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縮小傾向

作者: 雉白書屋

 休暇を取って久しぶりに日本へ帰国したのだが、どうにも奇妙な感覚に襲われた。

 まず、空港の売店。棚に並ぶ土産物が、やけに小さい。どの食品も、まるで子供向けではないかと疑うほどだ。

 次に駅のコンビニで買った弁当。これもまた、昔食べたものと比べて、驚くほどボリュームが減ったように思える。中身が少ないせいで、逆に包装のプラスチックが無駄に大きく見える始末だ。

 極めつけはお菓子だ。ポテトチップスの袋を開けた瞬間、思わず目を疑った。中身は袋の底に、まるで落ち葉の吹き溜まりのようにこじんまりと寄っており、一掴みでなくなってしまいそうだった。

 これが今の日本の経済状況ってやつなのか……。

 そんな独り言を漏らしつつ、電車に乗り込んだとき、さらに奇妙な感覚に襲われた。

 気のせいか、電車そのものが小さくなっている気がしたのだ。車両の数も減ったように思える。経費節約の一環なのだろうか。車内の乗客たちも、妙に縮こまって見える。その背中を丸めた姿は、まるで未来への希望を失ったかのようだった。


「あら、おかえり! 元気だった?」

「ああ、ただいま、母さん」


 実家のインターホンを押すと、母が笑顔で出迎えてくれた。懐かしさに胸が熱くなり、抱きしめた。母は少し驚いた様子だったが、くすくすと照れたように笑った。


「もー、ハグなんて、すっかり外国暮らしが板についたのね」

「ははは、そんなことないよ。はい、これ土産。空港で買ったものだけどね」


 おれは土産物を母に手渡し、家の中へ入った。

 リビングのソファに腰を下ろし、母が出してくれたお茶をすすりながら他愛もない会話を交わした。……だが、どうしても我慢できず、意を決して母に訊ねた。


「母さん、その……縮んだ?」


 実はさっきのハグは、密かにサイズを確認するためでもあった。やはり、昔より小さくなった気がしてならない。


「やだもう、この子はほんとにもう。こういうときはね、痩せたって言うのよ。ふふっ、実は最近、ヨガ教室に通い始めたのよお」


 母は大笑いしながら胸を張った。


「いや、そうじゃなくて背がさ……いや、全体的に縮んでる気がするんだけど……」


 やっぱりおかしい。街で見かけた人々、建物、商品、全部が一回りも二回りも小さくなっている。これは錯覚なんかじゃない。


「あんたねえ、何を言っているの。変わってないわよ。変わったのは、あんたのほうでしょ」

「え?」


「向こうで食べ過ぎたんでしょ? お母さんもびっくりしたわよ」

「いや、まあ、ちょっと太ったかもしれないけど……。それに、人だけじゃなくて、弁当とかお菓子も明らかに昔より小さくなってない?」


「まあねえ、最近はなんでも値上がりしてるからねえ。そうしないと企業もやっていけないんでしょうけど、困っちゃうわ。この前なんて、水道料金まで上がっちゃって、もうほんと大変よ」

「いや、そういう話じゃなくてさ。この国全体が縮んでいる気がして……」


「あんた、すっかりアメリカかぶれになっちゃったの? この国は狭くて息苦しいってやつ?」

「だから、そうじゃなくて……いや、もういいや……」


 納得はいかなかったが、それ以上の追及はやめることにした。せっかくの帰国なのに、無駄な口論はしたくない。おれは話題を切り替え、のんびりとした休暇を過ごした。

 そして勤務先に戻り、しばらく経ったある日のこと。おれは、あの違和感の正体に気づいた。

 地球から遠く離れた宇宙ステーションで、調査衛星の記録を分析していたときに。


「……なるほど、どうやら宇宙が収縮し始めたらしい」

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