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第1話 ルームメイト

「なあ、比奈木。トンネル効果(※1)で犯罪が出来ると思うか?」

光瀬みつせが、携帯を見ながら聞いてきた。

僕は、そんな光瀬の質問をぼんやり聞きながら、じっと彼の目の前のカップラーメンを見ていた。

もうお湯を注がれて随分たっている。きっと中の乾麺はふやけてしまっているだろう。


「なあ、比奈木ってば。トンネル効果で犯罪を解決出来ると思うか?」

質問が180度変わってしまったようだが気のせいか?

光瀬は少し猫っぽい大きな目をじっとこちらに向けてくる。

ああ、また始まった。訳の分からない量子力学系問答コーナーが。

僕は二人でシェアして使っている2DKのアパートの天井を仰ぎ、気付かれないようにため息をついた。


「突然僕の部屋へ押し掛けて、勝手に人のカップ麺にお湯を注いで、なにバカバカしい質問してんだよ」

「悪い、何も食べる物がなかったから。それよりさあ、トンネル効果だよ」

それよりって何だ。

「光瀬は僕が量子力学(※2)を専攻してないことをからかいに来たのか?」

「まさか。宇宙物理学部だって量子論は必修だろ? 勉強してるのを考慮した上で、俺は真面目に比奈木の意見を聞こうと思ってるんだよ」

そう言って光瀬は端正な顔をますますキリリとさせた。

こいつは知的レベルが高い癖に、いつも意味不明な話題を振ってくる。


この、勝手に人の部屋に入り来み、勝手に人のカップ麺を食べようとしているのが光瀬雅臣みつせ まさおみ。僕、比奈木涼介ひなき りょうすけと同じ19歳だ。


同じ工科大学に通ってはいるが、僕が一浪したために、彼が一年先輩と言うことになる。

彼は量子力学を専攻。僕は宇宙物理学。

実は同じ高校の同級生だったのだが、入試の日にキャンパスで彼に出会うまでは、

彼がその大学に入っていたのを知らなかったほど僕らは高校時代の付き合いが薄かった。


入試の日に会場前でバッタリ出会った直後、光瀬は人なつっこい笑顔で僕に言ったのだ。

「もし受かったら住む部屋探すんだろ? 実家から遠いし。部屋探しってけっこう大変なんだよ。俺さあ、ちょうど2間のいいアパート見つけたんだ。でもちょっと高いんで、ルームシェアして一緒に住まない?」

いい提案だと思ったが、その日はもうそれどころでは無かった。

二浪なんて出来ない自分は崖っぷちだったのだ。確か曖昧に笑ってその場をやり過ごしたと記憶している。


驚いたことに合格発表の日、PCの前でその幸せを噛みしめた直後、光瀬から携帯に着信が入った。

そう言えばあの日、番号を教えたんだっけとボンヤリ思い出しながら電話に出ると、いきなり「どうだった?」とテンション高めで聞いてきた。

合格を知らせると、まるで親戚のおじさんのようにように喜んでくれた。

親よりも誰よりも先に祝福してくれたのが光瀬だった。

そして、弾んだ声で彼は言った。


「比奈木、一緒に暮らそう!」


まるでプロポーズのような言葉をもらい、そして現在に至る。



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※1 トンネル効果

量子力学の分野で、通常の常識では越えることのできないはずの壁を、粒子(電子)が一定の確率で通り抜けてしまう現象。

無から有を創世するトンネル効果は宇宙誕生の鍵となったと言われている。


※2 量子力学

私たちの日常の世界(マクロの世界)の物の動きとはかなり違ったルールを持つミクロの物質(光や電子)の振る舞いを記述する方法。理論。


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