表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/158

113.オイゲンの苛立ち

「そうか、よくやったぞ。ガンツ」

「お褒めの言葉、光栄です」


 ラントはガンツの報告を聞いてしっかりと調べられていることを確認した。

 予想よりは多くないが強い魔物が多い。つまりそれだけ多くの魔物が食われたのだ。

 そんな魔物の相手をすれば騎士団と言えど苦戦するだろう。だがそれも仕方がない。オーガたちやアラクネたち以外の魔物も魔寄せ香で引き寄せられ、強化されているのだ。

 深部も軽くオウルの目で見たがまだまだ強大な魔物はわんさかと大樹海には棲息している。だが彼らは目の前の肉に釣られて表まで出てくることはないだろう。

 最深部では当然ブラックヴァイパーとベヒーモスが死闘を繰り広げている。どちらが勝つかはラントですらわからない。


(ふむ、このくらいなら大丈夫か。だがアルとイル、トールなどに少し間引かせて置こう。俺が欲しい素材も多いしな。今のままならば少なくとも大氾濫には至らんだろう。それに北や南の街への氾濫の被害も中央に集まってくれたおかげで少なくなる、状況は悪くないな)


 魔物は樹海にいるのが当然だ。なにせ魔力が強い土地なのだから。居るだけで強くなれる。人族たちは魔力の薄い場所に陣取っているに過ぎない。それでも北方山脈から流れる水脈などから魔力を摂取している。

 そして樹海の樹木やそれに成る実は魔力も強い。草もそうだ。彼らも魔力の強い木の葉や実を好んで食べる。当然肉もだ。そして樹海から出てしまうと途端に土地の魔力が痩せる。

 強い魔物にとって樹海はパラダイスなのだ。何せ自分より弱い魔物の魔核を摂取すれば自身が強くなれる。それは魔物の本能と言うものだ。強い魔物ほど樹海から出るなど考えない。


(あのレベルなら深層から出ず、新たな縄張りを築くだろう。今は北や南の地脈の主の座が空いている。そちらに流れるだろう。あいつらが氾濫されては敵わん。祈るばかりだな)


 例えベヒーモスやブラックヴァイパーが争って居たとしても、東西に逃げる必要などない。北や南に逃げれば良い。それくらいの知性はある。

 当然エルフの集落には近づかない。近づけない。精霊樹は悠然と立っているだけで、魔物を遠ざける効果があるのだ。

 そうでなくては幾ら精強なエルフ族と言えど、自分たちを鍛える前に滅びてしまう。彼らは精霊樹を崇め、精霊樹の庇護の元に生きているのだ。


「リリアナ、おまえたちアールヴは森の異変に何も対処しないのか」

「そんな訳がなかろう。人為的であれ、偶然であれ、大樹海は定期的に荒れる。こればかりは魔物たちがどう動くかに掛かっている。そして我らアールヴはそれには関与しない。だが今回の事は数百年の間でも起きなかった大事件だ。エルフの戦士たちも鍛えた能力を使いたいだろう。多くの素材も取れる」

「そうか、肉の保存や素材を駄目にしないための魔道具がある。いるか?」

「ふむ、人族も随分と頑張ったようだ。今はそのようなものがあるのか。せっかくだし借り受けよう。それにしても人族もなかなかやるものだ。我らアールヴだとしても侮れん。負けることはないが、争えば死人が出るだろう。何せお前のような規格外がいるのだ。ラントと戦った男もアールヴの戦士と同等の力を有していた。アイツラと戦うのは我らでも死人を覚悟せねばならぬ。それほどの力を感じた。帝国と言うのはなかなかやるものだ。だがラントの策でそれらは粉砕された。我らアールヴの戦士は樹海奥地に蔓延る魔物たちを狩るだろう。何せ良い獲物であるし、戦士たちの実戦訓練にもなる。人族の悪さは多く伝承に残されているがこれほどの規模での森を穢した記録はない。それだけ北の人族の王も本気なのだろう。我らアールヴへの恩を忘れたとは言わせぬ。必ず報いを受けさせてやらねばならぬ。だがまずは大樹海の安寧が先だ。我らは人族の社会など知らぬ。現れただけで多くの人族が乱れることは知っている。それは我らアールヴも求める事ではない。何せラントやラントに伍する者が蠢動していたのだ。荒野の魔境も多くの強力な魔物が蔓延っている。奴らが荒野に逃げていたのは次の算段をする筈だったはずだ。そして我らアールヴはそれらに鈍い。人の策謀など力尽くでなんとかしてしまえば良いと考える若者が多い。しかしたった三千年で人族はあっと言う間に繁殖し、版図を広げた。更にラントやラントに匹敵する術師がいる。アールヴの戦士を倒してしまうほどの男がいるのだ。油断すべきではない。族長会議に掛け、我らも積極的に動くようにせねばならんな。たった三千年でこれほど人族が力をつけているとは他のアールヴたちは気付いてすらいないだろう」


 ラントはリリアナたちが参戦することに安堵した。これでラントの肩の荷が少しは降りる。流石に全てを一人で解決しようとすればラントですら重労働だ。死の危険すらある。神や精霊の試練に近しい物を感じた。二度と受けたいとは思わない。

 だがシヴァは寂しそうにしているので、他の上位精霊の試練もいずれ受けようと思う。ただ精霊がどこにいるかなどラントは知りはしない。シヴァとの出会いも偶然に近かった。


 ラントも自身の力を着々と蓄えている。工房では様々な魔法具を作っている。試練に関しても流石に前回ほど無謀な挑戦ではない。

 そして精霊の加護は絶大で、シヴァは国すら滅ぼせる恐ろしい精霊だ。幸いなのがシヴァはラントを気に入ってくれ、友好的なことだけだ。ラントの言う言葉には逆らわない。ただしラントを害すれば必ず天罰が下るであろう。間違いがない。


「ふむ、リリアナたちアールヴの戦士が借りられるのはありがたい。何せ森はオーガキングやアラクネクイーンなどだけではなく、多くの強力な魔物が発生している。どれも人族の手には余る。ブラックヴァーパーやベヒーモスなども気を抜いたら一瞬で殺される相手だ。公爵家の騎士団や第四騎士団でも危ういだろう。感謝するアールヴの姫よ。再度人族の手を取ってくれるのだ。これほど嬉しい事はない」


 リリアナはふんと鼻を鳴らしてラントに答える。


「ふん、我らは我らの規律で動く。間違っても人族の為に動くのではない。アールヴはアールヴの掟があり、それらがたまたまラントたちの目的に適っただけだ。次はない。むしろあれば人族の間引きを考えねば成らぬ」


 ラントは肩をすくめて返す。人族の間引きなどされては堪らない。人族は人口が多いことだけが取り柄なのだ。


「それは勘弁して欲しい所だな。人族にも良い所は沢山ある。だが数が多い。故に悪い奴らも出てくる。こればかりはどうしようもない。アールヴには数百年などあっという間だろうが、人族はすぐに死ぬのだ。平民など驚くほど簡単に死ぬぞ。何せ力がないからな。貴族や騎士団の庇護の元、なんとか生きているに過ぎぬ。伝説の邪竜などが出てはアーガス王国など即座に滅びるだろう。リリアナたちアールヴに人族が敵わないのと同様、強力な魔物に対抗する手段はない」

「だが人族は様々な道具を作り、魔術などという物を作り上げた。それは素直に称賛している。故に人族は既に独り立ちしており、アールヴたちは助ける気すらおきん。同胞で争ってもいる。次に絶滅しかかっても助けるとはわからんぞ」


 リリアナはそう断言した。ラントもそう思う。一度助けてくれただけで望外の幸運だったのだ。彼女たちの助力がなければ人族は間違いなく絶滅していただろう。

 ラントは過去のアールヴたちが手を貸してくれたことを精霊に感謝した。



 ◇ ◇



「なんじゃと!?」

「申し訳ありません。宰相閣下。敵に見つかり、超級魔法を上空から落とされました。更に私と同等の実力の敵がおり、首を落とすことができませんでした。多くの精鋭を失い、皇帝陛下に顔向けができません」


 帝国宰相、オイゲンはニコラウスの報告を聞いて目の玉が飛び出るかと思った。

 帝国の精鋭部隊の中でも特殊部隊であるパスカヴィルの猟犬五十名が十名ほどになり、しかも巨大な魔法石を使い捨てにする〈転移〉の魔法石を使い逃げ帰って来たと言うのだ。

 だが上空から広範囲殲滅魔法を撃たれては流石の猟犬たちも堪らない。半数以上がそれで数を減らされ、更に追撃が来たと言う。相手も数人討ち取ったが、敵は強力なグリフォンを操っており、更に姿の見えない凄腕の射手も居たと聞く。


(ふむ、ニコラウスたちでなければたとえ帝国騎士団や魔法士団でも全滅していたな。むしろよく逃げ帰ってきたと褒めねばならぬ。ニコラウスと同等のレベルの相手じゃと。ランツェリン・フォン・クレットガウ子爵がそれほどの男だとは流石に見抜けなんだ。くっ、アーガス王国は我らの策略に乱れている。そこを突ければと思ったのだがうまく行かぬものだな。これは戦略を練り直さねばならぬ。南の要塞もいつの間にか強化されたとの報告が入っている。隠し通路も何やら怪しい魔術陣と、死毒粘液魔が巣食っていたと聞いた。間者や暗殺者たちが帰らぬ訳じゃ。新しい隠し通路を作っても即座に発見されるであろう。これは厳しいな)


 オイゲンは思考しながらニコラウスにねぎらいの声を掛ける。責めても失われた者たちが帰るわけではない。そしてニコラウスの忠誠を離れさせる訳にもいかない。ここでニコラウスに当たっても良いことなど一つもないのだ。


「良い、陛下には儂から説明しておこう。ニコラウスよ、よくぞ無事で帰ってきた。お前を失えば帝国には大打撃じゃ。なにせ替えが居らぬ。お主ほどの勇者、何人帝国にいるかと言った所じゃ。まずはゆっくり休み、残りの猟犬たちの補充と訓練をしっかりせよ。お主たちの出番は必ずある。その際必ずランツェリン・フォン・クレットガウ子爵の首を取るのだ。わかったな」

「はっ、皇帝陛下の為にこの命を賭けてでもクレットガウ子爵の首を献上させて頂きます」

「良い返事じゃ。期待しておるぞ」


 ニコラウスが去るとオイゲンは執務室をウロウロとしていた。爪を噛む癖はないのに親指を口に入れ、ガリガリと爪を噛んでいる。

 パスカヴィルの猟犬は定員百名の精鋭たちだ。宮廷魔導士や近衛騎士にも成れる者たちで固めた精鋭中の精鋭だ。剣も魔法も使えなければなれないし、魔境の中を庭のように歩く能力も求められる。

 彼らならば六位階の魔物すら狩って見せるだろう。

 それらが四十名近く失われた。なんと言う損失だ。皇帝陛下には自分が報告すると言ったが、どう報告すれば良いのか。

 オイゲンはイライラしながら、高い調度品を拳に魔力を纏ってぶち壊した。それほど苛立っていたのだ。


「ひっ」


 それを見ていた文官とメイドが恐怖の目を向ける。

 だがオイゲンは彼らに気をかける余裕を持てなかった。


ep110を投稿し忘れていました。読みたい方はもう投稿したので読み返してやってください((。・ω・)。_ _))ペコリ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ