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100.陣地の構築とヒューバートの思惑

「さて、面倒なことはさっさと終わらせるに限る。〈召喚サモン・オウル〉」


 ラントの呼び出しに応え、従魔の一種、三体の闇梟のオウルが現れる。そしてすぐさまラントの意を汲んで大樹海に飛び立った。


「ほう、闇梟か、強さはほどほどだが隠密技能に優れていると聞く。偵察には持って来いだな」

「あぁ、こいつらに樹海の中の偵察をさせる。本当は斥候隊を放つつもりだったんだがな、リリアナが現れたことで俺が余計に仕事をしなければならなくなった」


 ラントがこぼすとリリアナは笑った。


「くくくっ、すまんな。我らアールヴが現れるなど人族には予想はできなかったであろう。だが我らに会えたのだ。その姫の姿を拝めたのだ。望外の幸運と思うが良い」

「あぁ、俺は幸せだ。アールヴの姫君であるリリアナに出逢えたことを精霊様に感謝しよう」

「ふふっ、ラントよ、お主わかっておるな。我らアールヴの機嫌を損ねぬ言葉遣いを知り尽くし、更に精霊語まで操る。お主何者だ」


 ラントは嫌な顔をして答えた。


「師のジジイに三ヶ月で覚えろと叩き込まれたんだ。他にドワーフ語や獣人語、竜人語、鬼人語もわかるぞ。すべて三ヶ月で覚えないと魔法で焼かれた。地獄だったぞ」

「ほう、他の言葉も操るか。なかなかの賢者が人族にもいるものだ。会ってみたいものだな」


 リリアナはジジイに興味を示したようだ。


「クソみたいなジジイだ。アールヴへの敬意など欠片もない。会えば闘争に発展するだろう。そして俺より強いぞ。リリアナですら敵わんかも知れん。やめておけ」

『くくくっ、余計興味が湧いたぞ。ラントを育てた師だろう。頭のネジが数本外れていなければラントのような男は生まれん。ラントはアールヴから見ても規格外だ。僅か二十五で精霊様の加護を頂くなどアールヴでもそうそうおらん。稀に生まれる天才児の名を欲しいままにする者だけの特権だ。私も天才と呼ばれているが父や兄が過保護でな、精霊様の試練を受けさせて貰えんのだ』

『リリアナならば突破できるだろう。それだけの実力はある。後はいつやるかだけだ。勝手にやれば良いだろう』


 リリアナは笑う。一応気を使って最後だけ精霊語で話してくれた。公爵閣下やヴィクトール、ヒューバート、ガンツなどには伝わっていない。

 ラントは精霊使いであることは隠しているのだ。そしてそれはリリアナも理解している。案外話の通じる姫君だとラントは思った。


「公爵閣下、陣をこの場所に移して頂けませんか。私はヒューバートと一緒に第四騎士団と連れてきた魔導士たちを移動させます。公爵騎士団は公爵閣下にしか動かせません。宜しくお願いいたします」

「相わかった。では儂は騎士団たちに号令を出してくるとしよう」

「宜しくお願いします。ヒューバート、ヴィクトール、ガンツ。俺達も移動するぞ。第四騎士団たちに号令を出さねばならん」

「わかった、早速行こう」


 ラントはヒューバートたちを連れて陣地に移動した。少し遅れてリリアナが付いてきている。本当にラントがどうするか見守るつもりなのだろう。邪魔さえしなければ問題ない。だが騎士団たちはリリアナの姿に怯えるだろう。

 しかし精強と知られた第四騎士団だ。ヒューバートが号令を掛けると即座に整列し、陣地の移動の準備を始めた。魔導士たちも同じだ。ヴィクトールの言うことを聞いてテキパキと動いている。

 大体西北に三キラメルほど移動することになる。本日中に終わるだろう。


「さて、陣地を先に作って置くか。下草を刈って防衛に有利な陣地を作らなくてはな。氾濫などいつ起こるか予想がつかん。仕方がない、本来なら騎士団の仕事だが俺がやる方が早い」


 ラントはヒューバートたちを連れて予定の陣地に移動した。


「〈風刃〉〈整地〉」


 ラントは風刃で下草を排除し、整地で土地を均す。これで陣地の構築は容易になるだろう。


「〈土壁〉〈硬化〉」


 三重詠唱で土壁を作る。高さは五メル、厚さは二メル。後ろ側には階段もついていて、前面には盛り上がった土の分だけ堀がついている。それが三つ。距離を置いて一キラメルほどの長さで作られた。


「なんと、あっと言う間に陣地ができてしまったではないか」

「これほどの魔法、一息でしてしまうとは。通常は魔導士が何十人も掛けて行う事ですよ」


 ヒューバートとヴィクトールが驚き、声を発する。ガンツは声もでないようだ。せっかく大枚を叩いて雇ったのだ。ガンツもこき使いたいがオウルたちを斥候に放ってしまった。ラントはオウルたちすら見せる気はなかった。ガンツや第四騎士団の斥候隊をこき使おうと思っていたのだ。

 故に正直ガンツの仕事はほとんどない。だがまぁそれも仕方がない。リリアナの登場はそれほどの予定外ではあったが、友好的であったのでエルフたちの戦士の力も借りられるかもしれないのだ。それは一騎士団を借り受けるよりも余程頼りになる。もちろんエルフたちの力を借りなくてもなんとかするつもりではいる。


 ガンツにもせっかくだからラントの実力を見せつけてやろう。そしてクラクフ市のハンターギルドにラントの名は彼の言葉から鳴り響く。

 一級ハンターたちを叩きのめしたのだ。十分わかっているだろうが、次は逆らう気すら起きなくなるだろう。ハンターたちは大事な戦力だ。最終的にクラクフ市での防衛戦になる。その際にはハンターたちも招集されるだろう。緊急依頼と言うやつだ。


「公爵閣下に先に依頼を出して貰うことにするか。ハンターたちの仕事を奪うと言ったが氾濫が確実な今、彼らにはよく働いて貰わねば成らぬ。大量の魔物の素材が手に入るだろう。功もだ。死にさえしなければ級が上がることだろう。ザップの剣をへし折ったのは少しやりすぎたか?」


 後悔は先に立たない。折った剣も戻らない。

 だがザップたち一級ハンターなら資金力があるだろう。魔剣の一振りや二振り程度買えないはずがない。クラクフ市にはドワーフの工房もあるし、懇意にしている工房もあるだろう。ザップも新しい剣を新調しているはずだ。ドワーフ製の魔剣だった。真の魔剣ではないが良い魔剣であった。いいお値段がするのをラントは知っている。だが一級なのだ。買えぬ筈はない。

 ラントに圧倒的に負けたからと言って宿に引きこもるような軟弱な奴は一級までは駆け上がれない。四級や三級が精々だ。それに他の一級や二級、三級も居るだろう。ザップだけが戦力ではない。ラントは気にしないことにした。



 ◇ ◇



「凄まじいものだな。第四騎士団が一週間掛けて作り上げるだろう陣地を一瞬で作ってしまった」


 ヒューバートがこぼすとヴィクトールも頷いた。


「魔導士たちですら三日は掛かります。見習い魔法士たちも動員してですよ。クレットガウ卿の非常識さはよく知っていたつもりですが、つもりだったようです。これほどの魔導の極致、私は一生掛けて辿り着けるでしょうか。ハンス閣下にならいつか追いつこうと思えます。しかしクレットガウ卿はどうでしょう。一生魔導に人生を捧げても届かないかも知れません」

「宮廷魔導士の次代の俊英と呼ばれるヴィクトール卿すらそう言うか。クレットガウ卿の実力は底知れんな」


 ヒューバートはヴィクトールの感想を受けてぶるりと震えた。ラントが敵に居たら第四騎士団はあっと言う間に蹴散らされてしまうだろう。

 実際ラントが第四騎士団に最初に来た時は酷かった。連携がなっていない。修行が足らない。それで国の騎士団を名乗れるのか。そこらのハンターにすら負けているぞと煽られた。

 そして当然切れた。第四騎士団は相応のプライドを持っている。そこらのハンターに負けるような奴は騎士団に入れない。強大な魔物すら騎士団の連携で倒した実績すらある。それがただの騎士爵にバカにされたのだ。切れない筈がない。


 だが結果は燦々たる物だった。ラント一人に二十を超える第四騎士団が叩きのめされたのだ。斥候の短剣は届かず、ハルバードや長槍は奪われ、大盾はぐしゃりと潰され、地に這っていた。魔法士は素早く接近され、当て身で詠唱すらままならない。剣士など素手で剣を捌かれて居た。

 一級ハンターとの戦いを見ていたがさもありなんと言う結果だった。ヒューバートはラントがたかが一級のハンターに負けるなど露ほども心配していなかった。何せハンターであれば一級に即座になれる者たちが多くいる第四騎士団を叩きのめしたのだ。


 普段鍛えている連携など「甘い」「隙だらけだ」「どうしてそう動く。そこは右に動け、ちゃんと考えろ」「魔物は痛いからなどと言って倒れていても斟酌してくれんぞ」などと怒鳴られ、しごかれたのだ。

 後にそれは第一騎士団長であるウルリヒが他の騎士団も鍛え直してやってくれとラントに頼んだからだと言うことが判明した。

 そしてラントはあらかた叩きのめした後、どういう風に連携を取るのが正解なのか、どのように訓練をすれば良いのかを書面にしたため、ヒューバートの元へ送ってきた。完璧な書面だった。これを取り入れれば第四騎士団は更に強くなるだろうと確信した。


 強大な魔物と戦っても死者やけが人が減るに違いないと思った。更にラントは話してみるとヒューバートと気が合う。旧来の親友のように話が弾んだ。故にヒューバートはラントと仲良くし、更に尊敬している。彼の傍で活躍を見られるだけで英雄譚の登場人物に成れるのだ。

 ヒューバートも子供の頃、英雄譚に憧れた物だ。英雄には成れなくとも英雄に侍ることはできる。添え物でも良い。後々英雄譚で語られるであろうその一節を担うことができる。それだけでもヒューバート自身がついてきた甲斐が有ったというものだ。

 ラントの歌が歌われる時、ヒューバートの名も同行した者として歌われるだろう。それを考えただけで心が踊った。


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