061.叙爵
「あぁ、ラント様」
「エステル、可愛いぞ。侍女教育は進んでいるか?」
「はい、お姉さまとお母様と一緒に励んでいます」
ラントは部屋でエステルの尻を撫でていた。嫌がる様子はない。アドルフィーネに続き、ハンネローレ、エステルも既に物にしている。彼女たちは既にラントの虜だ。
エステルたちは侍女教育でデボラにしごかれているらしい。今は休憩時間だ。ラントは本を読んでいたが、エステルが訪ねてきた。そしてこうやって可愛がってやっている。軽くキスを落とす。それだけでエステルはうっとりとした。
だがまだ昼だ。発情させるにはまだ早い。ラントはエステルから手を離し、戻るように促した。
公爵邸の廊下を歩くと窓を拭いて居た使用人が尻を突き出してくる。明らかに誘っている。まだ手をつけていない使用人だ。
「なんだ、触ってほしいのか」
返事を待たずに尻を触る。使用人からは嬉しそうな悲鳴が上がった。
「あぁ、嬉しいです。ラント様」
「ふむ、お前はまだだったな。この場でいいか?」
「もちろんです。いつでもラント様なら受け入れます。仕事中ですがラント様のお相手をしたと言えばデボラ様も許してくれますから」
「そうか、乙女か? 恋人は?」
「まだ乙女です。恋人は居ます。でも大丈夫です」
ラントはマリーから使用人や侍女が避妊薬を禁止されているのを聞かされている。ラントの避妊の魔法も禁止された。どうやら公爵家にラントの種が欲しいようだ。
ラントの子なら魔力が多い子が生まれるだろう。だが中央諸国や南方には銀髪は珍しい。北方に多い色なのだ。誰の子なのかなど即座にわかる。いいのだろうか。ラントは考えないことにした。なにせこの館の女主人、マリーが許しているのだ。
使用人は使用人服のお仕着せのスカートに手を突っ込み、ドロワーズを降ろし、腰を突き上げた。十分火照っているようだ。
「なんだ、準備万端じゃないか」
「ラント様がお近づきになるだけでこうなってしまいました」
「嬉しいことを言うな。よし、褒美をやろう。痛い方がいいか、それとも鎮痛の魔法を使うか」
「初めては痛いのでお願いします。あぁ、ようやくラント様のお情けが私にも」
不思議なことに鎮痛の魔法は評判が悪い。皆乙女の痛みを感じたがるのだ。公爵家の廊下で公爵家のお仕着せを着せられた使用人を味わう。ラントにとっても初めての経験だ。有り体に言えば最高だった。そろそろ使用人もコンプリートせねばならない。使われた使用人は床にへたれている。とても嬉しそうだった。途中別の使用人が通ったが羨ましそうに見ていた。終わった後に掃除をさせた。
公爵邸は既にラントの物として機能していた。
◇ ◇
「うふふっ、ラントは喜んでいるようね、嬉しいわ」
「いいのですか。初の子はマルグリットお嬢様が産まれるのかと」
「良いのよ、わたくしはいずれこの国を去るかも知れない身。お父様やお兄様からも王宮にわたくしを返せと手紙が来たそうよ。ただお祖父様がわたくしに会いたいそうなのでしばらくはアーガス王国に居るわ。それにここなら気兼ねなくラントと共に居られるし、叔母様や従姉妹たちとの交流も深めたいわ。しばらくアーガス王国にいることになるわね。最低でもラントが伯爵位を賜ってから移動するつもりよ。わたくしに会いたいのならお父様やお兄様がくれば宜しいのよ」
「大旦那様は北方守護で、クラウス様は全国を駆け回っていると聞きます。そう簡単に動けないのでは」
「そうよ、だからちょうど良いの。今のこの状態がね」
マリーはエリーの問にそう答えた。家族に会いたいかと言われれば会いたいが、まだラントをマリーの伴侶に迎える策が成っていない。確実にしてから家族にラントを紹介するつもりなのだ。
既成事実を作ってしまおうか。そう思ってしまうが流石に自重することにした。腹が膨れて帰ってきたら流石の家族も驚くだろう。父や兄などラントに決闘を申し込みかねない。
だがその父や兄でもラントには敵わない。テールの麒麟児に勝てる者など大陸を見渡してもそうは居ないだろう。それに家族とラントは仲良くして欲しい。エーファ王国の帝国の侵略もラントの魔法具で挫かれたのだ。クラウスなどは文句が言いたくても言えないだろう。
「ラントの名をもっと鳴り響かせなければ成らないわ。叔母様やコルネリウス兄様をうまく使いましょう。エリー、策はあって」
「コルネリウス王太子殿下はすでにラント様の実力を知っています。放っておいても問題ないのでは? 王太子殿下です。使えるものは使い倒す性質でしょう。ラント様を御せるとはまでは言いませんがベアトリクス王妃殿下がうまくやってくれるでしょう」
エリーの言う言葉は的を射ていた。ラントほどの逸材。危難に陥っている王国が使わない筈がない。そして使えば必ず功に報いる必要がある。ラントの出世は約束されているのも同然だ。
遠く離れていても、たった一つの魔法具だけでエーファ王国を救った英雄なのだ。ラントの名前はエーファ王国では広まっていないがブロワ公爵家内では広まっていることだろう。
あとはラントが功を上げてアーガス王国の伯爵位くらいを得ていてくれれば最良だ。マリーがラントを婿に迎えるのも、嫁にでるのも家族は文句一つ言えない。
時が来るまでじっと待つ。マリーはそれができる女だった。ラントはもう公爵邸が、マリーの元が帰る場所だと認識してしまっている。あとは逃さないだけだ。
一つ間違えば即ラントは出奔してしまうだろう。そして逃げ出したラントを捕まえる術はない。ラントが本気なら一瞬で〈転移〉で姿を隠し、絶対に見つからないだろう。ならば捕らえ続けねばならない。マリーはそう判断していた。
◇ ◇
「ランツェリン・ドゥ・クレットガウ騎士爵に王国金翼剣勲章を与え、新たに子爵家を興すことを許す。これよりランツェリン・フォン・クレットガウ子爵を名乗るが良い」
「はっ、有難き幸せ。陛下の為に、アーガス王国の貴族として、子爵の名に恥じぬ働きをお見せ致しましょう」
「クレットガウ新子爵は既に救国の英雄だ。余も期待しておる。これからもアーガス王国に努めてくれ」
父であるマクシミリアン三世がラントにそう宣言する。今日は論功行賞の日だ。
今回の戦争で功を上げた者たちがマクシミリアン三世から褒美を与えられる。そして勲一等であるラントが最後に呼ばれる。胸には宰相から金色の剣の勲章がついていた。この国でも持つものはそう居ない最高位の勲章だ。大粒の魔法石が嵌まっている。勲章を持つだけで毎年白金貨十枚の報奨金が与えられる。
謁見の間ではどよめいていた。何せ騎士爵から三段飛ばしの昇進だ。だがその戦功の大きさが宰相やコルネリウスから語られると誰も文句を言える者は居なかった。
ならば代わりにお前がやれるか? そう問われてできると答えられる者は存在しない。
計画の立案。帝国の悪意を見抜き、鉄壁の要塞を僅か一日で落とし、暗殺者の襲来を予見し、二度もコルネリウスの命を救った。更に多くの貴族の人質を救い、コルネリウスの名声まで高めた。
それをたった一人の騎士が行ったのだ。誰が文句を言えようか。その功の大きさには子爵ですら足らぬという声もあったほどだ。だが流石にいきなり伯爵にするのは前例がなさすぎる。子爵でも前例がなく、会議が踊ったのだ。
「ランツェリン・フォン・クレットガウ子爵に乾杯」
その後論功行賞が終わるとホールでのパーティに移る。多くの貴族が参加している。特に救国の英雄と名高いラントの元には多くの貴族が挨拶に行っている。どんな男か見極めたいのだ。
通常は爵位が高い者が低い者に話しかける。ラントは今日の主役だ。伯爵や侯爵にいるものたちもラントに積極的に話しかけている。たまに娘を嫁にどうだなどと言っている。ラントは苦笑いしながら対応していた。案外如才ない。うまく貴族たちをコントロールしている。取り込まれないように婚約の約束などは決してしない。
(なかなかやるな。クレットガウ子爵。惜しいものだ。王家に取り込みたいほどだ)
コルネリウスですらディートリンデに婚約者が決まっていなければ妹をラントに差し出していただろう。彼らの気持ちは痛いほどわかる。
流石にヘルミーナは懐いてはいるが幼すぎるだろう。他の王女たちは既に婚約者が決まっている。空きはない。それが残念だと思った。
父も側室の娘でも良いので与えることを考えたと言う。だがすでに決まっている婚約を破棄させれば王家と縁続きになると喜んでいる婚約者となっている貴族家の忠誠が離れ、ラントに嫉妬が向かう。それはまずいとコルネリウスやベアトリクスたちが止めた。
ただ父の妾の子が一人居る。彼女を与えるのはどうかと話し合われている。妾の子とは言え国王の血を引く娘だ。美しく、教育もしっかりしている。妾の子である為、アーガスの名は名乗っていないが今は貴族院に通っていて立派な淑女に育っている。婚約者も居ない。
(あの妹をクレットガウ卿にやるか。良い案かも知れぬ)
コルネリウスは腹違いの妹をラントにやれば、自身がラントの義兄になるのだ。それは良い案だと思った。王家と縁続きになれば伯爵どころか侯爵位を与えても構うまい。それほどラントの功は大きい。これからもどんどんと存在感を増すだろう。ラントがアーガス王国の中心に居るのは間違いない。
父や母に相談し、この話は進めるべきだと思った。コルネリウスは貴族に囲まれているラントを見てニヤリと笑った。
◇ ◇
「ただいま、マリー」
「おかえりなさい、ラント。あら、なんだかお疲れね」
「流石にな、陛下の前で跪いて子爵に叙されて来た。旧伯爵邸も貰ったぞ。後は禁書庫の入室権と宝物庫の宝を三つ与えると言われた。大量の報奨金も貰ったな。白金貨など数える気もおきん」
「まぁ、凄いではありませんか、流石ラント。望外の褒美ですね」
「それだけこき使われるということだ。前払いみたいなものだ。後が怖いな」
ラントは苦笑している。魔導士のローブの胸にはこの国最高の勲章が輝いている。
マリーは知っていたがやはり望外の褒美だと言える。だがこれでマリーの野望に一歩も二歩も近づいた。どんどん出世してくれて良い。幾らでも女など用意しよう。金銭など広い部屋が溢れるほど与えることができる。
今デボラには新しい侍女や使用人候補を集めさせている。そのうちラントの子を孕む使用人や侍女も現れるだろう。その補充の為だ。
ラントは使用人をコンプリートしかねない勢いで抱いている。流石ラントだ。マリーも嫉妬しないわけではない。
だがマリーの惚れたラントと言う男はそういう男なのだ。それも含めて飲み込むのが上級貴族に生まれた女の度量と言うものだ。マリーは覚悟が決まっていた。
「湯を用意しています。ゆっくり浸かって来てくださいまし」
「あぁ、言葉に甘えるとしよう、やはり夜会や謁見は肩が凝るな」
ラントはぐるんと腕を回して湯に向かっていった。
マリーはニヤリと笑みを浮かべた。湯には使用人ではなく今日は侍女三人を用意している。ラントも喜ぶだろう。
いずれ公爵邸にはラントの血を引いた子が沢山産まれることになる。ラントの血を引いていれば魔力が高いのは確実だ。
幼い頃から厳しく育てれば騎士に魔導士にといくらでも引く手あまたになるだろう。デボラやサバスも了承している。ラントの種なら乞うてでも欲しいと言っていた。
そうなれば公爵家は安泰だ。次代の公爵家を支えるのはラントの種になる。何せ次期公爵は伯父であり、その次の代はマリーの従兄弟だ。
ラントの子をまだ孕めないのは業腹だが、マリーは亡き母の実家も愛していた。その為になら愛するラントすら利用するのに躊躇はない。エリーにも避妊を禁止している。
「ふふっ、逃がしませんよ、ラント。愛しい人」
マリーは妖艶に笑った。今頃ラントは彼の為に用意されたごちそうを食べているだろう。覗きに行ってみよう。そう思った。
この更新で今年も終わりです。読んでくださった方々、ありがとうございます。
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