第4話 竜を失った騎士
辺境の村にしばらく滞在することになった。
村人は俺を「補助魔法の兄ちゃん」と呼び、畑や治療に頼ってくる。……いや、俺はただ畑で静かに暮らしたいんだが。
「カイル、こっちだ。牛が足を痛めてる」
「はいはい、ちょっと診ますよ」
俺は〈支援:循〉を施し、血の巡りを整える。すると牛は大人しくなり、立ち上がった。
そんな些細な補助の積み重ねが、気づけば村人たちの信頼に変わっていた。
だが――。
「……助けてくれ」
夕暮れ時。村の外れに、鎧を泥にまみれた男が倒れていた。
金属音を引きずるように、巨大な槍を手放す。その背には、竜の鱗を模した紋章。
「竜騎士……?」
俺が駆け寄ると、男はかすれ声で呟いた。
「竜が……やられた。翼を……折られ……」
竜騎士――王国でも精鋭中の精鋭だ。その竜を失ったというのか。
彼の肩に触れると、ひどい熱があった。全身に魔物の爪痕。
「補助術師だな?」
「……まあ、一応」
「頼む……せめて、竜だけでも……」
意識を手放す寸前、男が差し出したのは血塗れの竜鱗。
ただの魔物ならともかく、竜が倒れるのは異常事態だ。
「カイル。こいつは放っておけない」
アリシアが剣を抜き、周囲を警戒する。
ミリアも唇を噛みしめ、小さく頷いた。
「竜の命は、この国の柱でもあります。放置はできません」
俺は深く息を吸った。
のんびり畑を耕すはずの毎日が、どうしてこうなるんだ。
「……わかった。やれるだけやる」
〈展開:結合式〉
俺は竜鱗に補助を流し込む。微かな光が走り、かすかに生きた鼓動を感じた。
「……まだ間に合う。竜は死んでない」
アリシアが目を見開く。
ミリアは祈るように両手を組んだ。
俺は気づいていなかった。
この瞬間、竜騎士ガイウスが目を覚ましたとき、彼が口にする言葉が――。
「お前こそ、俺の“主”だ」
次の騒乱を呼び込む引き金になることを。