第15話 主役は遅れてやってくる?
「あっ、続報です」
:こんなほんわかした続報中々ないぞ
:次はなんて言ってるんだろ
「えーっと『もうすぐ着く』らしいです。早いですねー。高速でも乗ったのかなあ」
:いや、そりゃあ流石に高速乗るだろ
:急いでるはずだからな
:それにしても、ゆほちゃんの部屋どうなってんのか気になる¥3500
「あ、スパチャありがとうございます。あんまり言いたくないんですけど、実は結構散らかってて……」
「え? 嘘。結構片付いてると思うんだけど」
「それは、いろはすたちが来るの知ってたから、事前に片づけてただけだよー。いい機会だし、掃除ぐらいしておこうと思いましてですね……」
「へー」
:返事素っ気なさすぎ
:笑える
:↑笑えねえ
:ここで漫才すんなw
:夫婦漫才ならぬ、婦婦漫才だな
:↑なに言ってんだお前
:これは、俺たち人類が理解できる範囲を超越している
:いや、まだ意味ギリわかるだろ
:↑韻踏んだ?
:踏んでねえよ
:よく文字だけでそこまで想像できるな
:お前の想像力に完敗、乾杯
:↑お前は絶対わざとだろ
:お前ら、コメント欄で漫才すんな
:ww
:草
:まだつかないのー?
「まだみたいですね。「マッチョ」って送られてるので」
:は?
:は?
:は?
:は?
:は?
「あー、マッチョっていうのは、サキが勝手に考えた造語で、ちょっと待っての「ちょ」と「待っ」で「マッチョ」らしいです。これで一つ頭がよくなりましたね!」
:は?
:は?
:は?
:は?
:は?
「あ、文句ならサキにいってくださいね? わたしはただありのままを説明しただけなので」
「それにしても、暇ね。マシュマロ読まないのよね」
「マシュマロ? なにそれおいしいの?」
「まあ、おいしいけど、そのマシュマロじゃなくて……」
:まーた漫才やってるよ
:好きだなあ、漫才
:これもう、M1目指せるんじゃないの?
:M1なめんな
:↑お前どこ目線?
「はいはい、もうサキちゃんの造語の説明してたらキリがないから。……それにしっても、初の二期生オフコラボで、よく堂々と遅刻をかませるわね。逆に尊敬に値するわ」
「あ、サキちゃんから、『ありがとう』らしいです」
「なに? 私たちの配信を車内ラジオみたいにして聞き流してるの? 良い度胸じゃない。というか、ほめてないわよ、皮肉よ。皮肉」
「『もう着く』らしいです。というか、なんか私がサキちゃんからメッセージを読み上げる機会みたいになってるんですけど、どうにかなりませんか?」
「どうにもならないわ」
「そんな殺生な……」
「別に殺生なこと何も言ってないでしょ。辞めればいいだけじゃない。遊歩がメッセージ読むのを」
:倒置法
:倒置法だ
:こ、こいつ、倒置法の使い手だったのか
:↑お前らなにで盛り上がってんの?
:辞める、メッセージ読むのを→わかる。それで盛り上がる→わからない
:お前らっていっつもめちゃくちゃだよな
:↑それって誉め言葉?
:配信内容とおんなじことすんな
✕ ✕ ✕ ✕
そうこうしているうちに、配信開始からまあまあ時間が経った。
一時間は経っているんじゃなかろうか。
すると、ピンポーンと音がする。気配でわかる、こいつぁAnyazonではないと。
そう、希雨サキ一行であると。
✕ ✕ ✕ ✕
「ということがありました」
「そうね。別に説明する必要はないわね」
:辛辣
:それがいい
「希望を願っても全然、奇跡は起こらない。Vlive二期生の希雨サキとー?」
「クソゲー初めて早十年。最近はクソゲーが少なくなってきて悲しい、Vlive二期生、城鐘 ひすいだよー。今回私が用意した企画は―――!!!!!!!」
「はい、今何が起こっているのかわからない人に状況を説明すると、ひーちゃんの口をゆほちゃんが閉ざしています」
:あ、過去のトラウマ
:過去って行っても最近だけどな
:メジャーNii究極クローザーか
:嫌なんだろうな……
画面上には二体のアバターが追加されている。
茶色く、首筋にかかるかかからないかぐらいに切りそれえた髪。赤みががった目。それなりの大きさのある胸。野暮ったいパーカーをかぶった、私。優楽ゆほ。
エメラルドを連想させるような明るい翡翠色の目に、薄く緑がかった神は肩甲骨のあたりまで伸びていて、白を基調とした衣装は鎖骨辺りが開いているが、いつもどおり、「断崖絶壁」というほかないその胸は、みているとなんだかほっこりしてくる。城鐘ひすい。
眉毛にかかった金髪、その金髪を後ろに一つに束ねている。俗にいうポニーテールに幼げのある童顔。碧い目にブレザーを脱いで、シャツだけになっている。希雨サキ。
画面では途切れてしまうほど長い赤い髪に、右目の下にある涙黒子。すらりと細身で、赤紫を基調としたセーターに、私のアバターと比べ物にならないぐらいに膨らんだ胸からは、セーターの上からでも、その存在感を露わにしていた。
赤い目には丸眼鏡がかけられている。それがより大人っぽさを主張している。紅葉彩派。
私といろはすが画面の右側で、ひーちゃんとサキが右側に表示されている。
✕ ✕ ✕ ✕
「ということで、ゆほちゃんの精神面を考慮して、マスマロ返していきたいと思います」
:えー
:もっとクソゲーで苦しもうぜ
:そんな殺生な
:四人も集まってマスマロ返すの?
「あ、安心してください。ちゃんとプレイしますので」
:よかった。これにはワイくんもニッコリ
:ヌハハ! もっと苦しめえ!
「それでは、前半、マスマロ返しを始めます」
そんな、スポーツの開始の挨拶みたいなことを、いろはすがいった。
:スポーツの挨拶かな?
:なにも臆する必要はないんだけどなあ
:おい、お前チュッパチャプスでチョップ(笑)を見てないのか?
:↑みてない
:まあ、ゆほちゃんのマスロはコピペ置き場だから
:それって配信者としてどうなの?
:いいだろ
:いや、でもまともな質疑応答したい時に困らないか?
:まともな質疑応答ってなんだよ
こうして、一度は断念したマスマロ返しがスタートした。




