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第十四話 彼の秘密②【秋庭実side】

ハハハッ!一気に行きますよっ!

第十四話 彼の秘密②【秋庭実side】


 一花に秘密を知られてから、俺はもう彼女に強いことを言えなくなっていた。一花は事ある毎に俺の部屋へ来ると、まるで自分の部屋のように寛ぎ、チャム(猫)と戯れていた。いつの間にか自分用のコップや歯磨きセットまで持ち込み、俺のPCで冒険者をするなど完全に自分の城としてこの家に住み着いた。俺もレポートや学校の課題に追われ一花の面倒は見ないが、いつしか妹が出来たような感覚になり、この生活も悪くないと思うようになっていた。周りから見れば同棲に近いが、2人の間には恋愛感情は無かったと思う。一花は男性に興味が無い様子で、猫に夢中だった。まだまだ子供なんだなと思わせる。さすがに合鍵は渡せなかったが、自分が居る間は好きにさせている。


「みのりん、最近はチャムと仲良くやれてる?」


「ああ、俺によく懐いてると思うぞ?見てて分かんないか?」


「あの智がそんなに可愛いこと出来る訳ないじゃん?」


「ああ、茶霧の話な。」


「そだよ。相変わらずゲームではラブラブじゃない。そろそろちゃんと告白したら?」


「出来ると思うか?それにまだ俺はリアルの茶霧には一度しか会ったこと無いんだぞ・・・。」


「大丈夫よ。あれだけゲームで仲良ければもう恋人と同じよ。さぁ勇気を出してっ!」


一花は最近、頻繁に俺を告白するように誘導するようになった。一応、世間体もあるので俺の家に入り浸っていることは茶霧にも秘密にしているらしいが、どうも俺達にリアルで仲良くして欲しいらしい。俺はリアルで茶霧に出会ってから、当然のように恋に落ちていた。レポートを書いていても、夕食を作っていても、彼女の姿が脳内に浮かび上がる。ツンとした美人。腰近くまで長く伸ばされたサラサラの髪に、細い腰や、それでいて出るところはしっかりと出ている悩ましげな肢体。男なら皆、彼女を自分の物にしたくなるだろう。だけど、俺はその容姿以上に彼女のゲーム内で見せる天真爛漫な性格に惹かれていた。妄想の中で俺に微笑みかける茶霧智。


「あ、妄想全開になってる。」


不意に一花に声を掛けられ、俺は現実に引き戻される。


「絶対に智のこと考えていたでしょ?」


にっこりと微笑む一花。俺は焦って「そんなことねえよ。」とだけ応えた。


「智は可愛いからね~。ライバルも多いけどみのりんなら落とせるってっ!この間の態度なんか、私見たことないよ~。あんなに可愛い笑顔の智って滅多に見れないんだから。」


一花はウフフと笑いながら俺をその気にさせようとどんどん持ち上げる。


「でもまぁ、俺はハーヴェストだって言い出せないし、どっちにしろ振られて終了だよ。一花の期待に応えられなくて悪いな。」


「じゃあさ、私が明日ここに入り浸ってるって智に教えてみるよ。絶対に乗り込んでくるから、その時にデートでも誘ってみたら?案外と引っ掛かるかもよ。」


「デートねぇ・・・。」


「頑張れみのりんっ!」


「ふぅ~む・・・。」





 茶霧はあっさりと一花の罠に掛かったらしい。午後に電話があった。前回の時に番号は交換していたし、俺は速攻で登録していたのだけど、いざ掛かってくるとどう接していいか分からない。


「なんだ?どちら様でしょうか?」


「・・・あんた舐めてる?」


思わず出た憎まれ口にしっかりと反応してくれた茶霧に俺は嬉しくなった。やっぱりリアルの茶霧は声も可愛らしいと思う。会話で迎えに行くことになったが、俺は勝手に約束を取り付けるとすぐに電話を切る。気が変わったら目も当てられない。また茶霧が家に来ると思うと気分も弾む。待たせては悪いと思いながら目的の郵便局に向かった。しかし、茶霧が来たのは俺が着いてから30分近く過ぎてからだった。ちょっと怒った振りをしたら、困ったような顔をしていた。困った表情も可愛らしい。もう虐めたくて仕方なくなっていた。だけど俺は、車内に茶霧が居るという事実に緊張してしまい、素っ気無い態度しか取れない。


「少しドライブして欲しい。」


もうすぐ俺の家に着くという辺りで、茶霧がそう言った。思わず耳を疑う。先ほどから妙に大人しかったが、彼女も俺同様に緊張していたのだろう。了解するとパッと顔を輝かせた。それから俺は、茶霧と楽しいドライブをすることが出来た。彼女は意外とよく喋る。いや、こっちが本当の茶霧智なのだろう。ゲームではいつもテンションが高くお喋りだ。普段の澄ましたクールなイメージは余所行きの顔なのだろうと思う。そんな彼女の一面を見ることが出来て本当に良かった。ダムで夕陽に目を細める彼女の姿は、ただ美しかった。





 ソファで横になり、チャムを抱いて眠る茶霧を一花と一緒に眺めていたが、彼女は起きる気配が無い。スゥスゥと寝息を立てている。


「可愛いでしょ智?」


「ああ・・・。」


「このまま置いていくからねっ!勢い余って襲ってもいいわよ。あ、一応起こそうとしたとだけ言っておいて。後で色々言われると面倒だからね。じゃっ!」


「ちょっと待てっ!一花、俺を犯罪者にさせたいのかっ!?」


「我慢してもいいし、本能のまま襲い掛かってもオッケーじゃない?この場合悪いのは智なんだから遠慮は要らないと思うけど?」


そう言うと一花は帰っていった。俺は2人きりで残される。


「やばい、絶対やばいぞこれは・・・。どうすりゃいいんだ?」


とりあえず毛布を出して彼女に掛ける。「ううん・・・。」と艶かしい声を出しながら毛布を引き寄せ自らの体に巻きつける茶霧を見て、俺のテンションは一気にMAXまで上がる。


「やっべぇ・・・。可愛すぎるんだけどこいつ・・・。」


今襲い掛かれば俺の大勝利は間違いない。ただ人としてそれをやっていいのか悪いのか非常に迷うところだ。


(やっちまえってっ!男の部屋で無防備に寝てるほうが悪いんだよっ!)


(ダメだよ実っ!そんな欲望に負けちゃダメっ!)


ありきたりな天使と悪魔の葛藤が頭の中で繰り広げられる。何も出来ずに金縛りにあったように俺はその場に立ち尽くしていたが、茶霧の寝息に混じって小さな小さな声が聞こえた。俺はハッキリとその声を拾ってしまう。


「うぅん、ハヴさん・・・。」


愕然とする。俺の名前でも囁かれていたら、もう我慢が出来なかっただろう。だが彼女の口から出たのはハーヴェストの名前だった。俺は自分自身に負けた。そう知った瞬間、テンションは一気に冷めて俺は自室に引き篭もってしまった。





 翌日、俺は朝から茶霧を学校に送り、見事に恋人と勘違いされた。だけど俺は、浮かれることも出来なかった。彼女が本当に好きなのはハーヴェストで俺では無い。その事実が俺をへこませていた。そしてその日、ハーヴェストとして茶霧から告白され、有耶無耶のうちに付き合うことになった。面白くない。俺はこれからずっとハーヴェストとして彼女の気持ちを独占できるというのに、ただただ空しかった。毎日ゲーム内では恋人としてチャムと接する。だけど現実の俺は彼女から電話はおろかメールさえ来ない。彼女は『ハーヴェスト』に夢中なのだ。俺だと知らないから、こんなにも甘え、こんなにも愛を囁く。俺は茶霧と知っているから、愛しくてたまらない。だからこの関係を止めようとは思わなかった。だけどやはり、本当の彼女からは何の連絡もないまま、季節はもうすぐ冬を告げようとしていた。





 突然の茶霧からのメール。研究室にレポートを提出した俺は、彼女を迎えに行くために急いでいた。メールの返事はしていない。と言うより忘れていた。茶霧のルートを予想して工学部へ向かう。経済から農学へ移動するには一番の近道だ。必ずここを通るに違いないと思っていた。別名はナンパ交差点。ここを通る女の子は、飢えた理系の男子学生に高確率で声を掛けられる。俺の茶霧が変なナンパ男に引っ掛かるのは許せない。ハーヴェストとして彼女と付き合い出してから、俺は彼女に対する想いを一層と強いものにしていた。案の定茶霧は、工学部の馬鹿男に言い寄られていた。しかも手首を掴まれている。イラッときた。


「待ったか?」


俺は急ぎ足で2人に近付くと男を威嚇する。頭の悪そうな格好だ。背も低いし喧嘩になれば一方的にぶちのめせるだろう。恐くも何とも無い。むしろ殴りたい。俺は男を挑発したが、茶霧に制止される。それでも俺は睨む視線を外さない。焦った茶霧は俺の手首を引っ張る。しっとりとした手の感触。胸がドキリとしたが、まだ動かない。困った茶霧は俺の腕を抱え込んで引っ張った。


(うはっ!何か色々当たってるっ!超やわらけぇ。)


腕が何か柔らかいもので挟まれている感覚。今度は別の意味で動けなくなる。まだ動かない俺を茶霧は懸命に引っ張る。頑張ってる顔も可愛い。色々押し付けられて嬉しいやら気持ちいいやらで俺は意識が遠くに飛んで行きそうだった。寸でのところで意識を保ち、茶霧に腕を引かれながら歩く。もう両手で抱え込んでいなかったが、片手は俺の腕に絡みついたままだ。ハッキリ言おう。横乳も最高だ。


(やべ、鼻血出るかも・・・。)


駐車場へ行く間、茶霧は俺の腕に興味を示したようだった。いつもハーヴェストとイチャイチャしているので、リアルの男の体にでも興味が出たのかもしれない。俺はおいしいと思い、茶霧の好きにさせていると、あろうことか彼女は手を弄くりだした。自分の掌と合わせてみたり、指を絡めてみたり。俺の心臓はもう破裂しそうなほど鼓動していた。彼女の手は少し冷たく、途方も無く柔らかかった。





 自宅に茶霧を連れて行くと、一花はすでに腕を組んで歩いていたことを知っていた。さすがは狭い大学だ。意外に見られているもんだと少し感心する。一花に問い詰められ困っていた茶霧が可哀想になり、俺は誤解を解いてやる。感謝の眼差しを向けた彼女だったが、その目は少し憂いも含んでいたことを俺は見逃していた。彼女の態度はその後余所余所しくなり、「私はここに居るべきじゃない」と言い残して帰ってしまった。


「一花っ!どうしよう。完璧に誤解されたぞっ!?」


「いいんじゃない?どうせ智と付き合う気無いんでしょ?」


「そんなこと言ったってお前・・・。」


「大丈夫だって。あれは嫉妬よ。みのりんが私と仲良くしてるから嫉妬の炎に焼かれただけよ。」


「俺はお前にSHITだよバカヤロウッ!」


「誰がうまいことを言えと・・・。」


「やべぇ、絶対に嫌われたって・・・。」


「だいじょぶだいじょぶ。」


一花は余裕をかまして茶霧にメールを何度か送るが、一向に返事は無い。


「みのりん、結構やばいかも。今回は重症ね。」


「アホかっ!どうしてくれるんだっ!?」


「こうなったら日本男児らしくKAMIKAZE☆ATTACKよっ!」


「死んでしまうわ。」


「だよね。いいわ。明日私がちゃんと説明してあげる~。」


そして翌日、一花は俺の部屋に着くなりブーたれた。


「智のやつ今日ずっとニヤニヤしてんの。昨日あれだけ心配させておいて、心配した私達が馬鹿みたいだったわっ!」


「どうしてそうなった・・・?」


「知らないわよっ!あれは昨日何かあったわね・・・。ずっと携帯に出なかったんじゃなくて出られなかったとか?」


「まさか・・・。」


「男かもっ!」


「やべぇ、首括ってきます。」


「早まったらダメだってっ!」


勿論冗談だが、俺は気が狂いそうだった。もしかしたら昨日茶霧が知らない男と抱き合ってたのかもしれないなどと、妄想が頭の中でスパークする。一花も心配そうにしていた。チャムまで脛をペロペロ舐めて俺を慰めている。そして、俺は数日間鬱々と悩む羽目になった。





 確か土曜日だった。俺はまだ立ち直れないでいる。一花と2人で駅前の某有名ハンバーガー店で昼を食っていた。大好きなビッグマッ○も今日は何だかパサパサして味気ない。食欲が無いのであまり食べていなかったが、ちゃんと食べろと言われて渋々口に運んでいる。


「しっかし智も謎よね~。絶対何かあったと思うんだけど、今日まで目立った動き無しなんて。」


「もうその話は止めてくれ。胃が痛くなるよ。」


「うひひひ、大丈夫だって、智ちゃんがそう簡単に男に靡くとは思えないし。」


そんな事を言っていた一花だが、何気なしに外を見て目が点になった。俺も釣られて外を見たが激しく後悔する。そこには、男に手を繋がれて嬉しそうに歩く茶霧が居た。まるで恋人同士だ。


「一花お前、超嘘吐き・・・。」


「こんなはずじゃあ・・・。」


「何だあれ・・・?ハーヴェストに夢中じゃ無かったのか?俺って単に遊ばれてただけで本命はあっちか?オッサンじゃねえか・・・。」


「でも何か匂わない?あんなオッサンと智が一緒に居るのって凄い不自然。」


2人はそのまま近くにあった大手レンタリースに入っていく。車で移動するようだ。レンタカーと言う事は、あの男は地元の人間じゃない事は明白だった。駅で連絡を取り合い、一緒に何処かへ出かけるらしい。


「親戚とかじゃない?」


「でも親戚で手を繋ぐっておかしいだろ?」


「ん~、みのりんここは尾行よ。私もちょっと引っ掛かる。」


「珍しく意見が合うな。俺もそうしようと思ってた。」


俺達は急いで店を出ると、駐車場で2人が出てくるのを待つ。車は仕方ないので、一花はニットを目深に被り、俺は日差し避けに備え付けていたサングラスを掛ける。程なくして、2人を乗せた車がレンタリースから出てきた。俺は緊張した手でハンドルを握り、その車の3台後を延々とくっ付いて運転した。





 車は大学や市内の目ぼしい観光地を順繰りに回っているようだ。やはり観光に来た親戚とも思えるが、男は車から降りるたびに茶霧に手を繋ぐように要求している。はっきり言って心臓に悪い光景だ。今すぐ飛び出していって男を殴りたくなる。


「みのりん、今は我慢よ。尻尾を掴まないとダメ。タイミングを間違えると命取りだわ。」


そんな俺の焦りを見透かしたように一花は俺を制す。しかし、意外だったのは茶霧が俺達に全く気付かないことだ。いくら顔を隠していても、俺の車だと気付いてもおかしくない。この車は頻繁に街で見かけることはない車だ。そこそこ売れてはいるが、200万円を越す軽自動車はやはり趣味で乗るものだ。一般的ではない。しかも黒。目立ってなんぼの車である。


「しかし全く気付かんな。そこまであのオッサンに逆上のぼせてるのか?」


「考えたくは無いけど、その可能性あるなぁ・・・。でもあれってさ、ハーヴェストとデートしてるようにも見えるわよね。」


「いや、あり得ないのは分かってるだろ?」


「でもさ、何かおかしくない?それに智の顔、さっきからだんだん辛そうになってきてるわよ。最初の浮かれた笑顔が消えてる。」


「それは俺も感じてた。何か違うって顔してるよな?」


「うん、これは最後まで尾行したほうが良さそう。」


「最終目的地がラブホとかだと俺死ぬぞ、マジで。」


「それは流石に・・・、あるのかな?」


「あってたまるかっ!!!」


俺は妄想を打ち消す。そんな事あってたまるか。


「みのりん、でも覚悟だけはしててね。」


「・・・・・・・。」





 日も暮れて、2人を乗せた車は飲み屋街に移動する。ここの周りはネオンに囲まれ、いかがわしいホテルも多数あった。そう、分かり易い街なのだ。近くのパーキングに車を停めると、2人は連れ立って歩き出す。一花を車から降ろして尾行させたが、すぐに戻ってきた。


「どこに入った?」


「見失ったっ!」


「この役立たずっ!!!」


俺と一花は仕方なく2人が車を停めたパーキングに入り、そこで待つことにした。俺は悶々としながら2人が帰ってくるのを待つ。一花の話では、2人を見失ったのは飲み屋が軒を連ねるエリアだそうだ。ホテルに直行では無さそうだと言った。2時間ほど待ったが、2人はまだ現れない。俺のイライラはすでにピークに達している。タバコも1箱以上吸っている。その時、一花の携帯にメールが届いた。


「誰からだ?」


俺の問いに答えずに一花はすぐに電話を掛けた。


「もしもし智?どういうことこれ?」


その第一声で、茶霧に電話したことは分かった。


「はっきり喋れっ!!!」


「呂律が回ってないよ?男とお酒を飲んでるけどもう帰りたい。だから偶然っぽく迎えに行けばいいのね?」


茶霧は迎えを望んでいる。俺はホッとした。このまま男と一夜を共にする気は無いと言うことだ。


「そっか、最近浮かれてたのはその男のせいね?でも勘違いだったと?」


「そっか、勘違いだったか・・・。」


俺は小声で安堵を口に出す。本当に安心したのだ。一花が横で「ちょっと黙って。」と小さく呟いた。


「分かったわ。みのりん行かす。」


どうやら俺が迎えに行くようだ。心配させた分、ちょっとお灸を据えたほうがいいかもしれない。


「黙りなさいっ!私に隠れて男と付き合おうたぁ太い奴じゃ。懲らしめてしんぜよう。」


一花も同じ気持ちのようだ。あとでお説教になりそうだなと考えていると、一花は俺に所在地を教える。行った事は無いが、よく聞く名前のバーだ。酒を飲んでいたのだろう。呂律が回っていないという一花の台詞から、相当飲まされているようだった。


「みのりん、ちょっと急いだ方がいいかも。」


「でもあんまり早いと不自然だろ?一本吸ってから出るよ。」


俺はそう言ってタバコに火を点ける。


「そうも言ってられないわ。あの子ってザルなのよ。いくら飲ませても酔わないの。でも今日は明らかに泥酔してるみたいだった。ちょっと変なのよ・・・。まだ2時間くらいじゃない。強いお酒でも2時間くらいじゃ、ああならないと思うんだ。」


「つまりは?」


「何かされてるかも・・・。」


俺はすぐに車を出し、バーのある通りまで移動する。キョロキョロと周辺を見回すと、すぐにお目当てのバーが見つかった。車を停めて外に出る。その時、茶霧が出てきた。何だか急いでいるが、足元がフラフラとしている。俺は声を掛けようとしたが、すぐにオッサンが後を追って出てきた。どうも言い争いになっているようだ。


「一花、悪いがタクシーで俺の家に来てくれ。この車は・・」


「2人乗りだもんね。いいわ、智ちゃん乗せてあげて。その代わりっ!」


一花は右手を出す。金を寄越せと言う意味らしい。


「私の所持金みる?」


「いや、やめとくよ・・・。お札が無さそう。」


「400円しかありませんっ!」


「・・・ほら。」


俺は一花に5千円札を握らせる。目を輝かせる一花。


「無駄使いするなよっ!」


「オッケーご主人様っ!」


「頼むから茶霧に前で絶対言うなよ・・・。」


「むふふ、じゃあ後よろしく。ってアッー!!!」


一花は驚いた様子で一点を指差す。そこには腰を抱かれて今まさにホテルに連れ込まれそうになっている茶霧が居た。すぐ側にホテルがあるじゃないか、一花の言葉はもう信用できない。


「こんなことしてる場合じゃねええええええっ!!!」


俺はそのまま50mほどダッシュして、男のどてっ腹を蹴り飛ばした。勢いがついた蹴りを不意に受けて男は吹き飛ぶ。茶霧はフラッとしたが、すぐに俺は彼女を抱き留めた。


「遅くなった。」


俺の腕の中でボーっとした顔をしていた茶霧だったが、俺の顔を見上げると途端にクシャッと顔が歪んだ。


「遅くないっ!ありあと・・・。」


「ありあと?」


呂律が回っていない。


「あ・り・が・と・うよ。わらひもう少しで・・・。ほんとにありあと・・。う、ぐす・・・。」


「もう大丈夫だからな。心配いらないから泣くな。」


茶霧は俺の腕にしがみ付くと、嗚咽を漏らす。相当恐かったようだ。小刻みに震える肩がそれを物語っている。俺の頭に血が上り、フラフラと立ち上がった男にキツイ睨みをきかせた。男は怯えた表情を浮かべる。


「あんた誰だ?」


「ハヴさんよ。冒険者の。ぐす。」


代わりに茶霧が答えた。俺は耳を疑う。ハーヴェストは俺だ。


「ハーヴェスト?」


「そうよ。わらひ彼と付きあっれたの。すん。」


「お前誰だ?」


再度、俺は男に問う。


「らからハヴさんらって・・・、何?」


茶霧も俺の変化に気付いたようだ。不思議そうな目で俺を見ていた。


「こいつがハーヴェスト?笑わすな。」


「どういう意味?」


「俺は彼を知っている。お前誰だっ!!!」


「ひっ!ハーヴェストですぅ・・・。」


「・・・。茶霧、すまんが車で待ってろ。そこに停めてるから。鍵は開いてる。」


俺は一花がもう居ないことを確認すると、指を差して茶霧を車へ誘導した。


「う・・、うん。グス。」


茶霧は訳が分からないと言う顔をしていたが、素直に従って助手席に乗った。目がトロンとしている。どうも様子がおかしい。単に酔っている感じじゃ無かった。俺は怒りを感じながら再度男に質問した。


「正直に言え、お前誰だ?」


「ひいっ!だからハーヴェッ!!!」


俺は拳で男の鼻っ柱を殴りつける。


「もう1回だけ聞くぞ、お前誰だ?」


「・・・だからハッ!」


さらに殴る。俺はチラリと車を振り返ると、茶霧は意識を失っているようだった。それを確認すると、男に続けた。


「いいか、よく聞け。俺がハーヴェストだ。だからお前が嘘を言ってることは分かる。正直に言えよ。お前誰だ?」


「お、お前がハーヴェストだってっ!?そんなことあるか。あいつは30のニートじゃないかっ!」


「そんなこと鵜呑みにしてんのチャムとお前ぐらいなもんだぜ。」


「馬鹿なっ!僕がハーヴェストなんだっ!」


「だから俺が本人だっての。殺すぞ。」


さらに拳を振り上げると、男は慌てて真実を叫ぶ。


「ひっ!ぼ、僕は氷の貴公子だっ!お願いだからもう殴らないで・・・。」


俺はその事実にも特に驚かない。偽善者っぽい振る舞いや茶霧を舐め回すように見ていた視線から、不思議とハナクソ盟主を連想していたのだ。ゲームにはしっかり性格が出ると言うことだ。


「お前、盟主だったのか。やっぱりハナクソだったな、お前は。しかし、一体どうやって俺に成り済ました?」


「そんなことお前に関係ないじゃないかっ!僕はチャムちゃんを心から愛してたから想いが届いただけっ!あぎゃっ!!!」


顔は止めて、手を踏みつけた。傷を残しすぎても都合が悪い。


「本当は?」


「チャット覗いてたんです・・・。」


「はぁ?意味わかんねぇ。」


「そういうソフトがあるです・・・。」


「しっかり日本語しゃべれっ!あるですって餓鬼かお前はっ!?」


「ひいっ!」


「とりあえずお前、レイプ未遂の現行犯だって自覚ある?これって歴とした犯罪なんだぜ。」


「そんなっ!同意ですっ!」


「本人に聞けば分かるさ。警察呼ぶか?」


「すみません・・・。警察はやめて・・・。」


俺は急に従順になったハナクソに不信感を覚える。何か隠してると直感で感じた。


「お前まだ何か隠してるな?」


「そんなっ!隠してなんていませんっ!」


「茶霧に何した?あいつ酒じゃ酔わないんだよ。あそこまでベロベロって見たことないんだけど?」


「ぼ、僕は何もっ!」


そう言いながらスーツの胸ポケットを押さえたハナクソ。俺はすぐに手を突っ込んで、妙な袋を引っ張り出す。中には錠剤が数個入っていた。慌てて奪い取ろうとしたハナクソを足で押さえつけ、俺はその錠剤をマジマジと見る。


「何だこれ?」


「風邪薬だっ!」


「いいや、やっぱり警察呼ぶ。」


「やめてくれっ!」


「じゃあ何だ?素直に言ってみろ。」


「ネットで買った睡眠薬だ・・・。」


「こっちは?2種類あるんだけど。」


「大きい方が・・・、媚薬だ・・・。」


「睡眠薬に媚薬ねぇ・・・。とことん腐ってるなお前。」


「・・・。」


俺はそう言うと髪を掴んでハナクソを引っ張った。そのまま近くのコンビニまで引き摺っていく。そして、睡眠薬と媚薬を使って茶霧をレイプしようとした事実と今後二度と彼女に近付かない等を念書として書かせ、左手の親指で拇印を押させる。それから免許証のコピーを数枚取らせて、念書と一緒に封筒に入れさせた。全てコンビニで購入した物だが、効力はあるだろう。店員はカウンターで頭を何度も押さえつけられている男を見ても、こっちに何一つ言わなかった。飲み屋街だ。厄介事には首を突っ込むなと指導されているのだろう。さらに男の実家の番号も聞きだす。携帯は茶霧が知っているだろうから省いた。そして、全てが終わると顔の形が変わるまで殴りつけて車に戻る。茶霧は死んだように眠っていた。

今回は長いですね。書くの大変でしたよガチで。


自分で話を読みながら台詞をコピペして貼ってちゃんと繋げて。


意外に時間かかります。

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