第5話 買い物
地下鉄を2回乗り換え、終点一つ手前の駅で僕らは降りた。
30分くらい乗っていたことになるだろうか。
あまり利用したことのない、5年前新しくできた路線の駅だった。
「ここ?」
階段で地上に出ると僕はキョロキョロしながら聞いてみた。
「こっからちょっと、バス」
「まだ先なの?」
「交通費は出すよ」
「当然だ」
「ついでに服も買ってやるよ」
「は? 服?」
また可笑しな事を言いだした。
素っ頓狂な声を出した僕にニヤリと笑うと、光瀬はすぐ目の前にあったショップに僕を引っ張り込んだ。
「何で服なんか買うんだよ」
「いいからいいから」
光瀬は時々携帯を確認しながらズンズン奥へと進んでいく。
ティーンズファッションのその店は通路ギリギリまで服で溢れ、洗車機に掛けられる車になった気分で彼の後を追った。
こう言っては何だが、光瀬は人に物を買ってやるほど気前が良くもないし、ましてや服を同姓にプレゼントしてやる趣味も無いはずだ。そこまで彼に好意を持たれる言動をした記憶もない。
何とか服の合間を縫って光瀬の所に辿り着くと、彼はネル素材のシャツをハンガーごと持って、満足そうに頷いていた。
「これだ」
黄色地にブラウンと赤のラインのチェックが入った、かわいいシャツだった。
「これを僕に?」
「うん」
「変な仮装させられるのかと思ったけど、普通だったな」
「そんな趣味はない」
「ちょっと若すぎない?」
「自身持て。比奈木は充分若い」
「いや、嬉しくないし。それより、なんでこれを僕に?」
「いいからいいから。これ買うから、すぐに着替えて」
「今から着るのか?」
「そうだよ」
光瀬は当たり前のようにそう言うとすぐにレジで支払をすませ、タグを切って貰ったシャツを僕によこした。
こいつは付き合う女の子にもこういう強引なプレゼントをするんだろうか。
僕が女の子だったら即、別れるな。
そんなどうでもいいことを思いながら、僕は着ていたジャケットを脱ぎ、そのシャツを羽織った。
「中学生みたいじゃない?」
少し文句を言ってみたが、光瀬は満足げだ。
「よし。じゃあ、いこう」
却下らしい。
まあ、着られないこともないし、シャツも欲しかったとこなので、“よし”としよう。
しばらく歩いた場所にある停留所に、丁度のタイミングで滑り込んできたバスに飛び乗り、僕らは目的地へ向かった。
とは言え、僕は目的地はおろか目的も知らないのだけども。
もう、あえて聞かずにおこう。いい加減さと妙な好奇心とで、僕は何とか気持ちに折り合いをつけていた。