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『転生したら鎧だったので、自分で動けない。なので呪われた美少女妖精に乗り込んでもらって最強を目指します』  作者: 月影 朔
第1章:忘れられたダンジョン編

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第28話:鎧の水中機動化計画

(くそっ……!

この身体、水中じゃ全く役に立たねえ!

ただの重りだ!)


 俺は、悔しさに魂を震わせた。

このままでは、この第二階層を攻略することなど夢のまた夢だ。

この鎧は、根本的に「水中での活動」を想定して設計されていない。


(……改造するしか、ねえ)


 俺の魂に、整備士としての決意が再び燃え上がっていた。


(あのリザード共のように、水中を自在に泳ぎ回れるような……

そんな機動力が、今の俺には必要だ!)


 その強い意志に応えるかのように、脳内にあの無機質なシステムメッセージが新たな可能性を提示した。


《水中環境における機動力不足を解消するための、新規換装プランを提案します。

表示しますか? Y/N》


(新規換装プラン……だと?)


 俺は、魂が大の字で伸びていたのも忘れ、思わずその無機質な問いかけに意識を集中させた。

まるで、ずっと探していた希少なパーツの在庫が思わぬ場所で見つかった時のような興奮が、疲弊しきった魂に流れ込んでくる。


(表示する! 当たり前だ!

見せてみろ、俺たちのOSの実力ってやつを!)


 俺が内心で叫ぶと、システムは即座に応答した。


《了解。

換装プラン『アクア・ダイバー』を表示します》


 その声と共に、俺の脳内に青白い光で構成された設計図がホログラムのように展開された。

そこに映し出されていたのは、今の俺の鎧……アルマの姿をベースに、いくつかの新しいパーツが追加された全く新しいフォルムだった。


「これは……!」


 リリアもまた、俺と共有されたその設計図を見て驚きの声を上げた。


(すごい……。

俺の今の身体の構造を完全に理解した上で、最適な改造案を提示してやがる)


 それは、ただやみくもにパーツを付け足しただけの素人考えの改造じゃない。

空気力学ならぬ、流体力学に基づいた計算され尽くした設計思想。

俺が整備士として持つ知識と経験を、遥かに超えた領域だ。


《プラン『アクア・ダイバー』概要:


脚部装甲(レッグ・アーマー)への可変式推進器(フィン)の増設。

背部装甲(バック・アーマー)への整流板(スタビライザー)の追加。

腕部装甲(アーム・アーマー)の流線形化による抵抗軽減。》


(フィンに、スタビライザー……。

完全に水中仕様じゃないか!)


 設計図には、それぞれの改造に必要な素材とその最適な入手元まで丁寧に記載されていた。

そして、その入手元として示されていたのは……。


「アルマ……。

このヒレの形、そしてこの鱗の構造……。

まるで、先ほどの水棲リザードそのものですわ」


 リリアが、どこか呆れたような、それでいて感心したような声で呟く。


(ああ、その通りだ。

敵の技術は盗んで使え、ってな。整備士の基本だぜ)


 システムが提案してきたのは、まさに「敵に学び、敵を超える」という俺の信条をそのまま形にしたようなプランだった。

あの忌々しい水棲リザードたちの、水中を滑るように泳ぐための流麗な身体構造。

その秘密であるヒレや鱗を《魂装融合》で取り込み、俺の鎧を水中戦に特化させろ、というのだ。


(だが、言うは易しだぞ、システムさんよ。

あいつら、群れで行動してるんだ。パーツを手に入れる前に、こっちがスクラップにされるのがオチじゃないか?)


 俺がもっともな疑問をぶつけると、システムは即座に新たな情報を提示してきた。


《推奨素材入手プランを提示:

対象:水棲リザード(単独行動個体)

生息予測地点:本地点より北東へ約500メートル。小規模な泉周辺。

脅威レベル:C(群れから離れた個体は、連携能力の低下により脅威度が著しく減少)》


(なるほど。

はぐれ個体を狙え、と。用意周到なこった)


 そこまで分かっているなら、最初から教えてくれても良さそうなものだが、このシステムは基本的にこちらからアクションを起こさないと情報を開示してくれないらしい。

なんとももどかしいOSだ。


「アルマ、どうしますか?

今のあなたの鎧は先ほどの戦闘でかなり損傷しています。

まずは、この場で自己修復に専念すべきでは……?」


 リリアが、俺の身体を気遣ってくれる。

確かにその通りだ。今の俺の鎧は、脚部の関節に槍が突き刺さったままだしフレームもあちこち歪んでいる。

まさに満身創痍。


(いや、リリア。

この傷は、このままにしておく)


「えっ?」


(この脚の傷は、俺たちの弱点の証だ。

こいつを完全に修理するのは、水中機動力を手に入れてからだ。

整備士ってのはな、同じ失敗を二度繰り返す奴を三流って言うんだよ)


 俺は、自分の魂に刻みつけるように言った。

この悔しさを、この敗北感を、忘れないために。

この傷を見るたびに水中でのあの無力感を思い出す。

それこそが、俺を次なる進化へと突き動かす最高の燃料になるはずだ。


「……分かりましたわ。

あなたの覚悟、しかと受け止めました。

ならば、わたくしたちがやるべきことは一つですね」


 リリアの魂の光が、再び力強さを取り戻す。


(ああ。狩りの時間だ!)


 俺たちは互いの決意を確かめ合い、ゆっくりと立ち上がった。

まずは、システムが示したはぐれリザードがいるという泉を目指す。


 アクア・トードから手に入れた滑り止め機能のおかげで、ぬめった岩棚の上も安定して進むことができる。

これがなかったら、今頃は移動すらままならなかっただろう。

あのクソガエルも、捨てたもんじゃなかったな。


 道中、俺はリリアにシステムの設計図について俺なりの分析を伝えていた。


(リリア、見てみろよ、このヒレの構造。ただの板じゃない。

根元に関節があって、泳ぐ時の水の抵抗に合わせて角度が自動で変わるようになってる。

これ、前世の航空機のフラップと同じ理論だぜ。

推進力と旋回性能を両立させる、完璧な設計だ)


「まあ!

アルマの眼にかかれば、魔物の身体もそんな風に見えるのですね」


(当たり前だ。俺に言わせりゃ、魔物も機械も同じだ。

全ては、目的を達成するための機能美の塊なんだよ)


 俺の魂が、整備士としての興奮で生き生きと輝いているのをリリアも感じ取ってくれているようだった。

彼女とのこんな会話が、俺にとっては最高の精神安定剤になっていた。


 やがて、俺たちの《共振探知》と《霊素視》が、前方に微かな水の気配と一つの霊素反応を捉えた。


(……いたな)


岩陰からそっと様子を窺うと、そこには直径十メートルほどの小さな泉があり、一体だけの水棲リザードが水を飲んでいる姿があった。


 システムの情報通り、はぐれ個体だ。

周囲に仲間の気配はない。


(よし、やるぞリリア。

今度の戦場は陸の上だ。俺たちの土俵で、確実に仕留める!)


「はい!」


 俺は、足音を殺し慎重に距離を詰める。

奴はまだこちらに気づいていない。

好機。


 だが、俺はすぐには攻撃しなかった。

ただ、じっとその姿を観察する。


《機構造解析》を使い、奴の身体の隅々まで、その動きの癖、重心の位置、鱗の構造、そして何よりあの美しいヒレの動きを、俺の魂に焼き付けるために。


(なるほどな……。

尻尾の動きで推進力を生み出し、四肢のヒレで方向転換と制動を行っているのか。

無駄のない、完璧な水中航行システムだ)


 俺がその機能美に見惚れていると、ついにリザードがこちらの気配に気づいた。


「キシャッ!」


 警戒の鳴き声と共に、槍を構えてこちらへ向き直る。

だが、もう遅い。

お前の身体のデータは、全てインプットさせてもらったぜ。


(リリア、合わせろ!)


「承知!」


 俺は、もはやお決まりとなった掛け声と共に大地を蹴った。

ロックリザードの甲殻を得た俺の突進は、以前とは比べ物にならないほどの重量と破壊力を秘めている。

リザードは、その圧倒的な質量を前にして怯んだように一瞬だけ動きを止めた。


 その隙を、俺は見逃さない。

狙うは、槍を構える腕でも心臓があるであろう胸でもない。

この改造計画に最も必要なパーツ。


 水中での機動力を司る、あの流麗な四肢のヒレだ!


(もらうぜ、お前の自慢のパーツ!)


 俺は突進の勢いを殺さず、リザードの脇をすり抜けるように駆け抜ける。

そして、すれ違いざまに硬質化させた鉄の指先で、奴の右前脚のヒレの付け根を正確に切り裂いた!


 ザシュッ!


「ギィッ!?」


 リザードが、痛みと驚きに満ちた悲鳴を上げる。

俺の一撃は、ヒレを動かすための重要な腱だけを的確に断ち切っていた。

これで、奴の水中での機動力は半減したも同然だ。


 俺は反転し、再びリザードへと向き直る。

奴は傷ついた脚を引きずりながら、憎々しげにこちらを睨みつけていた。


(悪いな、トカゲ野郎。

これも、俺たちがこの先、生き残るために必要なことなんだ)


 俺は内心でそう呟きながら、静かに構えた。

これは、ただの戦闘じゃない。

俺の鎧を、俺たち自身を次なるステージへと進化させるための、神聖な「部品調達」なのだから。


 俺の魂は、この先の魔改造への期待に静かに、しかし熱く燃え上がっていた。

この一戦を乗り越えた時、俺たちはきっとこの水の迷宮を支配する新たな力を手に入れることができるだろう。

その確信が、俺の魂を満たしていた。

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