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9話

本日は、いつもより長めです。


テスト週間の土日休みになった。



「あんた、いい加減起きなさいよ!」


母親の声と同時に布団が飛んでいく。

学校も部活も休みとると、起きる時間がいつもよりもルーズになってしまう今日このごろ。社会人のときには自由に眠ることもできない反動からか永遠に惰眠を貪ろうとしてしまう。いつもなら部活というイベントで起きるのだが、テスト週間には制約がないため布団から出られないのだ。


「わかったよ。もう起きるよ。」


「もう、昼前じゃないの!昼ごはんを食べちゃいなさい!」


時間をみると、11時をすぎたところだった。昼食をとって、午後の過ごし方を考えていると、


「そう言えば、母さんの友だちが昼過ぎに来るから居づらかったら、どこか出かけてきなさいね。」


「わかったよ。」


仕方ないので、ご飯を食べたら出かけることにしよう。と言っても、中学生が喫茶店で勉強するにはここは田舎すぎる。仕方がないので図書館で本でも読むことにしよう。


「母さん、オレ図書館に行って勉強してくるよ。」


「はいよ。気をつけていってきてね。最近は不審者も出てるって聞くから。」


身支度を整えて、自転車に乗る。風を切って図書館への道を進む。


なんか時間の流れがゆったりなことに心が揺れる。思い返してみると、公務員として働いていたころは心を無にして平日は夜遅くまで働き、休日は終わらなかった仕事をすることが多く、たまの休みも体を休めることに精一杯になっていた。まるで死に向かって生き急いでいるようだった。


大人になってもたまには、のんびりと自転車を漕いでどこかに行くのもありだな。


そうこうしているうちに図書館についた。


「チャリ小屋がいっぱいだな。」


言葉の通り、テスト週間の休日というのもあってか学生の自転車で溢れかえっていた。



ーーーーー



図書館に入ると、案の定、学生たちでいっぱいになっていた。どこを見て回っても一人席は使用されており、どこにも座れない状況だった。


最後の望みをかけて、休憩スペースにやってきた。ここは、図書館で唯一、おしゃべりや飲み食いが許可されており、集中して勉強したい人にとっては不人気の場所であった。しかも、休憩だけの人もいるため入れ替わりも早いため可能性は十分にあった。


休憩スペースにつくなり、空いている席がないか探していると、カップルでご飯を食べていた席が空いたところだった。そこに座って、勉強道具を広げる。


「母親に勉強しに行くと言ったからには宿題くらいはやっておかないとな。」


テスト前というのもあってか、いつもよりも課されていた宿題に向かい、集中する。



「あれ、十森?」


どれくらい経っただろうか。宿題の9割を終えた頃に声をかけられた。声の主を探すと、ペットボトルを片手に持っている紗英が向こうからやってきていた。


「やっぱり十森だ!なんで休憩スペースなんかで勉強してるの?」


その疑問も最もだろう。休憩スペースは一人で勉強するには環境は良くない。喋り声はしているし、ご飯を食べる人もいるため匂いがしていて集中できないところで人気はない。


「おお、難波も図書館で勉強か。オレは、昼近くまで寝ていたからここしか空いてなかったんだよ。こんなところで何してるんだ?」


「見て分からないの?飲み物が欲しくなったから買いに来たんだよ。」


有名な飲料メーカーの炭酸飲料をこちらに見せてくる。


「そうか。てか、図書館で勉強とかえらいじゃん。いつもは塾でしか勉強しないだろ?それともテスト週間でダラダラしてて親に怒られたのか?」


「そんなわけあるか!この間、アンタと話をしてて高校受験もあるし、ちゃんと勉強しようかなって思っただけだし。」


紗英は慌てた様子で応える。その後に俺の机を見て、気づいたように話を続ける。


「そっちは宿題だよね。終わりそうなの?」


「ああ、そうだよ。これが終わらないと勉強もできないからな。」


「ふ〜ん。あっ!」


紗英は、何か思いついたような顔をして戻っていった。


何が言いたかったんだ、アイツは。考えても仕方ない。次は、数学のプリントでもするか。


しばらく、数学のプリントをしていると、


ドサッ!


顔を上げると、紗英が教科書やノートを机の上に積み重ねていた。大量に入っていたようで全教科あるみたいだった。


「ねえ、この数学の問題がわからなくて、教えてくれない?」


差し出されたプリントを見てみると、因数分解の問題だった。何度か書いては消しゴムを使ったあとが残っており、若干くしゃくしゃになっている。


「この因数分解する問題か?」


「そうそう。答えを見ても全くわからなくて。」


今までの復習を兼ねている問題であるが、たしかにひねられている問題だった。


「いいよ。ここは、まずxでまとめてから、この公式を使えるようにして考えるといいと思うぞ。」


「なるほど!んじゃ、こっちは?」


「こっちは、1度計算をしてから、ーを前に出してから考えると、さっきと同じ公式で使えるよ。」


「すごっ!次もお願い!」


これを繰り返すこと十数回、30分が経とうとしていた。


「いやいや、結局、全部解説したじゃないか!」


オレは。長い長いノリツッコミをかますことになった。


「だって、十森が教えるの上手なんだからしょうがないじゃん。」


「いやいや、最初の4問くらいは100歩譲っていいよ。でも、さすがにプリントにある50問はおかしいだろ!」


「ウチもさすがにダメかなって思ったけど、十森もいいよってずっと言うから、気づいたらこんなことになってたの!」


たしかに、紗英に問題を教えるたびに「すごーい!」だの「まじ、天才じゃん!」とか「センスあるね!」、、、etrc


紗英は男子をのせるのがうますぎる、前の世界で一度だけ仕事の付き合いで連れて行かれたキャバ嬢なみの反応だった。正直、こうやって男子は女子にのせられて沼っていくのだろうと思っていたよ。


「たしかに、他のプリントまでお願いしたらダメだよね。あとは、一人で頑張るよ。ありがとね、十森。」


紗英が笑顔でこっちを見る。その笑顔をみると、動揺していたオレの心がさらに揺れ動いてしまう。


「お、おう。そうしてくれ。」


オレは顔を隠すように自分のプリントをし始める。気持ちを落ち着かせるように小さく深呼吸を何度か行った。そして気づいた。


てか、紗英が向かいの席から移動しないのだが!!!


なんでだ!もう、用事は終わっただろうになぜ居座る?そもそも、カバンごと持ってきているじゃないか。おかしすぎるぞ。そして、なぜ今まで気づかなかったのだオレよ!!!


今さら、気づいてもあとの祭りだった。


今からでも、自分の席に帰れと言うか?


いやいや、そんなことをしたらオレが嫌なやつみたいじゃないか。かといって、ここで2人で勉強しているのを他のやつらに見られでもしたら騒ぎになることは避けられない。


一旦、心を整理するために視線を横にずらす。休憩スペースは周りがガラス張りになっており、外の風景がよく見える。スケートボードで遊んでいる高校生ぐらいの人たちを眺めることにした。けっして、逃げているのではない。戦略的撤退なのだ。


すると、オレの足に何かが触れる感触がした。今、そんなことができるのは幽霊か目の前にいる紗英しかいない。偶然、当たってしまったのだろう。


また、足に誰かの足がぶつかる感触があった。さすがにニ回目になると偶然とは思えなかった。もしくは、小学校低学年なみの落ち着きのなさを露呈させているのかもしれない。


顔を上げると、紗英がこちらを見ていた。


「なに見てるの?」


急に問いかけられて、頭の中でさらなる混乱を生んだ。紗英の上目遣いがあまりにもかわいすぎたのだ。それは、子猫が相手してもらえない飼い主に構ってほしいと仕草で表すときのような破壊力があった。


「い、いや。なんでもないよ。外でスケボーやってるの珍しいなと思ってさ。」


噛んでしまった。くそっ。絶対にキモいって思われた。


「ふ〜ん。てっきり、かわいい女の子でもいるから見てたのかと思ったー。」


「そんなわけあるか!紗英といるのにそんなことするかよ!」


「ふ〜ん。そうなんだ。」


紗英はいたずらが成功した子どものような笑顔でこちらを見ていた。


「てか、十森。また、ウチの名前、紗英って言ってる。」


「あ、ごめん。難波。」


「全然いいのに。てか、十森も紗英って呼んでるほうが普段っぽいの不思議。もしかして、ウチのいないところで名前呼びしてる?」


またしても、名前で呼んでしまった。いつもは気をつけているが、咄嗟のときには名前がでてきてしまう。


「してるわけないだろ!そんなのキモいやつじゃんか。」


「そうかな〜?」


「そうだ!てか、勉強しろよ!」


「は〜〜い。」


また、お互いに勉強にもどる。シャーペンが動く音が机の上を走り回る。シャーペンをみると、当時はやっていた0.3mmのものだった。


数分ほど、プリントの問題を考えていると、足に紗英の足が当たる感触があった。


前に足を出しすぎたかな。と思い、足を後ろに下げた。しかし、また足に当たる感触が続く。このままやられっぱなしは性に合わない。紗英の足に自分の足を当てにいった。


すると、足が動かなくなってしまった。少し考えて心がはねた。オレの推測が正しければ、これはオレの足が紗英の足によって挟まれているからだ。


なぜか、いけないことをしている気持ちになって、足を引き抜こうとするが2つの足の力では負けてしまって動けずにいた。


「おい。足を離せよ。」


「なんのこと?勉強に集中したら?」


紗英はあくまでもしらばっくれる気でいるようだった。そちらがその気ならこちらにも考えがある。


オレは、もう1つの足も使い、自分の足を救いにいった。机の下で挟んでいる足をこじ開けようと力を入れた。


その時、足が外れた拍子に抜け出そうとしていた最初の足が今まで抑えられていたストッパーが急に外れてしまい、上に動いてしまった。そして、紗英の椅子を蹴り上げてしまう。


ドンッ!!!静かな図書館に大きな音が響き渡る。それと同時に、


「ひゃん!!!」


それは、紗英の声だった。急に自分の椅子を蹴られて驚いてしまったのだろうと考えられた。その声はいつもの彼女から想像できないくらい可愛らしい声だった。


「すまん!」


紗英に向かって謝罪の言葉を伝えたが、紗英は下をうつむいて顔を上げようとしなかった。


それもそのはずだ。静かな図書館に衝撃音と同時に自分の高い声が響き渡ってしまったのだ。周りの利用客はこちらに顔を向けている。紗英も恥ずかしさのあまり顔を上がられないのだろう。


「大丈夫か?」


再度、紗英に問いかける。すると、


ガンッ!!


足を蹴ることが返事のようだった。痛い。


「うるさいっ!!」


顔を上げた彼女の顔は、真っ赤で涙目になった顔がこちらを覗いていた。


その表情は、今までの紗英からは想像もできないものだった。いつもの彼女は笑顔で振る舞い、女王様のような気質で性格としては「ド」がつくほどのSだと思っていた。そんな彼女が恥ずかしさに悶えて困っている様子はオレの下半身に刺激を与えるには十分だった。それは、足の痛みなんか気にならないくらいの衝撃でもあった。


「あれ!紗英じゃん!」


オレの背後から女子の声がした。


まずい。ここで紗英と2人でいることがばれたら、いらぬ噂が広まることになる。


「なつみじゃん!どしたのー?」


紗英は、女子バド部の部長でもある金子なつみ の方へ席を立ち駆け寄っていく。


「あれ。紗英、顔赤くない?」


「なんでもないよー。」


「そんなことより、こっちに部活のみんなでいるから来ない?」


「うん。先行って待っててー。」


2人の会話が終わると、紗英は戻ってきてカバンを片付け始める。無言の空間の中でカバンと本が擦れる音だけが聞こえた。


何か声をかけたほうがいいのだろうか。怒らせているかも知れないから下手なことをいうと、さらに嫌われるかもしれないと思うと思考が止まってしまう。


オレは、呪いでもかけられて石になってしまった。そんな中でも紗英は淡々と準備を進み、椅子を戻して、オレの横を通り過ぎていった。


後悔した。このまま彼女を行かせていいのか。これでは、前の世界の自分と変わっていないじゃないか。一歩踏み出せ!!


席をたち、紗英が通り過ぎた後ろに振り向く。紗英もこちらに気づいて振り返っていた。足がすくむ。


そんな中で、自分を鼓舞して、感情にまかせて言葉を紡ぐ。


「あのさ!難波と勉強できてたのしかった!」


前を向けなかった。紗英の表情をみるのが怖かったのだ。これで無視されたとしてもしょうがない。オレは後悔のない選択をしたのだ。


紗英はこちらに向かって歩みを進める。下を向いている自分にも紗英の足先が見える。目の前に来ているのだ。


「十森。」


呼ばれて、顔を上げる。紗英の表情は輝く太陽のようなキレイな笑顔だった。


紗英は言葉を続ける。

「ウチも2人で勉強できてたのしかったよ。また、しようね。」


その言葉を残して去っていく。

オレは、紗英の後ろ姿をおいかけることしかできなかった。こころなしか紗英の歩き方がスキップしているようにも見えるのは幻覚だろう。


オレは椅子に座り、やりきったことへの安堵のため息をついた。そして、気づいた。


周りの人たちがオレの机を見ていることに。休憩スペースであるため近所のおじいちゃんや寝ているおばあちゃんなんかもいたのだが、全員がこちらをチラ見していた。


そこからは速かった。片付けを急いで行い、図書館をあとにした。



ついに、書き溜めていた分が尽きてしまいましたー!


ここから少しペースが落ちるかもしれませんが、頑張っていきます!

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