2話
本日3話目です。
また、明日登校したいと思います。
よければ、お楽しみいただければ何よりです。
3年生になって初めての部活があった。うちの中学校は生徒の人数が多すぎるのに体育館が1つしかないからバドミントン部は少し離れた市民体育館に移動して活動をしている。
少し遅れてしまったのもあり、自転車に乗り急いで校門を出る。春風に吹かれて桜が舞っている。
社会人になってからの日々は季節の移ろいにも思考が割けないくらい多忙だったのだと実感する。ふと、周りに意識をまわしてみると、グラウンドからは野球部の威勢の良い掛け声が聞こえてくる。インターハイを目指してがんばっているらしい。たしか、この年の野球部はインターハイで準優勝をしていたはずだ。
そんことを考えていたら、
「おい!遅れだぞ!」
と大きな声が聞こえる。驚いて声をする方を見ると、男子バドミントン部の顧問である林先生だった。車に乗って向かう途中らしい。
「すみません!急いでいきます!」
林先生は言い訳が嫌いなことで有名な先生だった。この時代は首根っこ掴まれることも平気であったのもあり、大人しく謝ってやり過ごすことにした。自転車のスピードを上げて、市民体育館に着いたら準備している智を見かけたので、声をかけることにした。
「智、準備ありがとうな。他の部員は?」
「遅いぞ十森!他の奴らは部活見学に来た女子を見に行ったぞ。俺たちも準備して行こうぜ。」
「やめたほうがいいぞ。」
「なんでだよ!キレイな子がいるらしいんだよ!」
「今は、だめだ。ヤッシーが来てる。」
「林先生が?それは行かないのが正解だな。」
そんな話をしながらポールを立てて、ネットを張っていると林先生に連れられて男子部員がぞろぞろ来た。
「十森!部員が準備もしないでさぼっているのはどういうことだ!」
やばい、林先生が怒ってらっしゃる、、、
その後、俺たちはお説教をくらい罰として体育館の周りを20周することになった。1周が約400mなので、8km走った。全員が走り終わる頃には部活が終わる30分前になっていた。
「くそー!なんで俺達まで走らないといけないんだよ!」
オレが走り終わって座り込んでいるみんなを横目に叫んだ。すると、
「そりゃ、お前ら部長・副部長が止めなかったからだな。」
そんなことを言ってくるのは、部員の藤原 秀樹だった。
ひょうきんな性格で後輩にも話しかけたりしていてコミュ力がバケモン並のすごいやつだ。たしか、社会人になってから都会の総合商社で稼いでるって聞いたことがある。
智は、苦手に思っているらしいが、オレは秀樹のやさしいところも知っているから嫌いになれない。
「うるせー秀樹!どうせお前が引っ張って後輩たちも連れていったんだろ!」
智がそう詰めると、
「あら、ばれてたか。ごめんごめん。」
と反省しているのかわからない態度で謝っている様子を見て、智がイライラしていた。
これはまずいと思い、声をかけることにした。
「まあまあ、さっさと戻って基礎打ちだけでもやろうぜ!」
「そうだな。秀樹たちも早く立って中に戻るぞ!」
そう言って中に戻り、シューズに履き直していたとき、前から声がした。
「あ、男子がもどってきた。コート使う?」
顔を上げて前をみると、紗英だった。女子も休憩に入っているようだ。
昼休みのこともあって、どう声をかけようか迷っていたら、
「あれ紗英じゃん。男子もするからコート返してちょ。」
秀樹だった。そういえば、こいつら仲がいいんだったな。少し、胸が重くなったような気がして口が動かなかった。
「なんだよ秀樹。難波と仲いいのか?」
「そうだよ智。2年生のときに同じクラスだったんだよ。」
そう。この2人は同じクラスだったんだよな。そして、メールするような仲なんだよな。わかってはいたが口には出さず、3人のやりとりをずっと眺めていた。
「難波。男子も帰ってきたから、コートを使わせてくれ。基礎打ちしたいんだよ。」
「いいよ。てか、女子はもう片付けて帰ろうとしていたから全面使っていいよ。」
「お!紗英サンキューな!おい、みんなーコート全部使わせてくれるってよ!」
秀樹が男子部員に声をかけると、喜びの声が返ってきた。市民体育館を使えると言っても女子と半分ずつで、いつも半分のコートしか使えずに基礎打ちも全員できずに部員の半分は筋トレすることが常だったからみんなの反応も頷ける。
そんなやり取りを聞きながらオレはさきほどの気まずさからか、その場から離れようとした。体を体育館の扉の方に向けて歩き出そうとしたとき、
「ねえ。」
だれかを呼ぶ声がした。おそらく、秀樹か智を呼ぶ声だろう。オレはそう思って歩みを進めた。そして、それまでの胸のもやもやを晴らすように基礎打ちでは力いっぱいスマッシュを打って智の頭にぶつけてしまい、怒られるのであった。
ーーーーーー
次の日、登校してクラスに入る。まだ、違和感のある雰囲気がある。まるで、人の家に入ってきたかのような変な緊張感がクラスを包んでいた。特に挨拶するような人もいないから自分の席に座って朝のホームルームがあるまで時間を潰そうと心に決めていた。
「はあ、こんなときにスマホがあればな。地味にスマホゲームできなくなったのが辛いな。」
「おはよ。」
振り返るとマッシーこと眞島 誠士郎だ。バスケ部のエースで性格も顔も陽キャのような人間だ。女子バスケ部のマドンナと付き合っていることを周りに隠している。このクラスで知り合ったが、実はマッシーの家の近くにオレの実家があることを知ってから仲良くなっていくのだ。だが、今は初対面ということを忘れずに話をしなくては。
「おはよ。眞島だっけ?」
「そそ。みんなはマッシーって呼ぶから、ぜひ気軽に呼んでくれ。」
「ありがとよ。マッシーは、バスケ部だったよな。部活紹介とかどうするの?」
この間の紗英との会話みたいにボロがでないよう、話題を作っていくことにした。
「バスケ部は毎年、シュートしているところを新入生に見せてるから、それの練習をしてるよ。」
そう言えばそうだった。たしか、シュートの最後に誰かがダンクを肩車で決めて盛り上がっていたな。やっぱ、バスケ部はおもしろいやつらが集まっているから何をしてもウケそうだな。
「オレたちが新入生のころもそうだったよな。いっそのこと誰かにダンクさせたらおもしろくなるんじゃね?」
「お!それいいじゃん!おもしろそうだな。今日の部活でみんなに言ってみるよ。」
「ケガだけはするなよ。マッシーはイケメンなんだからよ。」
「十森ってめっちゃいいやつだな。これからもよろしくな!ちょっと、となりのバスケ部に相談してくる!」
そう言って、マッシーは走って9組行ってしまった。また、一人ぼっちになってしまった。どうせ、暇だから懐かしい中学校の教科書でも眺めることにするか。そう思って数学の教科書を適当にめくっていく。見始めるとおもしろくて、つい問題を解いてしまっていた。中学生の頃は拒否反応がでるくらい数学の教科書を見るのが苦痛だったのに、社会人を経験するとこんなにもおもしろく感じるのかと不思議に思いながら、ペンを走らせていた。すごい集中していた。成熟した精神と15歳の若い肉体、いまだかつてないほどの集中力をもたらしていた。周りの音も聞こえなくなるぐらいに。
どれくらいの時間が経っただろうか。座っていた椅子に衝撃が走る。
「うおっ!!」
急に椅子の裏側をだれかに蹴られたようだった。驚いて体が一瞬だけ宙に浮いたような気がした。
「ねえ!いい加減、無視しないでよ!!」
怒り口調の紗英だった。オレは何が起こったのかわからずに頭の中が真っ白になり、ただひたすらに紗英の顔を眺めていた。
「さっきから、声かけたのに無視するのひどくない?!」
「え、さっきからって?」
「10分くらい前から挨拶したり、話しかけたりしてたんだよ!なのに、何も返事がなくて。ずーっと数学の教科書なんか見て何か書いてたから無視されているのかと思って、椅子を蹴ったの!」
おっと。いつの間にか紗英が話かけていたのを無視していたらしい。若いからだの集中力ってすごいな。てか、無視されたぐらいで椅子を蹴るなよな。まあ、紗英らしいんだけどよ。
「まじか、無視してるつもりはなかったんだよ。数学の教科書がおもしろくて。」
「絶対うそじゃん。数学の教科書ってまだ、何も習ってないじゃん。」
「いや、まあ、習ってはいないんだけど。知っていたというか。無視してごめんよ。」
「昨日も部活のときに無視してたから、嫌われたのかと思って、腹たっちゃった。」
まじか。あのときに呼んでいたのはオレだったのか、、、?いやいや、そんなわけないよな。話すようになったのは昨日とかだよな。
「気づかなくてごめんって、てっきり秀樹に話しかけているのかと思ってさ。」
「別にいいけどさ。てか、十森って勉強できるの?」
「平均点は80点ぐらいだと思うぞ。」
たしかこの時代の高校受験は、平均85点ぐらいとれると県内有数の進学校にいけるぐらいだったはずだ。
「え!ちょー意外!!十森って頭悪いかと思ってた!」
「うるせー!意外は余計だ!そういう難波はどうなんだよ!」
「平均は70点ぐらいだよ。てか、苗字呼びに変えたの?」
「そんなこといいだろ。難波の方こそもっと勉強しろよな。」
「やめてよ!今は、部活で精一杯なの!」
なんとか名前呼びのところをごまかせたと思っていた。内心では紗英と再び話ができることの楽しさとともに今後の関わり方については関係性を作り始めていることを念頭に置かなければならないことを再認識していた。
そんな言い合いも懐かしく感じる。楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまうもので、担任が教室に来て朝のホームルームが始まった。
「それでは、席替えをするぞ。くじ引き用意したから名簿番号順に引いていけよー。」
担任の指示のとおりに名簿番号の1番から順番に引いていく。オレの記憶が正しければ、ここで紗英と隣になっていたはず。だが、やり直ししてから同じ道筋を歩んでいるわけではないのだから必ずしもそうなるとは限らないのだ。考えていたら、オレの順番がきた。担任が用意してくれていた箱に手を伸ばす。変な緊張感が体をめぐる。手に湿り気を感じ、どの紙をとるべきか集中する。何秒経っただろうか、なかなか決まらずにくじを迷っていると後ろから
「十森!はやくしてよー待ってるんだけどー!」
と紗英に急かされる。その瞬間、心に決めた1枚を選ぶ。
その後、すぐに紗英もくじを選び、席を移動する時間が訪れた。
「では、くじの番号と黒板に書いた席番号をみて机と椅子ごと移動してー。」
担任の言葉を合図に全員が一斉に机を動かし始める。紗英の方に意識を向けると、どうも女子グループでお互いに席を確認し合っているようだった。仕方無しに自分の机を移動することにした。
まだ、オレの隣には人が来ていないようだった。クラスの3分の1ぐらいが移動を終えて、様々な反応が見られた。仲の良い人間と近くになれて喜びあっている人。全く知らない人しか周りにいなくて、意識を次の授業の準備に向けている人。
気づくと、紗英のいる女子グループ以外が移動を終えていた。担任に促されて紗英たちも移動をしはじめる。その瞬間、顔を下げてしまっていた。それはまるで何かに祈りでも捧げるているような不思議なポーズをしていたことだろう。なぜ、自分は顔をあげられないのだろうか。机の動く音がする。数台あった机の中でこちらに近づく音。音に集中してしまう。。
ガンッ!
机がぶつかった?隣の人が来たみたいだった。紗英は身長が小さく机の大きさもオレの机より小さいはずだった。机の大きさが異なるとき、机の天板同士がぶつかることはない。その事実に気づいた瞬間、なぜか落胆した。集中して止まっていた呼吸がスタートし、息を吐く。
「ちょっと!ため息とかすごい失礼じゃない!!」
そう言われて肩を殴られた。痛みを感じ、謝らなくてはと思い顔を上げた。
「ごめんっ!ん、紗英?!」
「そうだけど!悪い!?」
目の前にいたのは紗英だった。机をみると天板同士がピッタリとくっついていた。
そう言えば、このあとに机の大きさを揃える話題になるんだった。
「悪くねーよ。てか、ため息じゃない!」
「そうなん?ならいいけど。てか、後ろの次はお隣りだね。よろしくー」
「おう。よろしく。」
叩かれた肩をさすりながら紗英とは反対方向に顔を向ける。口角があがってしまっているのを実感したからだ。その後、担任から机の大きさ調整の話があり、授業がはじまるまでだれもいないグラウンドを見る羽目になってしまった。




