表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

異世界で暇してたら ――ご令嬢と誘拐犯と俺――

作者: 甘い秋空
掲載日:2026/05/30


「ふあぁぁ……」

 王立騎士学園中等部の俺――クロガネは、街角で盛大にあくびをした。

 退屈だからじゃない、むしろ逆……とても疲れているんだ。

 上級令嬢フランソワーズの買い物に付き合うって、色々な意味で、体力も精神力もゴリゴリに削られる。


「クロガネ君、あくびなんてして。護衛がそんなことでどうするの?」

「いや、護衛って俺ひとりで大丈夫なのかって話なんだけど……」

 まあ彼女は、魔法なら四属性魔法から召喚魔法まで、なんでもござれの超優秀な令嬢なので、一人で出歩いても問題は無いのだが、護衛を付けるということが、ひとつのステータスらしい。


「令嬢として、見栄えは重要です」

「俺は、アクセサリーか」

 そう言った瞬間だった。

『ガシッ』

 俺たちは怪しい男三人組に囲まれた。


「お、おいおい……展開が早すぎない?」

 俺は、フランソワーズを護るように立ち、構える。

「クロガネ君、ちゃんとお話を聞いてあげなさい。失礼よ?」

 いや、誘拐犯に礼儀とか必要か?


「俺たちは誘拐犯だ。ついて来てもらおう」

 男の一人が低い声で言った。まさかの「令嬢誘拐」スタートだ。


「へぇ、面白そうじゃない。行きましょう、クロガネ君」

「面白そうって言った?」

 こうして、俺とフランソワーズは、なぜか自分から誘拐犯について行くという、前代未聞の展開になった。


 ◆


 連れて行かれた廃屋で、誘拐犯たちは震える手で手紙を書いていた。

「身代金は……金貨三十枚で……」

「少なすぎますわ。五千枚にしなさい。」

「「「はぁ?」」」

 フランソワーズは、さらりと数字を書き換えた。


「当家を舐めないで。三十枚なんて、お父様の朝食代にもならないわ」

「いや運べねぇよ! 重さで死ぬわ!」

「黙りなさい! 誘拐犯のくせに弱気ね!」

 誘拐犯より強い令嬢って何?


 話を聞けば、誘拐犯たちは、病気の家族のため、悪徳金融から薬代を借りたら、騙されて、今や借金まみれらしい

「じゃあ、俺が手紙を届けてくるよ」

 仕方なく、俺は誘拐犯の使い走りとして、フランソワーズの屋敷へ向かった。


 ◆


 フランソワーズ様の父――成金侯爵、もとい上級貴族は、俺を見るなり目を細めた。

「お前も誘拐犯の仲間だな?」

「違いますって!」


 そこに、侍女が一歩前に出てきて、静かに言った。

「この方は、令嬢が“信頼している男性”でございます」

 ……父親の前で、なんか恥ずかしい。

「可愛いフランソワーズの身代金が、たった金貨五千枚なんて、嘆かわしい」

 父親は不満らしく、口をへの字に曲げた。

 上級貴族の金銭感覚は、理解不能だ。


 ◆


 広場には、金貨五千枚が入った大きな革袋が置かれていた。

 騎士団が小分けにして運んできて、大きな革袋に入れ直したのだ。この重さなら、誘拐犯は持てないと、俺が入れ知恵した作戦だ。

 周囲には騎士団が潜み、誘拐犯を待ち伏せしている。

 俺は、路地に隠れて様子を窺う。


『ドォォォン!』

 突風とともに、巨大な影が降りてきた。

 ドラゴンだ!

 革袋をガバッと掴むと、そうとうな重さなのに、軽々と、そのまま飛び去った。

「な、なにぃぃぃ?」

「ドラゴンだと!」

 騎士団が大混乱に陥っている。


「あれがフランソワーズ嬢の召喚獣か……」

 彼女は「あの子が可愛いの」って言っていたが、可愛いの基準どうなってんだ?


 ◆


 俺は、フランソワーズが隠れている廃屋へ戻った。

「ありがとう、三十枚だけ受け取った。これで借金返して、真面目に働くよ」

 誘拐犯たちは深々と頭を下げた。

「……フランソワーズ嬢は、優しいんだな」

「当然よ。だって、悪いのは……」


 馬車での帰り道、悪徳金融の屋敷の前を通りかかった。

 屋敷は、ドラゴンが落としていった岩で押し潰されていた。

「悪いのは……あっちの方だもの」


「やりすぎじゃないのか?」

 俺の困ったような表情に、フランソワーズはくすっと笑った。

「クロガネ君、護衛って楽しいでしょう?」

「心臓がもたない」

 そんな俺の嘆きをよそに、令嬢は今日もご機嫌だった。


  ―― またね ――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ