#3 調査
『第七十五戦隊は、第七十八戦隊と入れ替えとし、この惑星外縁部まで退避せよ』
我々の戦隊が所属する第三分艦隊司令官であるボルディーガ中将が、先発隊の交代が承認されたことを告げる。つまり、あの不可思議な娘を連れて戻ってこい、というわけだ。
まあ、それはそうだろうな。治癒魔術などというものはこれまで、この宇宙には存在しないものとされていた。にもかかわらず、山賊に囚われていた娘が偶然にも、そのありえない魔術を使えると聞いて、調査せざるを得なくなった。
広い宇宙で、すでに一千個以上の星があるというのに、まだ謎が現れる。科学者にとっては、さぞかし面白い世界だろうな。
もっとも、軍人とすれば別段、思うところはない。ただ、面倒な先発隊という任務を免れることができたという安堵感だけが、僕にはある。それもこれも、あのリアという娘のおかげだ。
しかしだ、見つけた時はみすぼらしい姿だったリアだが、フレーデル准尉の趣味の服を着せられて、毎日風呂に入り、さらに栄養価の高いものを食べ続けているせいか、やけにすべすべとした肌になった。胸の辺りは相変わらず小さいのだが……なぜだろうな、僕にはかえってその容姿が、彼女を眩しく見えさせる。
だぶだぶの服の隙間から、まさにその胸の奥が見えそうで……いかんいかん、指揮官にあるまじき感情だ。そんなことよりも、この娘が使うあの宇宙一不可思議な現象解明のため、戦艦アルジャジーノに向かわねば。
戦艦アルジャジーノは、全長が五千七百メートルという大型の戦艦だ。戦艦といっても、戦闘に出ることはない。全砲門数は四十五門あり、収容艦艇数は五十隻という、第三分艦隊が抱える最大の戦艦であり、かつ分艦隊旗艦でもあるこの艦は、後方にて駆逐艦の補給や修理を担う艦でもある。
逆に言えば、図体がでかすぎて、今の戦闘では大きな的でしかない。砲を一門しか持たない機動性、回避性の高い駆逐艦が戦場の主役となったのは、必然としか言いようがない。それゆえ、戦艦とは名ばかりの補給艦である。
その巨大な艦内には、街がある。中心部には高さ百五十メートル、四百メートル四方に切り取られた空間があって、四つの階層に仕切られたその空間に人々が居住し、補給や修理のため乗り込んだ駆逐艦の乗員らを出迎える店が多数、並んでいる。
その街の外れには、様々な科学実験も行える大型の射撃訓練場が存在する。その大きさは、ほぼ街と同じ。ただし、がらんとした空間が広がっており、そこに標的や研究施設、それに格納庫が並ぶ、そんな殺風景な場所だ。
で、ボルディーガ中将の命令は、その射撃場にリアを連れて行き、そこで実験をすることだ。
リアを保護してから一週間。我々はこの星に関する一連の調査任務を第七十八戦隊に移管し、引き上げることとなった。
「第七十五戦隊、全艦に告ぐ。全速前進、これより戦艦アルジャジーノに向かう」
僕の号令と共に、この駆逐艦七五〇一号艦も慌ただしくなる。
「機関、出力最大。両舷前進一杯!」
「両舷前進いっぱーい、ヨーソロー!」
けたたましい機関音が鳴り響く。すぐ脇に立つリアは、聞いたこともないこの轟音に耳をふさぎつつも、窓の外を見ていた。ちょうどそこには、青くて丸い星が見える。
自らの住んでいた大地が丸いことは知っていたようだ。が、これほどまでに青く、そして美しい星だとは当然ながら知る由もない。いざそれを目の当たりにし、耳をふさぎつつもその青くて丸い球体に目を奪われている。
やがてその星の脇を一気に通り過ぎ、真っ暗な宇宙空間へと入る。周りを見ても、星ばかりだ。窓際に向かうが、ほぼ動きのない星々が広がっているだけの空間に、リアは唖然としている。
夜空のようだといえばその通りだが、それが上を向いても下を向いても広がっていることに違和感を覚えているようだ。我々にとっては当たり前の光景なのだが、そもそもこの星で初めて宇宙に出たこの人物にとって、ここはあまりにも非常識な世界だ。
そんなリアが、口を開く。
「ピザ、食べたい」
……餌付けしすぎたのかな。この世の不可思議な光景によって知的好奇心が刺激されるのかと思いきや、食欲の方が勝ってしまった。
そんな僕の表情を見て、やや不機嫌そうな目で僕をまじまじと見つめてくる。そして一言、こう僕に告げた。
「食べること、生きるため、大事。いけないことか?」
うーん、僕の表情から、愕然としていることを読み取ったのか。冷静に考えればこいつは魔法使いだ。僕の心を読んでいても、なんらおかしくない。
いや、そんな能力はないはずだ。僕の顔に露骨に出てしまったんだろう。食堂に向かうため、艦橋の出口に向かうその後姿を見送りつつ、なぜだかリアに心悟られたことを残念に思う自分がいる。
が、リアは出口の手前で立ち止まり、振り返る。まるで、僕の無言の声が聞こえたかのように、僕にこう告げた。
「一緒に、食べたい」
僕は思わずその言葉に心揺さぶられた。やっぱりこの魔法使い、心が読めるんじゃないのか? が、僕は周りの目を気にしつつ、こう答える。
「わかった。食事に付き合おう」
そんな僕を、艦長や参謀長、そしてレーダー士にいたるまで、僕を見る目がどことなく生温かい。なんだ、その目は。僕は無表情のままリアと共に、食堂へと向かう。
リアの背丈は百四十センチほど。エレベータに二人で乗り込み、そこで僕より三十センチ以上低いその娘の頭のてっぺんを眺めていると、くるっとリアが上を向いた。
「なにか、あるのか?」
どうやら視線を感じたらしい。僕はただ、少し銀色気味な毛が噴き出しているようなその頭のつむじを眺めていただけだ。特に深い理由はない。
「いや、つむじが見えていたから、見ていただけだ」
と、僕は素直に答えるが、どうやら「つむじ」という言葉を知らないようで、首をかしげていた。そこで僕は軍帽を脱ぎ、自分のつむじの部分を指差してこう言った。
「これ、これが『つむじ』っていうんだよ」
と、ちょうどその時、エレベータの扉が開く。周囲からは、軍帽を脱いで頭のてっぺんを見せている姿を、エレベータを待っていた数人の乗員らに見られてしまった。
「……何してるんですか、戦隊長閣下」
その一人に、ストレートにこう聞かれた。僕は仕方なく答える。
「いや、リア、この娘が、『つむじ』という言葉を知らなかったから、それがどんなものかと説明していただけで……」
「なんでエレベータで、つむじの説明をする必要があるんですか?」
面倒な質問をするやつだな。別にいいだろう、分からないことを知らせることの、何が悪いんだ。僕の不機嫌そうな顔を見て、別の士官がその乗員の肩を叩いて、それ以上の質問を制止する。
で、そこから食堂のある階まで下りていく間、なんだか居心地の悪い時間を過ごす羽目になる。で、エレベータを降りて、彼らとは散り散りとなってようやく普通の空気を取り戻す。
なんだろうな、どうして僕がこんな目に合わなきゃいけないのか? いや、冷静に考えたら、この艦に戦隊長としてきたばかりの頃は、こんな空気ばかりだったことを思い出した。
いきなり二十代の男が、自分たちどころか百隻を指揮する戦隊長として赴任してきた。僕よりも歳が上の乗員たちがごろごろいるこの艦に来たばかりの時は、それこそ今よりももっと居心地が悪かった。それはそうだろう。歳下のやつが偉そうに、他艦も含めて命令を下しているのだから。
が、今の空気はそれと同じでありつつも、中身が違う。こんなやつでも、女に惹かれるのか、という空気だ。別に、いかがわしいことをしていたわけではない。ただ頭部を見せつつ、言葉の意味を教えていた、それだけのことだ。
そんな仕草が、他人からすれば奇異なものに映ったのだろう。
そんな出来事がありつつも、僕はリアがピザを食べたいという欲求に付き合う。僕自身は至極まっとうな食事、パスタを頼んでそれを食べていたのだが、リアはどういうわけかこのピザという食べ物が気に入ったらしい。
柔らかくこってりとしたチーズの味に、あっさりとしたバジル、硬いベーコン肉が対照的過ぎて、そこがリアにとってはたまらない食感らしい。それが治癒魔術と何か関係があるというわけではないだろうが、この両極端な性格をたった一つの料理で味わえることが快感とみえる。
変な娘だな。いや、僕もあまり人のことは言えないな。この艦の乗員から見れば、変な戦隊長だろう。
まあ、そんなこんなで八時間ほどが経過する。気づけば、この星系の外縁部まで到達していた。目前には、戦艦アルジャジーノが迫る。
「アルジャジーノより入電。第四ドックへ入港されたし、以上です」
第四ドックといえば、艦橋に直結したドックだ。五十あるドックの内、修理用の密閉ドック四つを除いて、他はすべてむき出しの二本の柱に艦首を結合し、船体むき出しのままエアチューブだけをつないで戦艦に移乗する。移乗した後は、艦内を巡る鉄道に乗り込み、街へと一旦出る。
この戦艦の中心にあるその街は、艦橋と一本の長いエレベータとつながっており、艦橋へ向かうにはドックから一度鉄道に乗って街へ出て、そこからエレベータに乗り込み艦橋へと上がらなければならない。が、艦橋直結のドックに入港するということは、艦橋や街に行くため鉄道に乗るというひと手間が、省けることになる。
それだけ、リアを好待遇しているということになる。まあ、当然だろうな。
「両舷前進、最微速! ドックまであと、三百!」
その艦橋直結のドックまでじりじりと近づく我が七五〇一号艦、やがて艦首がその日本の柱の間を通ると、ガシンと先端をロックする音が響く。と、それは艦底部からも響く。
「繋留ロック、前後固定よし。ドックに接舷完了」
「エアチューブ、結合します。結合用意」
ズンッという、艦底部から鈍い音が響く。
「エアチューブ、接続よし! 移乗可能です」
「艦長、戦艦アルジャジーノ管制より乗艦許可が下りました」
「艦内マイクを」
「はっ!」
その通信士の言葉を聞いた艦長がマイクを受け取ると、艦内放送を始める。
「達する。艦長のグラッソ大佐だ。戦艦アルジャジーノより乗艦許可が下りた。ハッチ開き次第、各々、下艦せよ。以上だ」
ところで、我が戦隊がここまで来るために一週間かかった。その理由は、交代する第七十八戦隊の準備が遅れたから、というわけではない。
実は、我が戦隊にトラブルが起きた。たまたま大気圏内にいた僚艦、駆逐艦七五一七号艦の機関が突然、故障した。
が、不可思議なのは、右側の機関、重力子エンジンと核融合炉が同時に停止したことだ。
そして、それ以上に不可解なことは、それが起きたのは、ちょうどシュトゥーベン先任伍長の怪我を、リアが治した時刻とほぼ一致するという事実だ。
単なる偶然なのか? いずれにせよ、七五一七号艦はそのまま不時着し、その修理を終える間に一週間もかかってしまった。
にしても、不運な話だ。本来ならば、もっと早く戦艦アルジャジーノに到着する予定だったはずなのに、どうしてこのタイミングで故障が起きるか?
などと考えつつも、僕はフレーデル准尉も連れて、リアを戦艦アルジャジーノの艦橋へと降り立つ。ちょうど外の様子が見える窓から、ついさっきまで乗っていた七五〇一号艦が目に入る。真っ暗な宇宙を背景にドックに繋留されているその巨大な船体を、リアはなぜかじっと見つめている。
「ついさっきまで乗っていた艦だぞ、今さら珍しくもないだろう」
「外から見たこと、ほとんどない。こんなに、大きいと、知らなかった」
ああ、そうか。確かにリアはあれに一週間乗っていたが、リアがこの艦を外から見たのは、彼女を保護した時に哨戒機がアプローチに入った時だけだ。すぐに格納庫に入ってしまったため、これほどじっくりと自身の乗っていた艦を見たのは初めてということになる。
「なぜ、前に大きな穴が、開いてる?」
そんなリアが、先端にある一門の砲を指差して、僕に尋ねる。僕は少し、躊躇う。
正直に話せば、我々に恐怖を抱くかもしれない。かといって、嘘をつくわけにもいかない。いずれ、あの砲の威力を知ることになるからだ。だから僕はこう答える。
「あれは、主砲という、一種の武器だ」
「武器?」
「リアの世界でも、弓矢や投石機のようなものはあるだろう」
「あれの、大きなもの?」
「そうだ。あれ一撃で、リアがいた場所の近くの街、あれを一瞬で吹き飛ばすことができるほどの威力がある」
僕は馬鹿正直に答えると、フレーデル准尉が反論する。
「ちょっと、戦隊長! リアちゃんを脅してどうするんですか!」
「いつかは知る事実だ。こんなところでごまかしてもしょうがないだろう」
「いや、それはそうですけど!」
まあ、准尉の言うことも分かる。街を吹き飛ばすなどと聞いて、恐怖を覚えない者はいない。この星の文明レベルでは、当然だがそんな強力な武器があるわけではない。
が、それを聞いたりアは、ただ一言、こう答えた。
「そんな、強い武器持ってて、私に食べる物、着る物、くれてたんだ」
その言葉に、僕はショックというか、違和感のようなものを覚える。そうか、この星では力ある国が力のない国を淘汰し、その人々を使役するというのが当たり前の世界だった。現にリアは他国に連れてこられ、囚われていた。
だが、我々は違う。考えてみればそのことを、彼女に話していない。だから僕はこう付け加えた。
「我々の武器の持つ力は、あくまでも敵である連盟軍を撃つためのものだ。リアの星の上にある国や人々を脅すためのものではない」
「それじゃ、どうして、連盟という敵と、戦ってるの?」
どうしてって……うーん、なんでだろうな。自分でもよく分かっていない。
元々は地球〇〇一がとある星に総攻撃をかけて、その時の恨みの連鎖が宇宙を二つの陣営に分けて戦うきっかけとなり……なんて話をし出したら、きりがない。だから僕はこう答えるにとどめる。
「話すと長くなる。それはおいおい話そう。それよりもだ」
「うむ」
「リアに、会いたいという人物がいる」
極めて稀な能力である「治癒」を使える魔法使いだ。そりゃあ当然、それを知っている者なら会いたがる。一体、どんなやつなのかと思うだろう。
が、どう見てもただの娘だ。ここ一週間余りの間に栄養状態がよくなり、ふくよかにはなったとはいえ、身なりは小さくひ弱な印象だ。とてもそんな稀有な魔法が使える人物には見えない。会ったところで、かえって失望するのではなかろうか。
「おお、こちらがかの治癒魔術を使うという、リア殿か」
ところがだ、どういうわけかボルディーガ中将閣下はえらく興奮気味だ。
「これほど華奢で可愛らしい身体から、いったいどうやってそのような魔法を……おっと、いかんいかん。そういえば我が艦隊の乗員を一人、治癒してくれたというではないか。礼を言わねばならんな」
んん~? 一瞬、中将の性癖らしきものが顔を表したような……いや、それよりも、さすがは指揮官だ。一人の乗員の怪我を治してくれたことに礼を言うとは、気が利いている。そういえば、僕はそんなこと言ってなかったな。さすがは司令官だけのことはある。
「当然のことを、したまで。毎日、食べる物、着る物、そして身体をきれいにしてくれている、から」
リアはそう返答する。彼女にとって治癒魔術は、生きるための術に過ぎない。が、この宇宙でも聞いたことがない魔法というだけあって、我々にとってそれはとてつもなく重要度の高い謎である。
だから、それを調査するために、中将閣下はリアにこう述べる。
「その治癒魔術を、ぜひ我々のところで調べたい。お礼として、我々の街で使える多額の電子マネーを渡そう」
「でんし……まねー?」
中将閣下、いきなり電子マネーといっても通じるわけないでしょう。僕はそっとリアに耳打ちする。
「要するに、多額のお金をあげようと、そうボルディーガ中将は言っている」
それを聞いて、リアはようやくうなずく。そして僕とフレーデル准尉と共に、リアを連れて街の向こうにある射撃訓練場へと向かうことになった。
艦橋から長いエレベーターで下ると、そこはホテルのロビーがある。
艦橋の真下には、街の端に位置する艦内ホテルがあり、そのロビーは最上階にある。通常、補給にかかる時間は十時間程度で、滞在時間も短いのだが、今回はリアの科学的調査ということで、一週間の滞在が認められた。
で、まずは荷物をホテルの部屋に……と思ったが、リアの姿が見当たらない。
どこにいるのかと思いきや、艦橋から伸びるエレベーターのすぐ後ろ側のガラス張りの先に広がる街の光景に、リアは目を奪われていた。
「ああ、そうか、リアちゃん、街を見るのは初めてだもんね」
奥行と幅が四百メートル四方で、ちょうどこのホテルのロビーから百五十メートル下まで広がる人工空間に、戦艦内部の街が広がっている。
約四十メートルおきに歩道があり、一番下の階層だけ車が行き来できる道路が存在する。そこには、無人車両がひっきりなしに走っているのが見える。
ここからは第四階層目の街が見渡せる。高さ四十メートルほどの八階建てのビルが、碁盤目状に配置されており、その多くのビルの一階部分が店舗として、二階から上が居住区となっている。ここには軍民合わせて二万人が暮らす。
が、それ以外にも補給のために訪れた駆逐艦の乗員に、時折民間船から来た民間人もおり、五十のドックでそれぞれ一隻あたり百人程度の乗員がいるから、おおよそ五千人の訪問者が街に繰り出している。
これほど狭い場所に、二万と五千だ。もちろん、他の軍施設にいる人もいるからそれだけいるわけではないのだが、その半分としても結構な人数だ。おかげで眼下には大勢の人々が行きかっている。
「あれ、何!?」
やっぱり、興味を示したな。フレーデル准尉が答える。
「あそこに見えるオレンジ色のところは、カフェだね。その隣がステーキハウスで、それからその隣にはファーストフード店かな。その奥には、雑貨店や服のお店もあってね……」
ああ、フレーデル准尉がベラベラと話し始めたぞ。僕はそんな二人に声をかける。
「おい、准尉。まずはリアと貴官の部屋のカギを受け取り、荷物を置いてこい。僕も宿泊手続きをする。それからすぐに、射撃訓練場に向かうぞ」
「えーっ、街に行くんじゃないんですかぁ?」
「何を言っている。まずは調査が先だ。街はその後、いくらでも行けるだろう」
「あ、そうだった。そういえば、一週間滞在するんでしたよね」
駆逐艦乗りにとっては、全長三百メートルもありながら、その大半が砲と旗艦で埋められている狭い空間で暮らさざるを得ないから、この街で一週間過ごすと聞けば浮かれるのは当然だろう。早速ホテルのロビーにて宿泊手続きをする。で、リアとフレーデル准尉は同じ部屋にしてもらった。僕は当然、将官用の広い部屋だ。
で、各自荷物を置いて、三人は再びロビーに集合する。そのまま第一階層までエレベーターで降りる。透明ガラスで覆われたエレベーターから見える光景が珍しいのか、リアはガラスにべったりだ。
で、第一階層につくと、僕は電子マネーを掲げる。すると、一台の無人タクシーが目前で停まる。ドアが開き、三人がそれぞれ乗り込む。
「射撃訓練場へ」
僕がそう告げると、無人のタクシーが走り始める。一階層には、大きな商業施設が多い。二、三階まで店舗というビルも多く。さっきの四階層などよりも刺激的な光景が広がっており、当然、リアはそれを目で追っている。
「あ、あそこの店のアイス、めっちゃ美味しいんだよ。後で行こうね」
フレーデル准尉の言葉に、リアは黙ってうなずく。が、アイス店どころではない。見たこともない物が売られている店が所狭しと並んでいて、その華やかな光景から目が離せないようだ。
が、そんな華やかな場所から、突然殺風景な雰囲気の場所に着く。トンネルをくぐり抜け、その先に検問所がある。僕が軍籍証を掲げると、ゲートが開いて奥に入る。
街といい勝負の広い空間が広がっているが、そこにはビルも店もない。あるのは標的用の的や簡易の建物の置かれた、土の地面が広がる場所。壁面には、殺風景なビルがある。
といっても、ここは射撃訓練場だ。店などあろうはずもない。あるのは格納庫と、そして軍人らが働く事務棟兼研究施設だけだ。その中に、三人が向かう。
「お待ちしておりましたよ、ベルノルト准将閣下」
現れたのは、技術士官の一人だ。互いに敬礼すると、この士官が名乗る。
「小官はヴェンツァーレ技術少佐と申します」
「すでに来ていると思うが、こちらが例の治癒魔術の使い手の、リア殿だ」
当のリアはといえば、いきなり現れたこの見た目も怪しい技術少佐に戸惑い気味な様子だ。そんな気持ちを察してか、フレーデル准尉がリアの手を握りながらこう言う。
「大丈夫だよ。ちょっと調査をするだけだから」
そんなフレーデル准尉の気遣いすらもぶっ壊すようなことを、この技術少佐は口走る。
「さて、見せてもらいましょうか、あなたのその魔法の、秘密とやらを!」




