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110.戦いの後で

「ふぅ、手強かったな。世界は広い。流石パスカヴィルの猟犬の長だ。俺と同等の剣術、魔法を使うとはな。どれほど修練を積んだと言うのだ。それともアレが帝国の標準か? と、すれば王国同盟に勝ち目はないな」


 ラントは敵がいなくなると地面に座り込んだ。それほどの激戦だったのだ。

 他のメンバーも敵が去ったと知るとへたりこむ。

 ヒューバートとヴィクトール、ルートヴィヒは無事だがルートヴィヒの側近である騎士とヴィクトールが連れてきた魔導士が死んでしまった。

 貴重な騎士と魔法士だ。こんな戦いで失う予定などなかった。獄炎魔法でもう少し削れると思っていた。

 ラントが敵を甘くみたせいで彼らが死んだのだ。いや、むしろパスカヴィルの猟犬の強さを測れ、且つ減らせたのだ。この程度の損害で済んだのは僥倖と思うしかない。後悔はあるが彼らは国に仕える者たちだ。帝国の部隊を潰せるチャンスに戦わないなどと言う選択肢はなかった。


 死体は遺体ごと収納鞄に仕舞われている。遺族に報いねばならない。

 敵は強敵だった。今叩いて置かねばいつ叩けるかわからない。何せどこに潜んでいるのかもわからないのだ。リリアナの情報がなければ行方すら知れなかった。故にラントは危険を承知で飛び込んだのだ。


「クレットガウ卿、素晴らしい働き、褒美を遣わす。必ずや陛下に奏上し、伯爵号の授与を約束させようぞ。マルグリットも娶って良い。儂が許す。後はブロワ公爵を説得することじゃな」


 血塗れになっているルートヴィヒにラントは跪いた。


「ランベルト公爵閣下、有難き幸せ。敵は帝国の特殊部隊でした。あれほどの強敵、そうそう居る訳がありません。しばらくはアーガス王国も安泰でしょう。さて、後は森の大魔獣をなんとかせねばなりませんな。ですが一時休みましょう。皆も疲れています。公爵閣下も傷を負っているご様子。魔法薬で癒やさせて頂きます」


 ラントはルートヴィヒに魔法薬を与えようとしたが手で遮られた。

 ルートヴィヒのハルバードには血がこびりついている。手強い相手と戦ったのだろう。ルートヴィヒの体にも傷が幾筋も残っていた。


「良い、魔法薬くらい自前で持っておる。構わん。それとルートヴィヒと呼ぶことを許す。可愛い孫の惚れた男じゃ。儂の息子も同然よ、良いな」

「ではこちらもラントとお呼びください。ランツェリンやクレットガウは気取りすぎていて肩が凝ります」

「くくくっ、わかった。ラント卿。よく働いたな。一人で超級魔法を発動するなど目を疑ったぞ。これでハンスや先王陛下への土産話ができた。素晴らしい魔導剣士が居るとな。これで王国は安泰だ。お主がおれば帝国になど好きにはさせんと安心させることができる。それだけの武勲をあげたのじゃ。誇れ。跪かなくても良い。面をあげ、立ち上がって胸を張れ。あれだけの働き、誰が真似できようか。よくぞその年まで隠れ潜んでいた物よ。ガハハハハッ」

「ルートヴィヒ閣下、お戯れを。私は元はしがないハンターにしか過ぎませぬ。マルグリット様を娶る為、必死になっているだけでございます。しかし公爵閣下のお眼鏡に適った様子。嬉しく存じます」


 ラントは言われた通り立ち上がり、魔法薬を使い自身の傷を癒やした。そして同じく傷ついているヴィクトールやヒューバートたちも癒やしていく。


「助かります、クレットガウ卿。あれほどの敵が何十人も潜んでいたとは寒気がしますね。クレットガウ卿が相手にしていた奴は別格でした。私など即座に首を飛ばされていたでしょう」

「あぁ、アレには俺も敵わん。クレットガウ卿でしか相手はできないだろう。部下たちですら最低でも大隊長や副長クラスはあった。強敵であったな」


 ヴィクトールやヒューバートもラントの戦いを見ていたようだった。ちなみに相手の副長はアルが相手していた。イルは二人ほど噛み殺したようだ。

 そして今回の主役はリリアナだ。〈隠者のローブ〉によって隠れ潜み、丁寧に敵を処理していった。こちらの被害が少ないのはリリアナのおかげだ。


「ラントよ、なかなかの動きであったな。しかし敵もさる者よ。お主に匹敵するとは人族も侮れぬ。私の矢も完璧なタイミングで放ったと言うのに避けられた。あ奴は私とすら伍するだろう。たった数十年の年月でその高みに昇るとは恐ろしいものだ。アールヴたちも気を抜けば即絶滅しよう。なにせ我らは数が少ないからな。子もなかなか生まれん。あ奴らは我らを敵にまわしても良いと思って森を荒らしたのだ。許せぬことよ。だがラントが天誅を下した。すっきりした思いだ。首魁たちは逃したがもう二度と樹海で蠢動などさせぬ。魔力は覚えたからな、樹海に入ってくれば即アールヴの戦士たちで首を刈り取ってくれよう」

「あぁ、リリアナ。援護助かった。俺も危ない所だった。アレほどの魔法剣士、そうそう居るものではない。流石魔導に秀でた帝国の勇者だ。おれもうかうかしていられん。首と胴が離れたら幾ら寿命があっても同じだ。あのタイミングで殺せなかったことだけが唯一の心残りだな」


 リリアナは〈隠者のローブ〉をラントに返しながらそう宣言した。実際リリアナは五人を屠っている。ヒューバートやヴィクトールが生きているのもリリアナのおかげが多いだろう。実際相手の方が数は多かったのだ。特にヴィクトールは初の対人戦だろう。初戦でアレはきつすぎる。首が繋がっていて幸いだ。


 最初に〈獄炎〉で数を減らして置いて本当に良かった。そうでなければラントですら切り札を幾つも切らなければならなかっただろう。それはすなわち王国どころかアールヴの戦士や聖国にも狙われるかも知れない。冗談ではない。

 アーガス王国から逃げ出し、本当に帝国に行くか獣人や竜人の国に逃げ出す嵌めになったかも知れない。当然マリーを攫ってだ。だがマリーやエリー以外にもアーガス王国には情を交わした友たちがいる。


 ウルリヒやコルネリウスは気持ちの良い奴らだ。ルートヴィヒやハンス、アドルフは良い老人だ。ヴィクトールやヒューバートは話が合う。他にも公爵邸の執事や侍女、使用人たち。旧伯爵邸でラントが雇った者たち。残す者が多すぎる。今更アーガス王国を逃げ出すなど考えたくもない。

 ラントはとりあえず脅威が去ったことを確認し、ゆっくりと息を吐いた。当面の脅威は取り払われたのだ。まずはそれを喜ばねばならない。



 ◇ ◇



(なんという実力だ。文字通り桁が違う。ザップめ、こんな化け物に喧嘩を売るとは正気か? 剣だけで済んで本当に良かった。全員無礼討ちであるとして即座に首にされていてもおかしくなかった。クレットガウ子爵閣下に感謝だな。寛大にもザップの言葉に腹を立てず、穏便に済ませてくれた。これも自分の実力に自信があるからだろう。朝起きて雀がピーチクパーチク鳴いていたとしてもわざわざ殺そうとは思わないのと一緒だ。俺たちなどクレットガウ子爵閣下にとっては朝の鳥の声とさして変わらんのだ。その朝の気分に寄って不快になるか、心地よく寝覚めたか、そのくらいの差でしかない)


 ガンツはこの目で見たものが信じられなかった。

 公爵閣下に拝謁できるなど思っても見なかったし、ヒューバートは第四騎士団の団長だと言う。ヴィクトールはローブの色の通り宮廷魔導士で将来を嘱望されていると言う。なぜそんな奴らに自分が混じっているのか、場違い感が半端ない。ただの二級ハンターでしかないのだ。どこかの貴族の落とし胤ではあるが、貴族ですらない。


(あの実力。五級ハンターだとっ。ハッ、うまく隠したものだ。森に潜り、こっそりと誰も取れない薬草や魔物を間引いていたのだろう。クレットガウ子爵閣下が居たハンターギルドは大変だろうな。何せ裏で幾度もギルドを救っていたはずだ。クレットガウ子爵閣下がそう意図しなくてもだ)


 そしてラントだ。救国の英雄の名に恥じないどころではない。彼なら必ず国すらも救うだろうと確信させるほどの魔導の腕、そして剣技。ガンツにはラントとニコラウスの戦いなど影しか見えなかった。

 仮にも一級ハンターパーティの斥候だ。〈身体強化〉にも目には自信がある。

 だがその自信は打ち砕かれた。ザップたちなど雑魚にしか見えないのは当然だろう。小さな川に潜む魔魚が海の巨大な魔魚の存在を知らないのと同じだ。世界は広いと思った。

 何せ現職の騎士団長や宮廷魔導士が敬意を表しているのだ。公爵閣下ですら同等に話している。たかが子爵にだ。それほどの実力を示した。大樹海の大氾濫を未然に防いだのだ。あんなのは誰にもできない。ラントだけだろう。


(あの方に逆らおうとするなどザップは無謀を通り越して阿呆だな。だが胸を貸して頂けただけ有り難いと思わねばならんな)


 実際オーガキングとアラクネクイーンの戦いに飛び込み、彼らの戦いを収束させた。

 オーガキングとアラクネクイーンなどザップたちですら見かけたら即逃げ出し、ギルマスに報告し、公爵閣下に騎士団を出して貰う案件だ。公爵騎士団ですら殲滅しようとはせずに、樹海から出てこないように祈るだけだろう。それをたった一人で殲滅してしまうなど考えられない。

 更に今回の戦いで恐ろしい使い手である敵と真っ向から戦い、ガンツでは人生を賭けても届きもしない高みを見せられた。


 エルフの姫もだ。森でエルフに出会えば即跪けとハンターでも傭兵でも叩き込まれている。だがラントは堂々と交渉してみせた。そしてエルフの姫にも認められ、仲良さそうに話している。信じられない光景がいくつも一気にやってきたのだ。ガンツの信じる常識とは何だったのかと思わせるほどのショックだった。


(ははっ、一級ハンターパーティなどと調子に乗っていたがまだまだだな。俺も精進せねばなるまい。クレットガウ子爵のようには成れぬが俺はまだ強くなれる。少なくとも東部では最強の斥候として名を馳せているのだ。これを北部、南部、西部にまで響かせるくらいはできよう)


「ガンツ、お前よく生きていたな。やるじゃぁないか」


 そのクレットガウ子爵が声を掛けてくる。幾重にも傷があるが魔法薬で治っている。どれほど高級な魔法薬を使っているのか、既に傷は塞がっている。ガンツは逃げ回っていただけだ。相手の実力を見抜き、剣を合わせてはいけないと気配を消してじっとしていた。


「これはクレットガウ子爵閣下。せっかく雇って頂いたと言うのにあまりお役に立てなくて申し訳ありません」

「構わん。リリアナという予定外の異分子が現れたんだ。本当はもっと働かせるつもりだった。だがきちんと報酬は払うぞ。魔剣くらい何本でも買える報酬を払ってやろう。お前の情報はきちんと役立った。誇れ。クラクフ市で最も有能な斥候なのだろう。動きも良かった。あの敵の攻撃を掻い潜るなどそうそうできるものではない」


 ガンツはラントが近づいてきたことで怯えた。本能的に半歩後ずさった。しかしラントは気にせずに話してくる。


「いえいえ、強敵でした。私など逃げ惑うことしかできませんでした」

「それでも逃げ切った。生き残れば勝ちだ。そういう相手だ。そして生き残った。故に誇れ。あいつらは帝国の精鋭部隊だ。本来なら剣すら打ち合わせもできずに斬り捨てられる強敵だ。それを凌いだのだ。それで十分だ。それ以上など求めておらぬ」

「はっ」


 ガンツは驚いた。ラントはあの戦いを行いながらガンツにも目を配っていたのだ。そしてラントに認められたことにガンツは涙しそうになった。嬉しかった。斥候でありながら二級ハンターに成ったことよりも、自分たちの歌が吟遊詩人に謳われたことよりも嬉しかった。


「はっ、有難き幸せ」


 自然と跪いていた。オーラが違う。ただの成り上がりではない。為るべきしてなった強者のオーラだ

 ガンツは一生で一度もこれほどの強者と出会ったことはない。世界は広い。そのラントにさえ伍する武人が帝国には居るのだ。そして帝国は使い手すらほとんどいない転移の魔法ですら宝玉に籠める魔導技術を開発していることが公になった。アーガス王国では考えられないことだろう。


 ガンツは心に誓った。ザップたちと最強のハンターとなろう。ザップもラントに叩きのめされ、少しは高い鼻も折れた事だろう。今回の戦いの事も話そう。

 そうすればラントに絡むなど無謀の極みでしかなかったと実感するだろう。そして再出発すれば良いのだ。ザップは才能がある。努力もできる。まだまだ伸びる余地はある。ラントとまでは言わずとも王国に名を馳せるハンターには成れる。そう信じていた。


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