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#6 戦闘

「繋留ロック解除、七五○一号艦、発進!」


 七日が経ち、いよいよ戦艦アルジャジーノから離れることとなった。約百名を乗せたこの第七十五戦隊の旗艦は、この大型艦を離れることとなった。

 交代した第七十八戦隊はすでに我々の見つけた都市国家との交渉に成功し、同盟交渉にまでこぎつけたという。つまり、地球(アース)一一〇一を連合側に組み込むための第一歩を、進めることができたということになる。

 一方で僕ら第七十五戦隊はといえば、リアという極めて稀な治癒魔術を使う使い手を見つけ、その実験まで行った。その驚異的な力は、今もなお、解析が続けられている。

 粛々と僕らは自らの任務をこなしているが、冷静に考えればとんでもない収穫である。どちらかといえば我が地球(アース)五〇五は中性子星域会戦で大敗し、連合側の勢力域を奪われてしまったという負債がある。それを覆すほどの大発見を、連合側陣営にもたらすかもしれない。そう思うと、リアと出会えたことはとてつもない幸運だ。


「戦隊長、これより我が戦隊は、どこに向かうことになっているのでしょうか?」


 参謀長のルーマン中佐が、僕に尋ねる。実際、戦隊の行動は戦隊長にしか聞かされていない。発進後に指示を出すことになっている。


「とりあえず、第七十四戦隊のいる艦隊左翼側へ向かえ、との指示が出ている。この空域に、しばらくとどまることになりそうだ」

「そうですか……」


 がっかりしているような、面倒ごとに関わらなくて清々したという安堵の言葉なのか、どちらともとれるような言葉をこの参謀長は吐いた。こういうのは、反応に困る。

 いや、そんな程度のことは、些末なことだ。もっと困ることが、この後起きる。


「この部屋で、寝る」


 寝る時刻になり、僕は将官用の広めの部屋でゆっくりと書籍を読んでいたら、あの魔法使いの娘が現れる。


「おい、ここはホテルと違って、狭い部屋でベッドも狭いんだぞ」

「構わない」


 いや、僕が構うんだよ。ホテルならともかく、こんな狭い艦内で一緒にいたらまずいだろう。

 が、リアは聞かない。結局、僕の部屋のベッドに潜り込む。

 僕は相変わらず彼女に、字と言葉を教える。今日は特に、駆逐艦について話をした。


「こんな船が、一万隻も?」

「そうだ」

「一万隻って、どれくらい?」


 うーん、困ったことを言い出したぞ。数では理解できても、それを実感するのは僕ですら不可能だ。レーダーサイト上では一万隻の艦隊陣形をよく目にするが、実際に一万隻をすべて視界に収めた経験はない。

 そこで僕は、壁に張り付いたモニターを点ける。チャンネルを、艦外を映すカメラの一つに切り替える。

 そこには、横に二十五隻、縦に四列並んだ我が戦隊が映っていた。


「ここに映ってるのが、僕が指揮する百隻の第七十五戦隊の全てだ。あれ一隻につき、およそ百人が乗っている」


 同じ形をした灰色の駆逐艦が、整然と並んでいる。その一隻の大きさは、ドックに繋留されていたこの艦を見ているから、リアもよく知っている。


「簡単に言えば、この戦隊がさらに百個集まったものが一万隻だ。それが我が遠征艦隊の全貌だ。ほら、少し離れた場所にも別の戦隊百隻が見えるだろう」


 意外と一万という数は実感できない。人間の目ではせいぜい数十か百程度を認識するのが精一杯だ。一万もの艦艇を認識することはできない。砂浜にある砂粒の数を一見するだけでその数を言い当てられないのと同じことだ。

 だから、こういう言い方しかできない。しかしリアにとっては、この整然と並ぶ艦艇に興味を抱いたのか、じっと見つめている。

 そんな艦列を眺めているうちに、いつの間にか寝てしまった。

 それにしても、どうして僕と同じ寝床にこだわるんだ? 別に好かれているようには思えないのだが、何か理由があるのだろう。が、それをリアは頑なに語ろうとしない。

 ただ、リアは一言だけこう付け加える。

 「いつかは知らせる日が来る」と。

 まさか、時間逆行が使えるから、未来すらも見えていると言いたいのか。その真意は、分からない。


 さて、そんな翌日のこと。

 すでに艦内では噂になってるのは間違いないだろうが、僕とリアは揃って朝食のため、食堂にやってきた。

 何やらやましい目線が僕に向けられているようだが、僕は何もしていない。昨夜はただ、第七十五戦隊の艦列を見て過ごしていただけだ。


「ね、ねえ、リアちゃん、昨夜はどうだったの?」

「長いもの、見てた。思わず、見とれていた」


 それはきっと、モニターに映った艦列のことを言ったのだろうが、リアよ、それはとてつもなく誤解を生む表現だぞ。現に、フレーデル准尉の視線まで冷たくなってきた。


「せ、戦隊長! 何をしていたんですか!」

「艦外カメラが捉えた、我が第七十五戦隊の四列に並んだ艦列を見せていただけだ」

「……なんで、リアちゃんに艦列を見せる必要があったんですか?」

「一万隻の艦隊がどれくらいのものかと聞かれたから、この百倍はあるぞと説明するために見せただけだ」

「そう、すごかった、カンレツ!」


 リアも素直に答えた。これで誤解のほとんどが消滅した……とは思うのだが、あまりそんな雰囲気じゃないな。誤解一つが解けたくらいで、立場が大きく変わるわけではない。ただでさえ、若すぎる頼りない戦隊長だ。戦隊旗艦といえども、信頼されているわけではないだろうな。考えるほど、胃が痛くなる。

 なんで、こんなやつを戦隊長にしようと考えたのか……僕は本来、異例の昇進とされる今の立場を、むしろ嘆いている。戦いになったら、果たして戦隊長としての責務を果たせるのだろうか?

 そう考えたのが、いけなかったのか。その日の昼過ぎのことだ。

 艦内に、緊張が走る。


「艦隊司令部より入電! 敵、連盟艦隊およそ一万隻が、中性子星域に手出現! 我が地球(アース)五〇五遠征艦隊は、全艦を持って直ちに迎撃に向かう、とのことです!」


 敵が現れた。しかも、この地球(アース)一一〇一星系外縁部のワームホール帯一つくぐった先の、中性子星域だ。

 そこはまさに、二年前の戦いで大敗した戦場だ。その領域をさらに広げるべく、敵の艦隊が現れた。おそらくは、そういうことだろう。


「全艦に伝達、これより中性子星域に向かい、敵艦隊を迎撃する。総員、出撃準備!」


 僕の号令で、一斉に周りが動き出す。いくら頼りないとはいえ、戦隊長だ。その命令は無視できない。


地球(アース)一一〇一にいる第七十八戦隊以外は、あと三分ほどで全艦すべて中性子星域にワープアウトします」

「了解、全艦、砲撃準備」

「はっ! 全艦、砲撃準備!」


 稀にではあるが、ワープアウト直後に待ち伏せる敵がいて、奇襲を受けることがある。このため、ワームホール帯をくぐってワープを行う際は、砲撃態勢でくぐることが慣例となっている。

 しかも、今度ばかりはまさに敵の進軍を確認しているからな。少数でも待ち伏せ艦隊がいてもおかしくはない。いつも以上に、緊張感が増す。

 そういえば、前回の戦いのとき、僕は砲撃管制室にいたな。そこで砲撃手をしていた。あれから二年が経ち、まったく違う立場になってしまった。

 そう強く実感するのは、ワープ直後からだ。


「ワープ開始!」


 ワープ空間と呼ばれる、ワームホール帯の向こう側に広がる星一つない暗い空間を通る。これもそういえば、三次元空間から見れば異次元の空間だが、ほんの僅か進むだけで、三次元空間上の何光年も先まで進むことができる。五百年近く前、地球(アース)○○一によるこのワームホール帯の発見とそれを利用したワープ航法の確立が、この宇宙のあり方を大きく変えた。

 それは、新たなる戦争の火種をもたらすことになるとは、五百年前の彼らは考えもしなかっただろうが。


「ワープアウト、完了!」


 ワープ空間を抜け出した。この時、僕は陣形図を見る。

 正面モニターに、敵艦隊が映し出された。数、およそ一万。距離は百七十万キロ、時間にして、およそ一時間半ほどで戦闘が始まる。もうこれほど近くまで来ていたのか。

 この宙域をさらに失えば、地球(アース)一一〇一までの航路が失われる。絶対に負けられない。最低でも引き分けにもちこみ、現状維持が必須だ。


「敵艦隊、さらに接近! 距離、五十三万キロ! 戦闘開始まで、およそ十分!」


 互いの艦隊がさらに接近し、いよいよ戦闘まであと十分という距離まで到達した。と、その時だ。

 僕の脇に、小柄な人物が経っているのに気づく。


「あ、おい、リア。どうしてここに?」


 戦闘目前だというのに、リアが僕のすぐ脇に立っている。こいつ、いつの間にここに現れたんだ?


「これから戦闘が始まる、直ちに食堂へ向かえ」


 食堂は、艦のもっとも中心にある。戦闘に参加しない非番の隊員や、パイロットは任務がない限り食堂で待機することになっている。

 ほんのわずかだが、生存確率が高いからに他ならない。

 もっとも、敵の直撃弾を受けたなら、こんな艦艇、たとえ中心部といえども吹き飛ぶだろうが、それでもこの艦橋よりはましだ。


「いや、私、戦闘、見るため、残る」


 ところがだ、リアはこう言い出して譲らない。あくまで残ると言い張った。


「敵の砲撃を目の当たりにする場所なんだぞ。感じる恐怖は、尋常ではないんだ」

「構わない。元から、その覚悟」


 説得を試みるが、リアは頑として聞かない。そうこうしているうちに、敵はさらに接近する。


「接敵まであと三分!」


 もうこうなると、リアと話している暇などない。僕は戦隊長としての責務がある。


「全艦、全砲門開け。砲撃用意」

「はっ! 全艦、全砲門開け!」


 参謀長が僕の命令を伝える。先端の大穴の奥のシャッターが開かれる。いよいよ、砲撃戦が始まる。


「距離、三十万キロ、射程内に入りました!」

「艦隊司令部より、発砲の合図!」

「よし、全艦、砲撃開始!」

「艦橋より砲撃管制室へ、主砲充填、撃ち―かた始め!」

『砲撃管制室より艦橋! 装填開始、撃ち―かた始め!』


 そう、二年前の戦いでは、僕は砲撃管制室にいた。ターゲットとなる敵艦をスコープに捉え、まさに敵艦へ砲火を放っていた。

 が、今は発射トリガーではなく、号令によって百隻の艦を動かす立場となった。それは窓の外の光景を見て、より実感する。

 無数の青色の光の筋が、こちらに向けて飛んできた。音はしない。が、それ一発づつが、敵の主砲からのビーム光であることは分かる。

 そして、一撃でも当たればこちらが危うい。

 そんな敵のビームとほぼ同時に、こちらの砲撃も始まる。

 ズズーンという砲撃音は、落雷十発分と評されるほどのすさまじい音だ。もちろん、初めてのリアがその音に驚かないはずがない。


「きゃっ!」


 慌てて僕にしがみつくリアだが、今の僕はそれに構っている余裕はない。司令部からの命令を受けて、敵艦隊右翼側へ砲撃を繰り返す。


「七五五一から七五六〇号艦までの十隻は、ターゲットナンバー四七八一を集中砲撃せよ。その動きからしておそらく、そいつは敵の戦隊旗艦だ」

「了解! 七五五一から七五六〇号艦までの十隻、ターゲットナンバー四七八一へ攻撃を集中させよ」


 参謀長が命令を伝えている間も、この艦は砲撃を続ける。僕は陣形図と、自身の戦隊に割り当てられた敵艦の動きをつぶさに解析し、指示を出す。

 自分で言うのもなんだが、僕は敵艦の動きを読むのが得意なようだ。現に前回の戦闘でも、三隻を沈めた。一時間の戦闘で、撃沈率が二パーセントというのが普通といわれる世界で、僕は一度の戦闘で三隻も当てた。それは、ターゲットとなる敵艦の動きを読み取ったからだ。

 なぜだか分からないが、何となく分かる。しかし、たったそれだけのことで僕は、戦隊長にされた。ならばなおのこと、敵の艦隊の動きを見定め、効果的な砲撃を加えねばなるまい。


「ターゲット四七八一、撃沈!」


 十隻からの集中砲火を浴びて、狙っていた艦が沈んだ。僕は動きを注視する。

 思った通りだ。その周辺の数十隻の動きに、統制がなくなった。やはりあれがあの戦隊の旗艦だったか。


「指揮官を失った戦隊の動きはバラバラになった。このまま一気に敵の一角を沈めるぞ」


 僕の命令で、その動きがバラバラになった戦隊に一斉砲撃が加えられる。命を賭けた打ち合いの最中、少しでも動揺した敵に勝ち目などあろうはずもない。


「ターゲットナンバー四七三四、および四七五一、撃沈!」


 その後、立て続けに撃沈の報が入る。しかし、その間にも敵は徐々に体勢を立て直し始める。

 おそらく、別の戦隊長に指揮権が譲られたのだろう。すぐに乱れた隊列を整え、反撃を開始してきた。

 その内の一発が、この艦にも届く。


「敵砲撃、来ます!」

「砲撃中止、シールド展開!」


 次の瞬間、すさまじい音が響き渡る。ギギギギッというグラインダーでやすりでも削った時のようなつんざくような音が響く。これは、シールドが敵ビームを跳ね返す際に生じる音だ。


「うわっ!」


 砲撃音にはなれつつあったリアも、これにはたまらず再び僕にしがみつく。にしても、リアよ。どうして僕にしがみつくんだ?


「ダメージコントロール、各科、被害状況を知らせ!」


 艦長のグラッソ大佐が、シールドを維持させたまま、念のため艦内に被害がないかを確認させる。各科より、状況が知らされる。


『砲撃科、砲身並びにレールガン、異常なし』

『主計科、艦内気圧正常、漏洩なし』

『船務科、レーダーその他センサーに異常、認められず』

『機関科、左右機関ともに正常、問題なし』


 それらを受けて、攻撃再開が命じられる。


「よし、シールド解除、砲撃再開!」


 再び雷音のような音が響き渡る。と同時に、リアがボソッと僕の横でつぶやく。


「これが、この世界の、戦闘」


 シールド越しとはいえ、直撃弾を食らった。それを、窓から直接見た。目の前には、敵は見えない。なにせ三十万キロも先にいる敵だ。当然、見えるはずがない。

 が、その武器から放たれるビーム光は届く。時にこうして命中することもある。が、たいていの艦はシールドによってその攻撃を防ぐ。

 こうした撃ち合いの応酬が、ひたすら続く。

 が、今回の敵は、それで終わるはずがない。僕は、その動きを見逃さなかった。


「ボルディーガ中将に連絡、敵艦隊後方にて、怪しげな動きあり、と」


 僕は二年前に起きたあの出来事を忘れてはいなかった。あの時も、ただの撃ち合いを一時間続けて、引き分けの内に終えるはずだった。

 が、まさに両軍が後退を始めようというその時、数個の敵戦隊が我が艦隊側面に回り込み、不意打ちを食らわせてきた。

 その不意打ちは予想以上に効果が大きく、このため味方の陣形が崩れた。そこを、敵艦隊は集中砲火を浴びせてきた。

 一度の戦闘で、二千隻もの大損害を被ったのも、まさにその不意打ちが原因だ。おかげで、大敗北を喫することとなった。

 おそらくは、同じことをするのではないかと思っていたが、やはり怪しげな動きをする艦艇を、僕は見つける。


「分艦隊司令部より入電、第七十五戦隊、敵別動隊排除に向かえ、以上です」


 敵はおそらく二、三戦隊だ。それを、たった一戦隊だけで迎え撃てとの返答だった。

 あらかじめ僕は、ボルディーガ中将にこうなる可能性を指摘しておいた。だから敵が別動隊を動かした時は、それに対処するよう命令を出すと僕に話してくれていた。

 が、それをたった一戦隊だけでやれとは、聞いてないぞ。

 とはいえ、直属の司令官に逆らうわけにはいかない。僕は全艦に命じる。


「砲撃をしつつ、後退する。その後、大きく左翼側より外に出て、敵の別動隊を撃つ」

「はっ!」


 まさか二年前と同じ戦い方をしてくるとは、よほどあれが成功体験になったとみえる。今回も、それをやろうというのか。

 だが、忘れてもらっては困る。同じ手は二度は、通用しないことを。


「敵の別動隊の位置は?」

「はっ、すでに我が艦隊の側面まで接近しつつあり、距離、およそ三十二万キロ」


 まもなく、撃ってくるな。が、僕らの方が彼らを先に捉えていた。敵別動隊まで、距離二十五万キロ。

 しかし敵はまだ、動いている。今撃っても当たらない。ここは砲撃のため敵が停船したところを、一気に狙い撃つ。


「まもなく、敵別動隊は味方艦隊まで三十万キロまで接近します」


 そろそろ停船するはずだ。僕は砲撃準備を命じる。


「別動隊を、この別動隊で狙い撃つ。やつらに一撃も撃たせるな。停止と同時に、一気に狙い撃つ」


 徐々に速度を落とす敵の別動隊は、やがて停止した。

 そして、まさに砲撃を加えようとしていた、その時だ。僕は叫ぶ。


「全艦、一斉砲撃、撃てーっ!」

「砲撃管制室、撃ち―かた始め!」


 キーンという装填音の後、砲撃音が轟く。百隻から一斉に放たれたビーム光は、まっすぐ敵別動隊の側面へと向かう。

 意表を突くはずの敵が、意表を突かれた。いきなりこちらのエネルギー反応を捉えて慌てて回避運動に入る。が、もう遅い。

 敵別動隊の場所で、爆発が起きる。シールドを張っているようだが、主砲をシールド側面で防ぐことはできない。だからこそ敵は我が艦隊の側面に狙いを定めているし、こちらもその別動隊の脇腹を狙い撃った。

 なす術もなく、数十隻の敵が沈む。だが、砲撃の手は緩めない。それから何発も砲撃を続ける。

 無論、別動隊は回頭し、こちらに向けて砲撃を加え始めた。が、今度は味方の艦隊主力の中から別動隊へ砲撃を加える艦も現れる。不意打ちを狙ったその別動隊は逆に不意打ちされ、あえなくその大半を失った。

 生き残りは全速離脱し、その場を去っていった。


 こうして、戦闘が開始されてからおよそ一時間後、別動隊の撤退と合わせて、敵も後退を始める。が、おそらくは勝利の方程式を見破られて動揺が隠しきれないようだ。こちらの追撃によって、多くの艦が撃たれていく。

 やがて、敵は敗走していった。撃沈確実はおよそ八百隻以上。対する味方の損害は二百隻ほど。我が戦隊の損害はゼロ、一隻が機関に不調をもたらした程度で済んだ。


「これより、艦隊主力と合流する。全艦、後退せよ」


 なお、我が戦隊だけで撃沈確実は九十三隻。ほぼ一つの戦隊を壊滅させたに等しい。その多くは、別動隊への砲撃によるものだ。


「大勝利ですよ、我が戦隊は」


 勝利に浮かれる参謀長だが、僕はただ、こう一言告げるにとどめた。


「いや、運が良かった。あの別動隊がこちらに気付いていたら、数の上で勝ち目はなかっただろうな」


 現われた別動隊は三百隻。こちらの動きに気付かなかったからこそ勝てた勝負だったが、もしその三百隻がこちらに矛先を向けていたら、どうなっていたか。

 味方艦隊は不意打ちを避けることができただろう。が、その分、我が戦隊の内の何隻かが沈んでいた。無論、その事態も覚悟していた。

 とにかく、艦隊主力がやられないことが肝要だ。前回の二の舞だけは、なんとしてでも避けたい。いずれにせよ、運良く我が戦隊は大戦果を挙げることとなった。


 そんな戦いの、一部始終を見ていたリアが、最後にボソッと呟いた。


「やはり、そなた、『持っている』な」


 言葉の意味がよく分からない。何が言いたいんだ? と思いつつも僕は、戦隊長としての責務をまさに全うすべく、その百隻を艦隊へと合流させる。

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