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1.監禁されました。

 いつものように学園へ向かおうと通学路を歩いていると、そこで意識がぷっつりと途切れる……そんな経験をしたことがあるだろうか。


 そして、目が覚めれば真っ暗な見知らぬ部屋に居て椅子に座らされてどう足掻いても解けることがないほどガチガチに縛られる。


 ──そんな経験を、みんなはしたことはあるだろうか?


 結論。俺はある。自慢じゃないが現在進行形だ。


「ぬぐぐぐっ、んぐ!?(どうなって、んだ)」


 訂正。どうやら俺は椅子に拘束されているだけではなく、口も塞がれていたようだ。


 何故か良い匂いがする真っ暗な部屋……何も見えない。


 修正。どうやら目も塞がれている。

 通りで真っ暗で見えないわけだ。

 幸いなのは鼻呼吸ができることだけだろう。


 こういう時こそ冷静にならなければいけない。

 改めてもう一度考えよう。


 俺は登校中だったはずだ。

 それ以上何も思い出せない。

 頭部に衝撃が走ったとか、体調が悪かったとか、そんな感覚は何も無かった。

 仮に前者だったら何かしら覚えているだろうし、後者ならば俺は病院に運ばれていてもおかしくはない。


「ぬんだ、んごごん(なんだこの状況……)」


 ──しばし、沈黙の末。


「ふんご、ふごご!(そうだ、スマホ!)」


 俺は思い出し身体をクネクネとさせズボンのポケットに入っているであろうスマホを出そうとする。

 だが中々出ることはなく。


「ふご、ふごご!(へい、Siri!)」


 それならばと音声で操作しようとするが如何せん口が塞がれてしまっているからか反応はない。


 しかし、奇跡は起こる。


『きゅぴーん♡ みんなのアイドル、マジカルラブリーデストロイ子! デス、デス、デストロイ! デス、デス、デストロイ!』


 俺が毎朝登校しながら聴いているマジカルラブリーデストロイ子──通称、MLDのオープニングテーマソングがポケットから流れる。

 当然奇跡なんてものはなく単にイヤホンが抜けただけだろう。

 太ももに紐の感触を感じる。


 俺はこのままロイ子ちゃんの歌を聴いて誘拐犯に殺されるのだろう。

 これが最後の晩餐ってやつか。


 室内の甘い香りが何故かロイ子ちゃんを彷彿とさせる。

 二次元なので会ったこともないのだがそうさせるのだ。


 まさか俺を誘拐した犯人は俺が無類のロイ子ファンだと知っているのか?

 ロイ子もそうだが俺はロイ子の声を当てている声優の静橋香(しずはしかおる)さんの大ファンだ。

 昨日だっておやすみツイートを見かけて真っ先にリプをした、誰よりも早くだ!

 ここ数年の俺の生きがいは静橋さんと言っても過言ではない。

 過去に辛い思いをしていた時、たまたま見ていたSNSで静橋さんを知り、俺は救われた。

 声の可愛さはもちろんだが顔もよく、おまけにトークも面白いし、演技だって上手い。

 演じるキャラに対する思いは誰よりもあってトークイベントで話してくれることは解釈一致という言葉に尽きるだろう。

 まさに完璧で非の打ち所がないとはこのことを言うのだと痛感させられた。

 黒髪ツインテがトレンドマークの彼女は今や新人声優の枠を飛び越え、大物声優へと進化をしていた。

 年齢は非公開だが二十代半ばと噂されている。


 昔はよくリプ返をしてくれたのだが最近は忙しくなり加えてファンも増えたからかリプが返ってくることは少なくなった。

 それが昨日返ってきたのだ、俺だけに。


 ……まさか、この誘拐はそれを見たファンによる妬みか。

 昨日も俺へのリプ返だと言うのに他の奴らが馴れ馴れしく静橋さんにリプをしたりいいねや拡散などもしてきたもんな。

 優しい言葉や心無い言葉、大半は後者ばかり。

 巻き込みリプなんて大半がアホみたいなことしか喋ろうとしない。


 昨日のことを考えていると悲しさと怒りが込み上げてきて苛立ちと胸糞の悪さを覚え始める。


 こういう輩がこの世に存在してるせいでファンは素直に声優を応援できなくなってしまうって知らないのかね。


 知らないんだろうなー、視野狭いもん。


 なんて考えているとガチャリとドアが開いた音が聞こえた。

 

 どうやらご本人の登場のようだ。


 痛いのは嫌いだがコイツが捕まったことを想像すると何だか笑えてくるな。


「ふご〜、ふごごごご〜?(なぁ、どんなきもち〜?)」


 愉悦で声が漏れてしまう。


「あっ、ごめんなさい。苦しかったですよね。……せめて最後に」


 返ってきた声は想像していたものとはかけ離れていたので俺は止まってしまう。

 てっきり聞いただけで口臭が漂ってきそうな肥満体型を想像していたが、花のような可憐な声が聞こえた。

 最後に何を言ったか聞こえはしなかった。


 ──動揺してしまったからだ。

 何故ならその声に聞き覚えがあった。

 覚えがあったどころではない。


「静橋……さん……?」


 緩くなっていたのか目隠しがずれる。

 隙間から見える視界にはどういう訳か俺と同じ制服を来た静橋香の声をした同級生がいた。

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