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第6話:あふれる記録(前編)


この世界は、おそらく並行世界。

どこかで、我々と分岐した世界。

超常との距離が、わずかに近い世界。


この超常を総称して「幽玄」という。



《依頼書》


依頼者

株式会社アーカイヴ・リネア


依頼内容

社内記録庫に発生した異常の調査および解決


現場

アーカイヴ・リネア本社

地下資料保管庫(第3保管区画)


異常概要

保存資料の一部に「存在しない記録」が混入。


閲覧者の証言が一致せず、

閲覧後に記録内容が変化する事例が複数報告されている。


同一資料を複数人で閲覧した場合、

互いに「相手が嘘をついている」と証言する例が発生。


制約

資料の物理的破棄は禁止(契約上の理由)

電子記録化・持ち出しも不可


成功報酬

2,800万円



書類を閉じる音が、静かな事務室に落ちた。


机越しに座る女性がこちらを見る。

UGA職員ではない。企業の法務担当らしい。


だが、その言葉選びは妙に慎重だった。


女性が口を開く。


「正直に言います。最初は単なるデータ事故だと思いました」


彼女は少し指を組み替える。


「でも、記録の“内容”が変わるんです」


「閲覧した人ごとに、書いてあることが違う」


わずかな間、言葉が止まる。


「……それだけなら、まだいいんです」


視線を落とし、小さく続けた。


「問題は、存在しない記録番号の資料が増えていることです」


彼女は一枚の紙を机の上に滑らせた。


資料番号

A3-11482


タイトル

《夜の裏側から届いた手紙》


女性が小さく肩をすくめる。


「うちの会社、百年近く記録管理をやってます」


「でも――この資料、誰も登録していないんです」


静かな沈黙が落ちる。


女性は声を少し落とした。


「……なのに、保管庫には確かに置いてある」


「しかも」


一拍。


「閲覧すると――」


言葉が止まる。


「……読むたびに内容が違う」


女性は少し迷うように視線を泳がせた。


「二人で同時に読んだこともあります」


「でも……」


声が少し震える。


「互いに、相手が嘘をついていると思った」


静かな事務室。


エアコンの風だけが小さく鳴っている。


余白は依頼書を指先で軽く叩いた。


「乱暴はしないけど、データはデリケートだから」


少し肩をすくめる。


「制約通りの保証はできないよ」


女性は一瞬だけ目を瞬かせる。


それから、小さく息を吐いた。


「……分かりました」


「こちらも完全保証なんて無理だとは思っています」


彼女は書類を閉じ、契約欄に視線を落とす。


「物理破棄さえ避けてもらえれば、それで結構です」


一瞬、苦笑した。


「電子データについては事故扱いで処理します」


「正直、もう事故なのか何なのか分からない状態ですけど」


彼女は立ち上がる。


「では、現場へご案内します」



地下へ降りるエレベーターは古かった。


静かなモーター音だけが、密閉された箱の中に響く。


表示灯が止まる。


B3。


扉が開くと、冷たい空気が流れ出た。


地下資料保管庫。


長い通路の両側に、天井まで届く書架が並んでいる。


紙資料。

マイクロフィルム。

光学ディスク。

磁気テープ。


百年分の記録が、静かに眠っている場所だった。


だが――


奥の区画。


第3保管区画の前には、黄色い規制テープが張られていた。


女性が足を止める。


「ここです」


彼女は小さく指し示す。


「問題の資料が出たのは、この区画」


テープをくぐりながら続けた。


「最初は一冊でした」


「でも今は……」


言葉が止まる。


視線の先。


書架の一列。


そこだけ妙に隙間が多い。


本が抜き取られたわけではない。


最初から存在していなかったはずの棚が増えている。


女性が小さく呟く。


「……増えてる」


「また、棚が増えてる」


余白は視線だけを動かした。


書架の背。


白いラベルが並んでいる。


A3-11479

A3-11480

A3-11481


そして。


A3-11482


薄い灰色の保存箱が、そこに置かれていた。


女性が小さく言う。


「……あれです」



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


もし本作を面白いと感じていただけましたら、ブックマークや評価をいただけますと励みになります。

ひとつひとつの反応が、次の事案へと繋がっていきます。


それでは、また次の事案で。


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