表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/37

第12話:閉ざされた観測(前編)

本作は一話完結型、日曜日・水曜日の週2回更新です。


この世界は、おそらく並行世界。

どこかで、我々と分岐した世界。

超常との距離が、わずかに近い世界。


この超常を総称して「幽玄」という。



《依頼書》


依頼者:幽玄管理庁(UGA)交渉局

依頼内容:封鎖施設で発生している認識異常の調査および鎮静

現場:北陸地方沿岸部 旧軍地下通信施設「K-42」


異常概要:

・夜間、電源のない通信機が作動する

・存在しない部隊番号および古い軍用符号の無線記録が確認される


制約:

・施設内部は崩落の危険あり

・通信機に触れるとノイズが発生し記録が消失する

・現象は午前0時43分に発生


報酬:成功報酬 480万円



机の向こうで、UGAの担当官が資料を閉じた。

白い蛍光灯が静かな部屋を照らしている。古い紙の匂いが微かに残っていた。


担当官は少しだけ首を傾ける。


「奇妙なのは通信内容より、むしろ“形式”です」


男は資料の一枚を指先で示した。


「この無線符号、戦時中のものなんですが」


「普通の部隊じゃない」


短く息を吐く。


「特殊幽玄事案対処連隊」


一瞬だけ沈黙が落ちた。

男は資料をめくりながら言葉を続ける。


「記録では……存在した期間が短すぎるんです」


「活動記録もほとんど残っていない」


紙の端に、古い番号が印刷されている。

《通信記録:第六観測班》


担当官はそれを指で軽く叩いた。


「奇妙なのはもう一つ」


「通信の最後が必ず同じで終わる」


彼は資料を読み上げる。


「――『連隊長は無事か』」


男は少し困ったように笑った。


「誰のことを言っているのかは、当然ですが……記録には残っていません」


資料が静かに机に置かれる。

部屋は再び静かになった。


その沈黙の中で、余白が口を開く。


「まだ亡霊が必要か……適任者は僕だね。行くよ」


地下資料室の空気がわずかに動いた。

UGA担当官は一度だけ目を伏せ、ゆっくりと頷く。


「……受諾、確認しました」


彼は机の端末を操作した。

画面に淡い青の承認表示が浮かぶ。


《依頼受諾:登録名 余白》

《交渉局管轄案件として記録》


担当官は端末を閉じた。


「現地には監視班が最低限の安全確認だけしています。それ以上は触れていません」


少しだけ間を置き、言葉を選ぶ。


「……触れると、通信が途切れるので」


男は資料をもう一枚差し出した。


古い写真だった。

海岸近くの丘をくり抜いて造られたコンクリート施設。入口の上には錆びた銘板が残っている。


K-42 通信施設


写真の隅には、うっすらと兵士たちが写っていた。

ぼやけているが、軍服の形だけは分かる。


担当官が静かに言う。


「もし、単なる残響なら……声を聞くだけで終わるかもしれません」


しかし言葉はそこで止まる。

男は小さく息を吐いた。


「ただ」


「もし違うなら――」


彼はそれ以上言わなかった。



新潟県沿岸部。

夜の海は静かで、波の音だけが低く続いている。


崖の途中に、半ば土に埋もれたコンクリート構造物があった。

旧軍地下通信施設K-42。


鉄扉は既に開けられている。

UGA監視班の簡易灯が通路を照らしていた。


内部は古い軍施設特有の直線構造だった。

湿ったコンクリートの壁。剥がれた配線跡、床には錆びたボルトが散っている。


奥へ進むと、小さな通信室が現れた。


机。無線機。送信機。

すべて戦前の機材だ。電源は当然、入っていない。


監視班の若い職員が緊張した声で説明する。


「……これです」


彼は無線機を指した。


「毎晩、ここから音が出ます」


職員は腕時計を見る。


「あと……十秒」



ここまでお読み頂き、誠に有り難うございます。


もし、本作を“面白い”と感じて頂けましたら、

ブックマークやご評価(★)を戴けると、大変励みになります。


拙いながらもコツコツ投稿しておりますので、

「また読みたい」と思って頂ければ幸いに存じます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ