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7 偽装婚約の契約②

 私を騙すつもりなのだろうが、舐めてもらっては困る。


 彼が堂々と種明かしをする前に、すでにネタバレしているのだから。

 レオナールの罠に引っかかるほどチョロくない。


 それを突きつけられた彼は、相当ショックな様子で肩を落とす。


「というわけで、今日のパーティーは行かなくてもいいわよね。レオナールが一人で『エイプリルフールの嘘で~す』と公表したらいいでしょう」


 横では「男心を分かっていないな」と、兄がブツブツと文句を言っているが、乙女心を毛ほども分かっていない兄に言われたくない台詞だ。


「おい! お前はさっきから文句ばっかり言ってないで、さっさと俺と一緒に来い!」


「どこに?」


「今日のパーティーの主役は、俺とお前だからな」


「えっ、えっ! ちょっと本気で言っているの⁉」


「当たり前だろう。今日は俺の婚約者を発表だと、世間に触れているんだからな」

 半ば強引に彼から腕を組まれ、──まさかの強制連行である……。


 ◇◇◇


「ほらっ、乗るんだ!」

 と強引なレオナールに馬車へ押し込められた。


「もう、いい加減に手を離してよね。変なことをしたら訴えてやるんだから」


「おおおお俺がお前なんかに、ななな何をするっていうんだよ! 絶対にないからな! 気持ち悪いことを言うな」


「あぁ~そう。気持ち悪くて結構! それは良かったわ! だったらさっさと手を離しなさいよ。ったく触らないで」


「お前なぁ~、今日のパーティーの意味が分かっているのか?」


「だから、王太子殿下から罰ゲームでもさせられているんでしょう」


「そんなわけあるか! どこの阿呆が余興で婚約を発表するんだ!」


「じゃあ、何だっていうのよ。まさか、本当に私と婚約する気なんてないでしょう。私は絶対に嫌だからね」

 挑発的な口調で告げる。


「あ、あ、あ当たり前だ! 誰がお前なんかと結婚するんだよ。俺の名前に汚点が付くだろう! 馬鹿っ」


「あっそう。悪かったわね、汚い点で!」


 それを聞いたレオナールが、私からすっと視線を外すと閉じたカーテンを見たまま、肩を丸めて沈黙する。


 ようやっとこちらを向いたかと思えば、生気を失ったような彼は、異常なほど暗い顔をしている。


「まあお前みたいに、俺に興味のない令嬢が一番適任だったんだ」


「何に?」


「俺の行く先々、次から次へと現れるとんでもない令嬢に、もううんざりなんだ」


「だからって何よ! モテない私への自慢かしら?」


 顔色を一段と悪くする彼が、ボソッと言った。


「俺の婚約者のふりをしてくれ」


「無理よ。そんな面倒なのは絶対に嫌だから」


「頼むっ! 俺をつけ狙う令嬢たちの罠が年々巧妙になってきて、このままでは身が持たない」


「そんなこと……私に関係ないでしょう」


「今日のパーティーで、俺には婚約者ができたことを社交界全体に拡散したいんだ!」


「レオナールは良くても、私がレオナールの婚約者のふりなんかして、婚約解消されたら……お嫁にいく先が見つからないじゃない」


「それは大丈夫だ。お前が結婚できるまで……俺がちゃんと責任をとるから」


 必死に拝んでくる彼は、随分と真面目な口調で発した。


「そうねぇ~」と言いながら、今一度考えるが答えはすぐにでた。



「やっぱりデメリットしかないわね」


「そう言うなら、メリットを与えてやろう」


「は? 何よ、偉そうに」


「俺が、お前の結婚持参金と結婚式の費用を全て用意してやる。相手が誰であろうと、お前の理想の結婚式に金を使えるし、結婚持参金は、お前の言い値で構わない。どうだ!」


 なんと! この婚約者のふりに付き合えば、報奨金が付くようだ。


 しかも言い値とは相当な太っ腹だ!

 貧乏子爵家の痛い所を衝いてくるレオナールだが、渡りに船である。


「その話に乗ったわ! 私が結婚できるまで、ちゃんと責任とってよね、約束よ」


「もちろん」

 と言った彼が、悪い顔で笑う。

 今ここに、互いの利害関係が一致した、『一日だけの偽りの婚約』が成立した。

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