし。それに何で謝る?」


「謝った方がいいかなって?」


「何でだっ!?」


「何となく・・・。」


「ちゃんと説明してくれっ!俺に何をさせたかったんだっ!?」


俺は思わず大声を出す。彼女がビクリと肩を竦めたのが分かった。当然恐がらせたかった訳じゃない。


「あ・・・、悪い。怒ってるんじゃないんだ・・・。でも何か納得できなくてな。」


俺はもう完全に自分を見失ってた。どうしても彼女の真意を知りたいと強く思ってしまった。


「ううん、いいの。そう思うのが当たり前だと思う。いきなり恋人ごっこなんて不愉快だと思うもの。」


そう言うと茶霧は視線を宙に彷徨わせる。何かうまく誤魔化そうとしている。俺は我慢できなくなり核心に触れた。


「なぁ茶霧。俺と恋人みたいな振りさせられて、お前は嫌じゃないのかよ?」


一番知りたいのはこれだ。よく考えれば彼女が大人しく一花に付き合った理由もよく分からない。俺が本当に嫌われているのなら是が非でも断っただろう。だけど彼女の曖昧な態度ではうまく理解できない。そして彼女は静かに口を開いた。


「別に嫌じゃないよ。私は嫌じゃない。」


「何でだ?お前俺のことずっと避けてただろ?それにハーヴェストと付き合ってるんじゃないのか?」


そう、彼女の彼はハーヴェストだ。それは俺が一番知っている。ハーヴェストをどれだけ好きか知っている。何度もその1/10でも俺に気持ちを欲しいと思ったのだから。


「そうね、正直避けてた。それにハヴさんともまだ続いているわ。でもあなたとの恋人ごっこは嫌じゃない。軽蔑する?」


意味が分からない。嫌じゃないのは嬉しいがそこは問題じゃない。軽蔑って何だと思った。


「軽蔑ってお前・・・。そんなこと思い付きもしなかったよ。ハーヴェストはどうでもいい。だが何で俺を避ける?俺はお前に避けられる理由が全く思いつかないんだ。そんなにひどいことしたか?」


俺には茶霧に避けられる理由がよく分からなかった。そこまで親しくもないが、良好な関係だと思っていたのはどうやら俺の勘違いだったらしい。それは今までのことからよく分かる。そして、次の言葉で俺は地獄に落とされた。


「あなたのことを知りたくなかったから。もうこれ以上何も知りたくないの。」


これはもう終わりのサインだ。俺のことは知りたくも無い。つまり、これ以上自分に関わらないでくれという彼女のサインだ。もう会いたくもないと。


「そこまで嫌われてたのか・・・、俺は・・・。」


ショックで視界が暗くなる。正直立っているのがやっとだ。腰が砕けた。足に力が全く入らない。もうこの世の終わりのような気がした。


「秋庭君・・・。」


遠くから聞こえる彼女の声。もう愛しいこの声を俺は聞くことが出来なくなる。ここまで拒絶されたのは初めてだった。涙も零れないが、茫然自失となる俺。暗い世界。ただ、目の前に霞んだ茶霧の顔が近付いてきた。そのまま、彼女の唇が俺の唇に重なる。これは夢だと思った。それも最悪の悪夢。頭の中にあったのは、この時が止まればいいと、ただそれだけだった。しかし、俺の願いも叶わず、柔らかな唇は遠ざかっていく。


「ごめんね秋庭君。あなたのことを知りたくないのは、これ以上傷つきたくないから。私はあなたを知るたびに近付きたくなる。あなたの傍に居たくなる。でもそれは許されないのよね。」


また遠くで彼女の声が聞こえた。意味は分からない。ただ彼女の瞳から涙が溢れ出すのを俺はボンヤリと見ていた。


「ごめんね秋庭君。好きになってごめん。ハーヴェストも好きだけど、あなたも好きなの。こんな私でごめんね。サヨナラ。」


(サヨナラ・・・か。ハーヴェストも俺も好きだけどサヨナラか・・・。意味わかんねぇ・・・。)


俺は去っていく茶霧を呆然と見送る。動ける気がしない。ただ茶霧の言葉が頭の中をグルグル回る。


(好きになってごめんか・・。俺って別に嫌われてなかったんだな。でもごめんって意味わかんねぇ・・・。)


どんどん遠ざかっていく茶霧。俺はその時、あることに気付いた。


(好きになってって・・・。俺達両想いじゃないかっ!!!どういうことだっ!?)


その言葉の意味がよく分からないが、彼女はサヨナラと言った。


「待てっ!ちょっと待て茶霧っ!!!」


俺は慌てて彼女を呼び止めたが、彼女は一気に走り出す。俺も追いかけたが、何せ足に力が入らない。あっと言う間に彼女を見失った。





 目の前には一花が居る。彼女も茶霧を見失っていた。詳しい事情は先ほど全て話した。その上で、一花は茶霧の複雑な心境を全て俺に話してくれた。


「馬鹿か俺は・・・。そんなに彼女を追い詰めてたなんて。」


「だよ。あなた達は大馬鹿だよ。何のために私が色々画策したか分からなくなる。ここまで盛大なすれ違いって珍しいわよっ!」


「だよな・・・。茶霧はもう電話も取ろうとしない。どれだけ俺が傷つけたんだ・・・。」


「もう終わったことは仕方ないわ。みのりんはもう全てを智に伝えなさい。その上で決着つけないとダメよ。私はもう助けてあげないんだからっ!!!」


「ありがとう一花。俺ちゃんと彼女に向き合うよ。怒るだろうし、そのせいで振られるかもしれないけど、このまま不誠実な態度を取りたくない。だからもう一度茶霧に会いたい。」


「それじゃ、あの困ったお姫様を見つけなさい。私も連絡取ってみるけど、多分探せないと思う。みのりんの家でクリスマスディナーを作って待っとくわ。鍵っ!あ、それと材料費・・・。」


俺は一花に家の鍵と金を渡すと、車に乗り込んだ。この広い街から彼女を探し出さないといけない。すでに3時間、彼女は一度も電話を取ろうとはしなかった。俺を見たらきっと逃げる。探して探してどうしようも無くなったら、家で待つしかない。それから俺は夜中まで街中を探し回ったが、茶霧の行方はようとして知れなかった。





 翌朝の6時過ぎ、俺は行く当ても無くし彼女のアパートの部屋の前に座り込んでいる。携帯の充電も残り少ない。一花は全ての下準備を済ませてるから、意地でも茶霧を引っ張って来いとメールを打ってきたきりだ。寝てるに違いない。アパートの住人が俺をチラリと覗きながら何度も通り過ぎた。明らかに不審者と思われている。だがここを離れられないでいた。


「何処行ったんだ一体・・・。」


最悪の事態も頭の隅を過ぎる。その時、階段を駆け上がる軽快な足音が響いた。


(茶霧じゃないな。こんな浮かれた足音はたてられないだろうってオイッ!)


階段から現れたのは紛れも無く茶霧智本人だった。俺は一瞬目を疑う。何だか晴れやかな顔をしていたからだ。だがすぐに俺の姿を見つけると、彼女は回れ右をして逃げ出した。

長い長い秋庭実編でしたね。

もう男視点で書きたくないです。だって作者は乙女だものっ!


死んだ方がいいとか思った方はいい病院を紹介してください(´◉◞⊖◟◉` )

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