異世界で暇してたら ――ご令嬢と誘拐犯と俺――
「ふあぁぁ……」
王立騎士学園中等部の俺――クロガネは、街角で盛大にあくびをした。
退屈だからじゃない、むしろ逆……とても疲れているんだ。
上級令嬢フランソワーズの買い物に付き合うって、色々な意味で、体力も精神力もゴリゴリに削られる。
「クロガネ君、あくびなんてして。護衛がそんなことでどうするの?」
「いや、護衛って俺ひとりで大丈夫なのかって話なんだけど……」
まあ彼女は、魔法なら四属性魔法から召喚魔法まで、なんでもござれの超優秀な令嬢なので、一人で出歩いても問題は無いのだが、護衛を付けるということが、ひとつのステータスらしい。
「令嬢として、見栄えは重要です」
「俺は、アクセサリーか」
そう言った瞬間だった。
『ガシッ』
俺たちは怪しい男三人組に囲まれた。
「お、おいおい……展開が早すぎない?」
俺は、フランソワーズを護るように立ち、構える。
「クロガネ君、ちゃんとお話を聞いてあげなさい。失礼よ?」
いや、誘拐犯に礼儀とか必要か?
「俺たちは誘拐犯だ。ついて来てもらおう」
男の一人が低い声で言った。まさかの「令嬢誘拐」スタートだ。
「へぇ、面白そうじゃない。行きましょう、クロガネ君」
「面白そうって言った?」
こうして、俺とフランソワーズは、なぜか自分から誘拐犯について行くという、前代未聞の展開になった。
◆
連れて行かれた廃屋で、誘拐犯たちは震える手で手紙を書いていた。
「身代金は……金貨三十枚で……」
「少なすぎますわ。五千枚にしなさい。」
「「「はぁ?」」」
フランソワーズは、さらりと数字を書き換えた。
「当家を舐めないで。三十枚なんて、お父様の朝食代にもならないわ」
「いや運べねぇよ! 重さで死ぬわ!」
「黙りなさい! 誘拐犯のくせに弱気ね!」
誘拐犯より強い令嬢って何?
話を聞けば、誘拐犯たちは、病気の家族のため、悪徳金融から薬代を借りたら、騙されて、今や借金まみれらしい
「じゃあ、俺が手紙を届けてくるよ」
仕方なく、俺は誘拐犯の使い走りとして、フランソワーズの屋敷へ向かった。
◆
フランソワーズ様の父――成金侯爵、もとい上級貴族は、俺を見るなり目を細めた。
「お前も誘拐犯の仲間だな?」
「違いますって!」
そこに、侍女が一歩前に出てきて、静かに言った。
「この方は、令嬢が“信頼している男性”でございます」
……父親の前で、なんか恥ずかしい。
「可愛いフランソワーズの身代金が、たった金貨五千枚なんて、嘆かわしい」
父親は不満らしく、口をへの字に曲げた。
上級貴族の金銭感覚は、理解不能だ。
◆
広場には、金貨五千枚が入った大きな革袋が置かれていた。
騎士団が小分けにして運んできて、大きな革袋に入れ直したのだ。この重さなら、誘拐犯は持てないと、俺が入れ知恵した作戦だ。
周囲には騎士団が潜み、誘拐犯を待ち伏せしている。
俺は、路地に隠れて様子を窺う。
『ドォォォン!』
突風とともに、巨大な影が降りてきた。
ドラゴンだ!
革袋をガバッと掴むと、そうとうな重さなのに、軽々と、そのまま飛び去った。
「な、なにぃぃぃ?」
「ドラゴンだと!」
騎士団が大混乱に陥っている。
「あれがフランソワーズ嬢の召喚獣か……」
彼女は「あの子が可愛いの」って言っていたが、可愛いの基準どうなってんだ?
◆
俺は、フランソワーズが隠れている廃屋へ戻った。
「ありがとう、三十枚だけ受け取った。これで借金返して、真面目に働くよ」
誘拐犯たちは深々と頭を下げた。
「……フランソワーズ嬢は、優しいんだな」
「当然よ。だって、悪いのは……」
馬車での帰り道、悪徳金融の屋敷の前を通りかかった。
屋敷は、ドラゴンが落としていった岩で押し潰されていた。
「悪いのは……あっちの方だもの」
「やりすぎじゃないのか?」
俺の困ったような表情に、フランソワーズはくすっと笑った。
「クロガネ君、護衛って楽しいでしょう?」
「心臓がもたない」
そんな俺の嘆きをよそに、令嬢は今日もご機嫌だった。
―― またね ――




