第5話 竜と騎士の誓い
意識を失った竜騎士を小屋に運び込み、応急処置を施した。
鎧は割れ、全身に深い爪痕。普通の兵ならとっくに死んでいる。――さすが竜騎士、と言うべきか。
「カイル、竜の鼓動は確かか?」
アリシアが覗き込む。
「まだある。……でも薄い。普通の治療じゃ届かない」
俺は竜鱗を両手に抱え、補助式を重ねていく。
〈支援:循〉……血流を促し、
〈支援:結〉……組織を繋ぐ。
竜の鼓動が、鱗の中でわずかに強まった。
「っ……」
ベッドの男が唸り声を上げ、瞼を開く。
燃えるような視線が俺を射抜いた。
「……竜は……生きているのか」
「ああ。ただ、お前の魔力と繋がりが切れかけてる。再契約が必要だ」
「再契約……?」
ガイウスは呻きながら上体を起こそうとする。だが傷が深く、すぐに崩れ落ちた。
ミリアが慌てて駆け寄り、祈りを重ねる。
「今は休んで。竜とあなたの魂を繋ぐには、力が残っていないわ」
沈黙。ガイウスは天井を見つめ、かすれ声で言った。
「……竜を失った騎士は、騎士じゃない。俺には……居場所がない」
その言葉に、胸が痛んだ。
追放された俺と同じ。
戦場で、居場所を失った者。
「居場所ならある」
気づけば口にしていた。
「ここで、やり直せばいい。竜もお前も、まだ生きてる」
ガイウスは目を見開き、しばらく俺を見つめた。
そして――かすかに笑った。
「……お前の言葉、竜より重いな」
その夜。
俺たちは村はずれの丘で、竜の再契約を試みた。
満月の下、ガイウスは血を吐きながら立ち上がり、俺の補助で身体を支えつつ、竜鱗に手を当てる。
「〈誓約:再結合〉!」
竜鱗が光り、空気が震えた。
次の瞬間、巨大な影が夜空に現れる。翼を広げた黒竜。その眼がガイウスを見下ろす。
彼は槍を突き立て、叫んだ。
「主は俺ではない――この男だ!」
「はぁ!?」
不意打ちの宣言に俺は絶句した。
だが黒竜の視線は、確かに俺を射抜いていた。
低い咆哮。
その音は、忠誠の誓いのように響いた。