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#10 暗殺

「ヴェロニカ王国という国は、ある!」


 僕が尋ねるや、リアから返ってきたのはこの自信満々な言葉だ。


「いや、だから、どこにあったのかと聞いている」


 しかしだ、僕が具体的な場所を探ろうとすると、はぐらかしてくる。


「北でも、東でも、そして西でも南でもない。そういう場所だ」


 なんだそれは? 空か地中にあるとでも言いたいのか。


「あのなぁ……僕は冗談を聞きたいんじゃなくてだな」

「いずれ、分かること。今は知らなくてもいい」


 結局、僕はいつも通りはぐらかされる。

 どうもリアには、謎が多すぎる。リアは最初、ヴェロニカ王国はこの国、ブランデン王国によって滅ぼされたと言っていたが、それは嘘だったことになる。どうしてそんな嘘をついたのか。

 しかし、どうやら僕をだまそうとしているわけではないことは、なんとなく分かる。そんな王国の名をでっち上げたところで、別にリアが得をするわけではない。

 実際問題、このブランデン王国の言葉、それはたまたま宇宙で普遍的に存在する「統一語」と呼ばれる言葉と同じ言語を、リアは当初は片言しか話せなかった。今ではかなり上達したものの、逆に言えばこのブランデン王国の者でなかったことは確実だ。

 となれば、少なくともどこか別の国で暮らしていて、不本意ながらこの王国の辺りまで連れてこられた、ということだ。


 軍部でもいろいろとこの星について探りを入れているが、魔法が常識、という星ではないことが徐々に分かってきた。

 魔法と呼ばれるものに最も近いものは、占星術だった。だがそれは、要するにただの占いだ。フリーサイズ効果で、曖昧な言葉を用いてあたかもそれが当たっているかのように思わせる、そういうテクニックだ。それを我々は魔法とは呼ばない。

 それに対してリアが使うような魔術といった類いのものは、このブランデン王国内には使い手が見当たらない。貴族や王族に尋ねても、治癒魔術などというものが実在するという話はついに聞き出せなかった。物語の読み過ぎではないかとまで言われたと、ボルディーガ中将は語る。


「実際、我々もその現象を目撃しなければ、ただの妄想だろうと思うのが当然だ。しかし、あの実験の映像が残っており、これが動画の逆再生出ないことも証明されている。それに、ヴェンツァーレ技術少佐が残した膨大な観測データにも、普通の物理法則では考えられない現象が観測されているのも事実だ。にもかかわらず、この星の人間がそれを知らないのはどういうことだ?」


 そう、治癒魔術を使うと、一瞬ながらも通常は存在しないとされるストレンジ物質(クォーク)が観測されたりした。それが消えた瞬間、不可解な現象が起きている。機関の故障や階層の崩落事故、そして敵艦艇の大爆発。治したものの大きさに比例して、その「反動」が大きいのが特徴でもある。

 それほどの魔法だというのに、この星の者たちはそのほとんどが知らないのである。

 まさかとは思うが、その存在を隠しているのか、それとも本当に知らないのか。実際、魔法を使うという者は見つかっていない。今のところ、リアだけだ。

 つまり、リアだけが異常なのである。


「魔法使いの知り合い?」

「そうだ。リア以外に、魔法使いはいないのか?」

「いや、いることはいるが……関わらぬ方がいいと思うぞ」


 なんだ、やっぱりいるんじゃないか。と思いきや、関わらない方がいいとまで言い放った。


「ちなみに、この王国に魔法使いは、どれくらいいるんだ?」

「知らん」

「知らんって……自分だって魔法使いだろう」

「別に魔法使い同士、強い交流があったわけではない。それに、私が知っている以上に増えている可能性だってあるからな」


 増えている? 魔法使いが? ますます意味不明なことを口走るやつだ。それを問いただすが、またいつものようにはぐらかされる。

 とまあ、そんな感じで、一週間ほどが経ったある日のことだ。


 玄関の扉を叩く者がいる。妙だな、チャイムではなく、扉を叩いてきた。それはつまり、我々の星の者でないということだ。

 その瞬間、急にリアの顔が険しくなる。そして、僕に向かって叫んだ。


「扉から、離れろ!」


 何を言っているのかと思ったが、次の瞬間、その扉がいきなり吹き飛ぶ。その向こうには、リアほどの背丈で、黒づくめの男が立っていた。


「……シゲス ビバ、 リア?」


 こちらの言葉ではない、口調からして、リアと同郷の者のようだ。が、少なくとも友好的なやつらではない。

 明らかに、敵意むき出しだ。

 それが証拠に、手にはナイフを持っている。

 僕は咄嗟に、銃を構える。するとリアが僕の上にのしかかる。


「伏せろ!」


 次の瞬間、やつの左手から発せられた何かが、家屋の中を吹き飛ばす。バリバリと音を立て、キッチンと寝室を仕切る壁が吹き飛ばされた。


「やつは、暗殺者(アサシン)魔術の使い手だ」

「あ、アサシンの、使い手?」

「私と同じ、魔法使いだ」


 いきなり、リア以外の魔法使いに出会うことができた。が、その出会いは最悪だ。明らかにリアを狙っている。

 僕は携帯シールドに手をかける。リアを抱き寄せたまま、その男が放つ不可思議な魔術を、このシールドで受け止めた。

 シールド表面がバチバチと何かを弾き飛ばす。が、その弾かれたそれは、台所の中に散乱し、触れたものを破壊する。

 ちょっと待て、これもしかして、ストレンジ物質ではないのか?

 僕は銃を、やつの左手に向ける。三撃目を放とうとしたその手を、拳銃のビームが貫く。手のひらに大穴が開き、やつはその反動で後ろに吹き飛ばされる。


「ベルノルト准将閣下! 何が、起きたのですか!?」


 この騒ぎを聞きつけて駆けつけた警官が、僕に叫ぶ。が、僕はそのもう一人の魔法使いにこう告げる。


「動くな! 今度動けば、命はないぞ」


 こちらの言葉は、どうやら通じるようだ。駆けつけた二人の警官が、その男を取り押さえる。


「何があったのです? まるで爆破テロのような惨劇ですが」

「事情は、後で話す。ともかくその男を軍の独房へ連行しろ」

「えっ、軍ですか?」

「事情がある。ともかく、急げ」


 するとリアは立ち上がり、その男のそばに駆け寄る。そして、左手に手を当ててこう唱える。


「ヒール」


 その瞬間、あの手のひらに空いた穴がまるで逆再生のように塞がっていく。それを、唖然とした様子で見守る二人の警官。


「ゼノン、この男は左手で魔術を扱う。その手のひらを、袋状の物で封じるのだ」


 そうか、またあれを放たれては困るからな。僕はたまたまそばにあったレジ袋を使い、男の手のひらを封じた。その上から、警官が手錠をかける。


「詳しくは言えないが、こいつは魔法使いだ。左手を絶対に開かせるな」

「は、はい」

「それと、さっき見たリアの治癒魔術は口外無用だ」

「りょ、了解であります」


 その去り際に、黒づくめの男はこう言い放った。


「う、裏切り者め……」


 そんな男に、リアはこう返す。


「裏切ったのは、そなたであろう」


 ともかく、その男は軍司令部のある宇宙港へと連れていかれた。

 さて、治癒魔術を使ったということは、どこかに「反動」が起きているはずだ。現に、リアの首飾りのエメラルド本体が割れている。

 僕はリアに尋ねた。


「ちょっと聞きたいのだが、あの反動を、どこに流した?」


 するとリアは、寝室の方を指差す。そこには、粉々に砕けたベッドがあるだけだ。


「どのみち、この屋敷はやつによって破壊された。ならば、その破壊をさらに進めたところで問題はなかろう」


 うーん、気持ちは分かるが、あまり気持ちのいいものではないな。まあ、他の将官の家屋がやられなかっただけでもよかった。

 で、さすがにそこで暮らすわけにもいかず、僕とリアはとりあえず高層アパートの一室を与えられた。

 その一室に荷物を運び終えて、落ち着いたところで僕とリアはテーブルを挟んで向かい合う。


「そろそろ、話してくれてもいいんじゃないのか?」


 僕はリアに、そう問い詰める。


「その前に、聞きたいのだが、あの男は捕らえられた後、取り調べで何を言うておった?」

「取調官の話によれば、裏切り者の治癒魔術師を暗殺するために来たと、そう言っていたらしい」

「そうか……」

「なあ、裏切るとは、どういうことなんだ? それに、やつはどこから来た魔法使いなんだ?」

「それらを話す前に、私のことを話した方がいいだろうな」

「リアのこと? それは、どういうことなんだ」

「私、そしてさっきの男がどこから来た者なのか、ということだ」

「もしかして、やつもヴェロニカ王国なのか」

「そうだ」

「だが、この星にそんな国はないと……」

「そうだ。この世界には、ヴェロニカ王国は存在しない」

「この世界には、だと?」

「そうだ」

「もしかしてリア、お前まさか……」

「……察しの通りだ。私は、異世界からやってきた魔法使いだ」

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