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115.マリーの上達とエルフの戦士

「火炎の精霊よ、我が呼び声に応えよ。我が意を汲み、炎を纏い、敵を焼き尽くせ。〈爆裂エクスプロージョン〉」


 マリーが杖を手に呪文を唱える。杖に魔力が吸われる感触があった。魔法陣が杖の先に展開され、マリーの放った爆裂魔法は百メル先の的にすら当たらず、思っていたよりも威力が出た。ズガァンと大きな音が鳴り、的から離れた場所にクレーターができる。当然近くに人は居ない。危険だからだ。


「え、発動……した?」


 爆裂魔法は中級上位から上級下位とされている。今までマリーが使えた試しはない。威力だけなら上級魔法と言っても過言ではないかも知れない。魔力が減った時の特有の怠さが襲ってくる。


「見事な物です。マルグリット様。的には当たりませんでしたがそれは練習で補えます。まず杖の向きが少しだけ違います。魔力の収束も甘かったですね。しかし爆裂魔法が使えるとなればそれはもういっぱしの魔法士になれますよ」


 指導をしてくれている女魔導士が褒め称えてくれる。

 今までは幾度呪文を唱えようとも発動の兆しすら見えなかった。だが今回は発動した。マリーの努力が実ったのだ。

 ラントが残してくれた魔法の修練方法と魔導士の指導。それらが合わさり、マリーの魔法はどんどんと上達していった。


 今や詠唱短縮をして結界や障壁も張れる。光球も小さく圧縮することができる。ラントの言う魔力の性質変化もだんだんとわかってきた。マリーは光魔法と水魔法の素質が高いが他の魔法が使えない訳ではない。火魔法もそれなりに素質がある。


 ラントが全属性を使えると言うように、大概の魔法使いは二つか三つくらいの魔法に適性がある。しかしラントに言わせればきちんと修練を積めば苦手な魔法ですら使えるようになると言う。ただし光魔法の修練はラントの目の前でやれと厳命されている。神気が漏れるかも知れないからだそうだ。

 爆裂魔法で戦争を終わらせたラントは火炎系の魔法は苦手なのだと言っていて驚いた。ラントは自身の苦手な魔法で宮廷魔導士たちを唸らせたのだ。


「えぇ、練習はしましょう。ですが爆裂魔法は被害が大きすぎるし、混戦では使えないわ。水魔法や氷魔法を重点的に練習することに致しましょう」

「そうですね、爆裂魔法はどちらかと言うと魔物の群れや拠点に向かって放つ魔法です。盗賊の集団などにも効果はありますが、マルグリット様が盗賊に向けて魔法を放つ機会はないでしょう」


 魔導士も同意してくれる。

 それからは〈水刃〉や〈氷槍〉、〈氷盾〉などの練習をした。〈水刃〉はスピードと薄さが大事らしい。薄くすると丸太が綺麗な剣で斬った様にズレる。

 〈水刃〉は初級から中級の魔法ではあるが、縦に放てば対個人に、横に放てば集団にも効果がある魔法だ。刃の大きさを自在に変えれば部屋の中でも使える。きちんと覚えたいと思った。


 エリーも頑張っている。エリーは魔法は苦手だったのだがラントの指導を受けることになってその苦手を克服した。もちろん本人の努力もある。

 彼女は調べた所雷の魔法に素養があるらしい。結構レアな素養だ。他は風魔法と水魔法にも素養があると言う。雷魔法は扱いも難しく、魔力が多く必要になることがあるので、魔力の少ないエリーでは極める事は難しいだろう。

 だがラントに貰った短剣やアクセサリー、護符などもある。雷魔法も中級までなら使えるようになるだろうと言われた。

 中級まで使えれば大概の相手は防がなければ怪我を負う。もしくは死ぬ。

 平民など初級魔法でも死ぬのだ。騎士や魔法士たちは魔力を纏っているのでそれだけ被害は少なくなる。殺すのは難しいが無力化くらいはできるかも知れない。


 どちらにせよエリーは風魔法を練習している。雷魔法は複雑なのでその後だ。突風を吹かせれば相手や馬は怯むし、範囲も広い。風の刃などもある。風魔法は目視が困難なのでハンターや傭兵などでも重宝される。

 火魔法は見た目は派手であるし、破壊力もあるので人気はあるが、森の中などでは使えなかったりと制限が多い。更にハンターの場合目的の素材が焼けてしまうのであまり使われないそうだ。


「エリー、貴女もなかなかうまくなってきたわね」

「はい、ラント様のご指導のおかげですね。どうも──、あ、これも駄目なんですね。とりあえずラント様に色々して頂いた結果、なんとかなるようになりました」


 エリーは〈制約〉に引っかかったらしい。おそらくマリーの知らない事だ。何をしたのだろう。だがラントのやることだ。どうせ非常識な事をエリーに仕込み、それを〈制約〉に組み込んだのだろう。マリーはそう納得して、帰ってきたら問い詰めようと思った。



 ◇ ◇



「アールヴの戦士がこれだけ集まっていると俺でもビビるな」

「はっ、アールヴの戦士たちも同じことを思っているぞ」


 リリアナの元には三十余名の男女が跪いていた。リリアナのいるイシスの枝の戦士たちだと言う。他の枝の戦士も何人か混じっていると聞く。だが見た目では全く判定できない。


『私は今リリアナと名乗っている。そう呼ぶように』

『『『はっ』』』

『この男はラント。私が見初めた男だ。私と同等の力を持つと思え。お前たちアールヴの戦士以上の力を持つ人族だ。間違っても突っかかったりするなよ。森を荒らす魔物を倒してくれる味方だ。私の言うことに異議があるならば即座に里から追放してやろう』

『お待ちをっ、流石に人族がそれほどの力を持つなど有りえませぬ』

『馬鹿者っ、別の枝の戦士が決闘をし、人族に殺され、目玉を抉られた事件を知らぬのか。世界は広いのだ。そして人族は多い。この者のように異端児が生まれてくることもある。その目で確かめよ』


 一人の壮年の男が待ったを掛けた。当然だろう。リリアナと同等の力を持つ人族などエルフたちの常識としてありえない。

 だが三千年も経てばエルフに取っては十代くらいの代替わりだろうが、人族は数えるのも馬鹿らしいほど代が変わる。そして様々な魔術や技術を生み出してきたのだ。

 ラントのようにエルフ並の魔力を持つ者も稀にだが生まれる。ジジイが良い例だ。ジジイなら目の前のエルフの戦士たち全員を相手にしても余裕で生き残るだろう。残るのはエルフたちの屍のみだ。

 ラントはどうだろう。やったことがないのでわからないとしか言いようがない。だが切り札は幾つもある。それらを駆使すれば戦えるのではないだろうか。ただし森の中では戦いたくないのでまずは地面を更地にすることから始めるだろう。


(皆強いな。少なくとも宮廷魔導士よりも強い。更に魔法だけでなく弓や剣、槍の技術も頂きに近いだろう。少なくとも奴らの得意分野では戦いたくはないな)


 魔法は始めエルフの模倣であった。故に呪文で精霊に祈るのだ。聖国の連中は神に祈って魔法を放つが、別に祈る必要などない。魔法は自力で発動するものなのだ。

 神や精霊の力を借りる時に、その神や精霊に祈れば良いのだ。ぶっちゃけて言えば日本語でも英語でも魔法は発動する。ラントは稀に聞かせたくない魔法を発動する時には日本語を使う事がある。それだけで相手はラントがどの魔法を使うのかが全く予測ができなくなるのだ。

 古代魔法語は精霊語に近しい。当然だ。精霊語を元にして、魔法が使いやすいように作られた言語だからだ。


『ラント、見せてやれ。それで納得する』

『そうだな、わざわざアールヴの戦士たちと争う意味がない。シヴァ、出てこい』

『人族が精霊語だと!?』


 壮年の男はラントが精霊語を使ったことに驚いたが、シヴァが現れ、その驚きは驚愕になった。戦士たち全員への。


『は~い、愛しい子。また呼んでくれて嬉しいわ』

『まさかっ、雷の大精霊様だとっ!?』


 美しい女性の姿をしたシヴァが現れ、エルフの戦士たちがリリアナに対してではなくシヴァに対して跪く。それほど大精霊とはエルフたちに取っては大事なことなのだ。


『まぁそういう事だ。俺はこのシヴァの試練を受け、突破した。そしてシヴァに懐かれている。俺が命じればシヴァはお前たちをたちまちのうちに消し炭にするだろう。わかったか?』

『くっ』

『止めましょう、私はあの男がオーガキングとアラクネクイーンの争いに割って入って居た所を見ていました。我らアールヴの戦士ですらあのような芸当はできませぬ。間違っても手を出してはなりません。リリアナ姫様からの命ですぞ』


 若い男が壮年の男を止める。どうやらあの時の戦いを見ていた者がいるようだ。チラリと見ると半数程度はラントの実力の一端を知っているらしい。どちらにせよラントはエルフと争う意思はない。

 大きく括れば同胞と言える帝国の部隊が森を荒らしたのは悪いとは思うが、それだけだ。ラントに罪の意識はない。エルフたちがアーガス王国を敵視さえしなければ良いのだ。


『ラントはベヒーモスとブラックヴァイパーの戦いにも介入する気でいるらしい。私はそれを見に来たのだ。お前たちだけでは荷が重かろう。我らでもまともにぶつかれば少なくとも数人は戦士たちが死ぬ。それを回避できるのだ。素直に喜べ。そしてラントの実力を見て、学べ。人族は愚かでどうしようもない種族ではあるが、極稀ではあるがこれほどの者もいるのだと』


 リリアナが戦士たちに言い聞かせてくれるおかげでラントが格付けをする必要がなくて本当に助かる。ここでエルフと戦えば魔力が減るのだ。そんな無駄な事に力を使っている余裕などない。

 更にエルフたちは仲間意識が強い。戦えば本気の戦いになるだろう。手加減などしていられない。殺してしまうかも知れない。殺される可能性ももちろんある。そして一人でも殺せばエルフ全体から狙われる。そんなのは冗談でも勘弁してほしかった。


(それにしても本当に美男美女ばかりだな。リリアナの美しさは一つ抜けているが)


 壮年の男は何歳なのだろう。見た目からは全く判断できない。エルフの寿命は千年と言われているがそれは普通のエルフの話だ。エルフの王族であるハイエルフの血脈や精霊の試練をくぐり抜ければ更に寿命は伸びる。三千年前に人族を救った生き字引が居ると言われてもラントは驚かない。

 むしろいるならば是非話を聞かせてほしいと思った。彼らが手を貸してくれなければ人族はほぼ確実に絶滅していたのだ。


『さて、格付けは済んだな。ブラックヴァイパーはラントの獲物だそうだ。その代わりベヒーモスは譲ってくれると言う。ベヒーモスの肉などなかなか食べられんぞ。食するだけで魔力が上がる逸品だ。血も酒に混ぜれば毒への耐性が上がる。さて、行くぞ。道中の雑魚たちは全てラントに譲ることにしている。文句は言わせん。着いてこい。そして私の言う事を目の当たりにするのだ。自分の目で見てまだ信じられんなどと言う馬鹿はうちの枝には要らん。とっとと里から出ていくが良い』


 リリアナはそう言いつけて背中を戦士たちに向け、ベヒーモスたちが戦っている方向に向かっていった。


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