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112.樹海の様子とエリーの訓練

「ふむ、まだ初期段階ではこの程度か。しばらくはこの陣地で持ちこたえられるな」

「そうじゃな。クレットガウ卿が作ってくれた陣地のおかげじゃ。堅牢でまさに魔物を討つのに最適な陣地じゃ。じゃが当然陣地を抜ける魔物は多い。村や街には氾濫が起きると早馬や鳥を放たせた。どの村も街も警戒し、騎士団やハンターたちが対処するであろう」


 ラントたちは陣地に戻ってきた。

 やはり氾濫は初期だが起きているようで陣地には多くの浅い層の魔物たちの死体が転がり、騎士たちが血で汚れている。彼らは一休みしているのか治癒や洗浄などの魔法を使い、身を清めている。さらに魔物の死体は邪魔になるので壁の前に積み上げている。当然魔核は抜いてある。

 こうすることで大樹海から出てきた魔物は餌である死体に群がり、陣地に向かってくる。それを一網打尽にするのだ。


「第四騎士団、きちんと働いているかっ。陛下に顔向けできないような事はないだろうな」

「「「はっ」」」


 ヒューバートが第四騎士団に喝を入れている。ヴィクトールも魔導士や魔法士たちに声を掛けている。魔導士たちは煙管を使って魔力を回復させている。だがまだ氾濫は初期だ。怪我をした者は居ても死者は居ない。公爵騎士団も第四騎士団も魔物狩りのプロであり、精鋭だ。初期の氾濫など何ということはない。クラクフ市も安心であろう。


(ふむ、この程度ならいけるか。さすが第四騎士団と公爵騎士団だな。統率がしっかり取れている。氾濫の規模も想定していたよりも小さい。これなら他の街も大丈夫であろう)


 ラントは自身が築いた陣地が壊れていないことを再確認する。〈硬化〉の魔法もまだ掛かっている。だがそれもいずれ切れる。

 故に壁に〈硬化〉の魔術陣を描き、魔力持ちであれば硬化を維持できるようにしておいた。

 ちなみに魔核をきちんと処理すれば魔物の魔力でも魔力は補充できる。だが素の状態の魔核ではダメだ。乱雑な穢れた魔力が混じっていて、使い物にならない。錬金術や魔術で適正な処理をしないと魔核は使えるようにならないのだ。そして弱い魔物の魔核で処理された物は街で魔道具の魔力を補充する為に平民用に売られている。灯りの魔道具などに使われるのだ。高級な宿になると蝋燭ではなく、灯りの魔道具などが使われている。

 街も中心地になると街灯が設置されている。暗い場所は治安が悪くなるからだ。


「ガンツ」

「はっ」

「斥候隊を放つ。それの案内をしろ。どんな魔物が浅い層に来ているのか調べさせるのだ。大丈夫だ。騎士たちがガンツの身を守ってくれる。ザップのパーティなどとは比べ物にならないほど安定感だぞ。氾濫中の樹海の中でも普段の樹海を歩くより安心だ。故にそう肩ひじはらず、しっかりと役目を果たせ」

「畏まりました、クレットガウ子爵閣下」


 ガンツが跪いた。ラントは子爵家当主なのだ。それが平民のハンターには当然の行為だった。


「ヒューバート卿」

「はいっ」

「斥候隊にどんな魔物が氾濫仕掛けているのか調べさせろ。騎士と魔法士も何人かつけていけ。ガンツに案内させる。そうすればどのような魔物が攻めてくるのかわかる。公爵騎士団も第四騎士団も相手がわかれば対処は容易だ」

「氾濫中の大樹海の中に調べに行くのですか!?」

「氾濫と言ってもまだ初期段階だ。普段の樹海が少し乱れているのとかわらん。でくわすのは中層か深層の魔物の一部だ。深層の魔物すら屠る第四騎士団はその程度で臆するのか?」


 ラントが煽るとヒューバートは即座に首を振った。


「まさかっ。そんな者たちは第四騎士団にはおりません。入ることもできないでしょう」

「当然だ。天下の第四騎士団。その程度の任務易々と熟して貰わなければ困る。やれるな?」

「クレットガウ卿の下知のままに」


 ヒューバートまで跪く。確かに今回の指揮はラントだがヒューバートは騎士団長であり、実家の爵位も上だ。跪く必要はない。だが上位者に対しての最敬礼を示しているのだろう。故にラントは何も言わず、ヒューバートの態度を許容した。


「立ち上がれ、そして任務を果たせ。一人も欠けることなど許さんぞ。狼系や狐系は足が速い。故にもう迫っているかも知れぬ。狼系は群れを為す。気をつけることだ。樹海の中でダイヤウルフの群れなどに出くわせば怪我くらいは負うだろう。それは仕方がない。だが死者や四肢欠損はさせるな。それならば俺の魔法薬で治してやる。安心して部隊を出発させろ。人選は任せる。案内はこのガンツだ。わかったな」

「畏まりました。必ずその任務やり遂げて見せましょう、おい、大隊長と中隊長たちは集まれっ、すぐにだっ」


 ヒューバートが声を掛けると隊長たちがずらりと集まる。ヒューバートが説明し、人員を選び、五十名にも及ぶ第四騎士団の斥候部隊が結成された。大体十パーティくらいだ。これなら大丈夫であろう。ラントも彼らの実力を見定め、安心した。



 ◇ ◇



「こちらです。樹海の浅い層は大混乱でしたね。ですが中層はもう少し行かなければなりません」

「あぁ、浅い層は混乱が広がっていたな。氾濫の初期の樹海とはああいうものかと思ったものだ。常の任務は氾濫が起きた後で対処するからな」


 ガンツは今回の部隊を纏める中隊長に声を掛けた。彼も当然騎士であり、貴族の血を引いている。ラントは話しやすいが中隊長にはどう接して良いかわからない。故にガンツはできるだけ言葉を選び、更に沈黙を守りながら案内を続けた。


「あちらにダイヤウルフの群れがいますね。そのうち樹海を飛び出してくるでしょう」

「ダイヤウルフか、一体一体はそう強くはないが群れになると辛いな。五十、百と群れを為して群れの頭の号令の元に統率された攻撃を加えてくる。知恵のある魔物だ」

「あっちにはキラーフォックスも居ます。群れではなく番ですね。気が立っています。ダイヤウルフたちとは事を構えたくないのでしょう。かなり離れています。しかし相手にすればかなり手強い魔獣の一つです。足も速いので即座に樹海から出てくるでしょう」


 このようにガンツは道案内をしつつ氾濫で出てきそうな魔物の名前と数を克明に記憶しておく。騎士たちは羊皮紙に記録している。ハンターはそこまではしない。記憶力を磨けば記録と一切違わない。ギルドに戻って報告書に記載するときに思い出せば良いだけだ。当然騎士たちも同じことができるだろう。だが念には念を入れているだけだ。

 ガンツも氾濫中の樹海に潜るなどとは思っても見なかった。報酬が良い訳だ。どんなハンターも氾濫中は街を守ることに専念する。樹海に入るなど自殺行為だ。


 だが第四騎士団は近寄ってくる魔物は一瞬で始末する。怪我すらしない。ガンツたちのパーティではできない芸当だ。クラクフ市の上級ハンター全てを集めてもこれほどの腕前は持っていないだろう。

 流石魔物狩りに特化したと言われる騎士団だと思った。ハンターたちの上澄みでようやく足元に届くか届かないかと言う精鋭たちだ。彼らに守られているので、ラントの言う通り安心して混乱した樹海を歩くことができる。


「ガンツ、知っているか。俺たち第四騎士団は五パーティでクレットガウ子爵閣下に挑んだ。そして傷一つ負わすことすらできずに地に這った。そして次のパーティたちも地を這った。結局クレットガウ子爵閣下に土を舐めさせることもできなかったのだ」

「なんですって!?」


 ガンツは樹海の中だと言うのに声を上げてしまった。失態だ。だが中隊長が言った言葉は信じられなかった。いや、あのラントならあり得るか。そう思った。何せ氾濫の中心点、オーガたちとアラクネたちが争っている中に飛び込んでいくような御仁だ。何があってもおかしくはないと考えを改めた。


 ガンツたちは中層まで進み、どのような魔物がいるか調査をして、さっさと逃げ帰った。中層に居るはずのない脅威的な魔物たちがかなりひしめいていたからだ。位階で言うと第四位階から第五位階の魔物が樹海の中で争っていた。奥には第六位階の魔物の姿すら見えた。

 アレは流石の第四騎士団でも死人がでるらしい。死人を出す行為は禁止されている。故に数と特徴だけ記録して、ガンツは最速のルートを通って樹海を抜ける案内をした。



 ◇ ◇



「〈障壁〉」


 エリーは障壁の練習をしていた。一息で出せなければ意味がない。更に身体強化も掛ける。そうでなければ相手の魔法や剣が見えない。見えない物は防げない。そしてエリーが防がなければマリーが危険に晒されるのだ。最終的には本物の騎士や魔法士の剣や魔法も防げる様になりたいと思っている。

 エリーの魔力は有限だ。マリーよりも遥かに低い。だが男爵家の娘だ。そこらのハンターや傭兵に比べればそれなりに魔力はある。十発も剣や魔法を防げればマリーが逃げる時間は稼げる。もしくは最近攻撃魔法も覚えているマリーが詠唱する時間を稼ぐことができる。それで十分だ。


「まだまだね。修行が足らないわ。ラント様はほんの幼い頃にこれらをやっていたと聞いています。ですが今からでも遅くはありません。ラント様に追いつくことはできなくとも、マルグリットお嬢様の盾になるだけなら不可能ではないでしょう」


 エリーは魔法の掛かった盾も両手で構え、武器は腰に帯びた短剣だけだ。防御に特化するつもりで訓練を受けている。最初は盾を持つだけで体の芯がぶれたが、今は盾の重さなどは気にならない。


 だが剣で打ち据えられると後退り、体が弾かれてしまう。ぐっと踏ん張り、盾で防ぐか受け流すかしなければならないと騎士たちに指導されている。

 大型の凧型盾カイトシールドを借受け、魔法などは上空や味方の居ない方向に弾くように修練を積む。当然騎士や魔法士たちは手加減してくれている。それでも一瞬でも判断が遅れればカイトシールドごとエリーは地を転がり、弾き飛ばされる。

 エリーの顔や肌に傷がつく。だが気にしてはいられない。それに治癒士や魔法薬がある。この程度の傷は明日には治っている。


「ふぅ、今日も大変でした。ですが少しですが上達しましたね。毎日の積み重ねが大事です」


 それが終われば戦闘侍女たちの体術の訓練だ。歩法から視線の使い方、姿勢。投げ技や当て身などの訓練を行っている。侍女服に隠せる短剣や長針などの使い方も伝授されている。長針は二十セントメルほどの長さの黒い針だ。

 エリーは本気で戦闘侍女になるつもりなのだ。マリーに暗殺者が放たれた時、あっさりとやられてしまってはマリーの命に関わる。

 今みたいにラントが傍に居ないことがあるのだ。王都の貴族街でもラントは今公爵邸に三日に一回くらいしか居ない。

 子爵邸に行っていたり王宮に行っていたり、ランドバルト侯爵家に通っていたりする。ラントが居ない時はエリーが体を張ってマリーを守らなければならない。


 もちろん公爵邸にも騎士や魔法士たちが守っている。戦闘侍女もいる。ラントが強化した結界も張ってある。万全だ。

 だがそれでも帝国から刺客が放たれれば危うい。その時エリーの命はないだろう。だがマリーだけでも逃がすことができればエリーの望みは叶う。ならば其の為に努力することを怠ってはいけない。


「はっ」


 戦闘侍女の投げがエリーを地面に這わす。受け身も練習せねば息ができなくなる。戦闘侍女は受け身の練習ができる様に投げてくれている。受け身の取れない投げも存在するのだ。そういう投げは空中で体勢を入れ替えたりして躱さなければ首の骨が折れたり、追撃で死ぬと教わった。


「ぐはっ」

「まだまだ甘いですよ。この程度でやられていてはマルグリット様をお守りすることなど叶いません。即座に起き上がりなさい。追撃が来ますよ。頭にかかとを落とされて生きていられますか?」

「はいっ」


 投げ飛ばされたエリーは即座に起き上がる。すでに傷だらけだ。汗も酷い。しかしエリーは痛みも傷も気にしていなかった。マリーの為にやっているのだ。エリーは本気で自身を鍛えていた。


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