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第十一話 kiss

題名がベタですね。よかよか(`・ω・´)

第十一話 kiss


 大学の講義も22日で終了し、バイトもあと1日で終わる。そんな12月23日、私は朝から憂鬱だった。今日は一花と打ち合わせがあり、朝から大学のカフェで待ち合わせている。一花が来るまであと30分はあったが、私は黙ってカフェオレを飲みながら携帯電話を弄って時間を潰していた。声を掛けてきた男が2人、クリスマスの予定を聞いてきた男が3人、嫌味な言い方かもしれないけど、相変わらず私はモテる。でも、本当に好きな男には振り向いてもらえない哀れな女。


(あー、憂鬱で死にそう・・・。一花まだかなぁ・・・。)


私は早く着いたことを呪う。自分のせいだけど他人に当たりたい気分だった。


「茶霧じゃねえか。何してんだ?」


また男。私はイラッとしながら振り返り、そして固まった。そこに居たのは秋庭実。今一番私を悩ます罪作りな男だ。途端に顔が熱くなり赤面したのが分かる。ああ、私はやっぱり彼が好きなんだと再認識させられた。


「・・・一花と待ち合わせだよ。」


私はやっとそれだけ答える。


「ふぅ~ん、俺も一花に呼び出されてるんだ。ここいいよな?」


秋庭実はそう言って向かいの席に座る。「コーヒー1つね。」などと注文を取りにきたお姉さんに愛想良く笑顔を浮かべながら注文していた。当然、その笑顔に意味は無い。単にコーヒーを注文しただけ。それでも他の女に笑顔を向ける秋庭実が少し憎たらしく見える。


(・・・私って最低。ウェイトレスに嫉妬してる。)


私はまた軽い自己嫌悪に浸りながらテーブルに突っ伏した。秋庭実にはかなり愛想の無い嫌な女に見えていると思うけど、実は心臓が破裂しそうなほどドキドキして、顔を合わせられないというのが正直なところだった。小学生みたいな私。


「何だ?今日もご機嫌斜めだな。」


「・・・そんなんじゃないわよ。」


「そっか?でも機嫌悪そうに眉に皺を寄せてる顔のほうが見慣れてるかもな。うん、いつもの茶霧だ。」


面白そうに笑う秋庭実にジト目を向けながら、私は一花の登場を待ち望んだ。2人きりなんて耐えられそうに無い。2人の間に沈黙だけが流れる。まるでお通夜だ。


「・・・やっぱり俺はお前に嫌われてるんだなぁ。」


「!」


いきなり口を開いたと思ったらとんでもないことを言う秋庭実。私は思わず目を見開いて顔を上げた。逆だよ逆。私はあなたのことを好きだから顔を見れないだけ。本当はしっかり目を見て会話したいんだよ。でも出来ないの。


「一花は何も教えてくれないし、やっぱりあれ以来ろくに口も聞いてくれないとさ、堪えるよ。」


「・・・そうじゃない。」


「え?」


「き、嫌ってなんかいないよ。だからそんな顔しないで。」


秋庭実は落ち込んだような神妙な顔をしていたが、私の言葉に安心したように息を吐く。でもすぐにその顔は曇った。


「そうなのか?でもずっと避けられてる気がしてたんだけど・・・?」


それはそうだ。だって避けていたんだもの。


「だ、だって秋庭君には色々と変なとこばかり見られてるし、何だか恥ずかしくて・・・ね。」


半分本当で半分は嘘。


「そんなこと気にしないでいいのに。お前ってやっぱり真面目なんだな。」


真面目か。そんな女じゃない。私は真面目なんかじゃない。もし真面目なら、同時に2人なんて好きになれないと思う。そう思うとまた気分は沈み、言葉は喉奥でキープアウト。


「一花のやつ遅いな。もうとっくに時間は過ぎてるのに。」


秋庭実は何も喋らない私に気を使って別の話題をふってくる。その気遣いは嬉しいけど複雑な気持ちになった。その時、私の携帯が点滅して、メールの着信を告げた。


【メール】


やっほートモ!


みのりんと買い物してきてねw


私はちょっと用事が出来ました。ってか作りました。


ドキドキワクワク楽しいおっかいもの~


買う物は、後でまたメールします。みのりんの携帯にね


2時間くらい遅くなっても私はぜんっぜん構いません!がんばれヾ(ゝω・`)


【メール了】


「死ねばいいのに。」


私はメールを読み終わってから深い溜息を吐く。こんなことだろうと予想はしていたけれど、ここまで的中すると一花を呪いたくなる。


「メール誰から?」


秋庭実が大体分かってますと言った顔で私に訊ねる。


「一花よ。用事できたから秋庭君と一緒に買い物してきてだって。」


「何を買うんだ?」


「メールするってさ。」


私はそう言うとカフェオレを一気に飲み干して立ち上がる。秋庭実も慌ててコーヒーを喉に流し込んだ。熱かったのか舌を出している。


「どうすんだ茶霧?買い物行くか?」


「行くしかないでしょう?」


「だよな。」


その時、秋庭実の胸ポケットから太鼓の音が響いた。「いよぅ!ドンドンドンドン」と。


「あ、メールだ・・・。」


何て着信音なのだろう。思わず吹き出す。


「お、何か久しぶりに笑ったとこみたな。」


秋庭実はそう言いながらメールを開き、数秒後無言で私に差し出した。今吹き出したおかげで私は自然な感じを取り戻す。少なくとも挙動不審な態度では無くなったと思う。


【メール】


一花ちゃんですよ!


指令1:買い物中は手を繋ぐこと。腕を組むのも可


指令2:キスとかしちゃってもいいのよ!


指令3:2時間だけなら遅れていいからね!


指令4:守らなかったらわかってるわね?( ̄∀ ̄)


【メール了】


「何コレ・・・?」


「指令だって・・・。2と3は意味不明だけど・・・。」


「本当に意味不明だわ・・・。」


「買い物中は手を繋ぐって・・・、ちょっとなぁ?」


「そうね。秋庭君も困るでしょう?」


「え?いや・・・、お前がまたいらぬ誤解を受けるのが・・・。」


(またそんな気を使ってるのか・・・。そうね、彼は真面目だから。)


「そうね・・・。でも指令4は何なの?あなた一花に弱味でも握られてるわけ?」


「う~ん、そうだな。これをばらされると俺は首を括るか学校を辞めるかしないといけないかもしれない。」


「そんな秘密なのっ!?秋庭君何したわけ???」


「ははははは・・・。それは言えないから困るわけで・・・。」


「そりゃそうね。いいわ、ハイッ!」


私は右手を差し出す。顔は自然にしているつもり、多分真っ赤だけど。秋庭実は驚いていたが、周囲をキョロキョロと見回し、最後に私の顔をマジマジと見つめた。私の心臓は早鐘のように鳴りっ放しだ。仕方なくという空気を一緒に纏う。これが私の精一杯の勇気だった。


「何の真似だ?」


驚いたような秋庭実の視線が私の右手と顔を何度も往復する。


「だからハイ。いいよ、手を繋ぐぐらい。」


「おいおい、一花のおふざけだぞ。見張られてるわけでも無いのに律儀に守らなくてもいいよ。」


「でも、万が一見られてたら秋庭君が困ったことになるんでしょ?」


「まぁ、そりゃあね・・・。」


「いいわよ。別に減るもんでもないし。」


「ほんとにいいのか・・・?また要らない誤解を・・」


「1回も2回も同じよ。それとも私とじゃ嫌?」


「え?そ、そんなわけないだろうっ!」


秋庭実の声に力が入る。本気で拒絶されたら私はきっと立ち直れなかっただろう。全力でネガティブな私の言葉を否定してくれた秋庭実に感謝したい。


「私もう手が疲れてるんだけど?」


まだ握ろうとしない秋庭実にイタズラッ子のような視線を送り、早く手を繋ぐように促す私。


「あ、ああ。悪いな・・・。」


秋庭実はそう言って、ソッと私の手を握る。暖かい、そして頼もしさを感じる彼の手。私は繋がれた手をジッと見てしまった。


「あのさ、やっぱり照れるよな?」


「当たり前でしょう?私も心臓が痛いくらいよ・・・。」


「お、俺もかなり。」


「後で一花にはきついお灸を据えてやらないとねっ!」


「だな。頭を撫で撫でしてやらなきゃな。」


ニヤリと笑う秋庭実。冗談を言う余裕があるのなら、言う程の緊張ではないのかもしれない。単に社交辞令かも。


「もうっ!冗談ばっかりなんだから。さぁ、早く買い物済ませちゃおう?」


「ああ、行こうか。」


私は秋庭実に手を引かれてカフェを後にし、懐かしい黒い車まで案内された。





 突然、けたたましい「いよぅ!ドンドンドンドン」


「あ、またメールだ。」


車の鍵を開けた瞬間、また秋庭実の携帯が太鼓を奏でる。私はもう吹き出さなかった。


「ちょっ!うはっ!これは・・・、馬鹿じゃねえのか一花はっ!」


車に乗り込んでからメールを開いた秋庭実は、隣の席で奇声を上げながら悶絶した。よほど衝撃的なメールだったに違いない。


「何よ?どんなこと書いてあったの?」


秋庭実は無言で携帯電話を手渡した。私は訝しく思いながらも携帯電話を受け取る。何を買えと言ってきたのか気になる。しかし、メールは買い物に関しての記載は一切無かった。


【メール】


一花ちゃんだよ!次の指令いっくぜい!!!


指令1:手はちゃんと指を絡めましょう。テーマは祈りです。


指令2:買い物は後でいいので、2人でドライブでも楽しんできて^-^b


指令3:ギアのチェンジは2人でやろうね?初めてのドキドキ共同作業。


指令4:なんなら夜まで帰ってくるなコノヤロウ


RrayしたらPlayしてもいいのよ!って誰うま!!!


【メール了】


「・・・馬鹿よねあの娘は。そこは同意する。」


「だよな、絶対に馬鹿だ。」


「祈りって何よ・・・。あれ?あの恋人繋ぎ?」


「多分俺も同じ形を想像してる。これだよな?」


秋庭実は両手を胸の前で合わせて握る。左右の指が交互に重なり、まるで祈りを捧げるようなポーズを取った。


「うん、きっとそれよ・・・。」


その時、私の携帯電話が着信を告げた。電話だ。当然だが一花だ。私は少し躊躇ったが電話を取る。


「もしもし・・・。」


「もしもしっ!それで合ってる。じゃねっ!」


そこで電話は切られた。私は呆然と電話を握り締めていたが、秋庭実が不安そうな顔をしていたので状況を説明する。


「それで合ってるってさ・・・。あの娘どこからか見てるわよ。」


「嘘だろう・・・。どこだっ!?」


「分かんないけど、ちゃんとしないと秋庭君やばいよ・・・。」


秋庭実は顔面蒼白だ。それほど大きな弱味だということだろう。私は溜息を吐いた。


「やっべぇ・・・、マジでこれはやべぇ・・・。」


秋庭実は頭を抱えていた。きっと一花はお遊びではなく、本気で私と秋庭実をくっ付けようとしている。これは彼女なりのエールなのだ。いつまでもイジイジと悩む私を見て、過激なプレゼントのつもりなのだろう。ただ、そんなことに付き合わされる秋庭実も気の毒だと思った。私はポリポリと頭を指で掻く。ゲームはここで終了。


「分かったわ秋庭君。一花は私が説得するから、こんな馬鹿げた遊びに付き合わなくていいよ。」


「へ?」


「だからここで終わりにしましょう。付き合ってくれてありがとう。」


私はそう言って車のドアを開けた。助手席から出るとスタスタと歩く。一花の居場所は大体目星が付いていた。


「お、おい待てよ茶霧っ!」


秋庭実が慌てて私を追いかけてきた。彼は弱味を握られているのだ。顔は不安で一杯。


「大丈夫よ秋庭君。」


「いや、意味わかんねぇってっ!俺が遊びに付き合うってどういう意味だっ!?」


「いや、そのまんまの意味だけど?」


「付き合わされてるのはお前の方だろうっ!?」


「ううん、それは違うわ。」


「どういうことなんだ?説明してくれよ。」


「だから、これは一花が私とあなたを付き合わせようと仕組んだことなの。ごめんね・・・。」


私は少しだけ寂しそうな笑みを浮かべていたと思う。真面目な彼はきっとこのゲームを本気でやるだろう。好きでもない女との恋人ごっこなんて、苦痛なだけなのに。


「意味わかんねぇし。それに何で謝る?」


「謝った方がいいかなって?」


「何でだっ!?」


「何となく・・・。」


「ちゃんと説明してくれっ!俺に何をさせたかったんだっ!?」


秋庭実の声に怒気が混ざる。混乱したのだろう。私はビクリと肩を竦める。


「あ・・・、悪い。怒ってるんじゃないんだ・・・。でも何か納得できなくてな。」


「ううん、いいの。そう思うのが当たり前だと思う。いきなり恋人ごっこなんて不愉快だと思うもの。」


私の素直な気持ちは隠し通したい。でも私にはうまい説明は思い浮かばなかった。目が宙を泳いだ時、秋庭実が私の目を見ながら私に問いかけた。


「なぁ茶霧。俺と恋人みたいな振りさせられて、お前は嫌じゃないのかよ?」


そんなことを聞かれても困る。私は嫌どころか嬉しいに決まっているんだ。だけど、それは遊びであって本気じゃない。後に残るのは空しさだけ。でも私は嫌とは答えられず、素直な気持ちを口にする。


「別に嫌じゃないよ。私は嫌じゃない。」


「何でだ?お前俺のことずっと避けてただろ?それにハーヴェストと付き合ってるんじゃないのか?」


「そうね、正直避けてた。それにハヴさんともまだ続いているわ。でもあなたとの恋人ごっこは嫌じゃない。軽蔑する?」


「軽蔑ってお前・・・。そんなこと思い付きもしなかったよ。ハーヴェストはどうでもいい。だが何で俺を避ける?俺はお前に避けられる理由が全く思いつかないんだ。そんなにひどいことしたか?」


「あなたのことを知りたくなかったから。もうこれ以上何も知りたくないの。」


これも私の本音。でも秋庭実は悪い意味で受け取った。


「そこまで嫌われてたのか・・・、俺は・・・。」


秋庭実は愕然としてその場に立ち尽くした。私は彼を深く傷つけたのかもしれない。でもこれでいい。これでいいんだ。そう思った私に、誰かが囁きかけた気がした。「本当にいいの?」と。


「秋庭君・・・。」


その後の行動は、本当に無意識。私の頭が考えたことでは無く、体が勝手に動いたのだ。私はいつの間にか、秋庭実の胸にしがみ付き、爪先立ちをしていた。そう、それは私と彼との距離を縮めるための爪先立ち。そうしないと届かないのだ。彼の唇に。長い長いキス。でも本当はほんの数秒だったのかも知れない。突然のことに秋庭実は時が止まったように固まってしまった。


「ごめんね秋庭君。あなたのことを知りたくないのは、これ以上傷つきたくないから。私はあなたを知るたびに近付きたくなる。あなたの傍に居たくなる。でもそれは許されないのよね。」


そこまで言った瞬間、私の瞳から涙が溢れた。


「ごめんね秋庭君。好きになってごめん。ハーヴェストも好きだけど、あなたも好きなの。こんな私でごめんね。サヨナラ。」


私はそのまま秋庭実に背を向けると、駐車場を離れようと歩き出した。


「待てっ!ちょっと待て茶霧っ!!!」


秋庭実は硬直から解けて私を呼び止める。でも私は止まらなかった。もう彼の顔を見れない。早歩きからいつしか駆け足になる。視界はグチャグチャで何も見えない。不意に何かに躓いて転んだ。それは見慣れた噴水の前のベンチ。いつも一花とお昼を食べるお気に入りの場所だった。その噴水の影に木に囲まれたベンチがあることを思い出す。私はそこまで走って行くと、やっと人の居ない空間に辿り着き安心して泣いた。涙はいつまでも、まるで涸れない泉のように後から後から流れ続けた。

もう次も書いちゃってるんだからねっ!


こんにちは、作者です。

タグに甘くない恋物語などと付いてますが、見事に甘いですね。こういう展開はハッキリ言って嫌いです。でもこうなっちゃうのは何故なんでしょうね?


作者はこんなドキドキ展開、リアルに知りません。妄想力の賜物ですね(´・ω・`)

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