表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/36

5 犬猿の幼馴染の婚約発表⑤【SIDEレオナール】

 プロポーズなんて、壁が厚すぎるし高すぎる。到底、突破できるとは思えない。


「エメリーの前に行けば、うまく言えないんだ」


「それなら、宰相に頼めばいいだろう。いくらエメリーヌ嬢だって、レオナールの父から婚約の申し出を受ければ、断れないでしょう」


「いや、エメリーのことだけは、人の手を借りたくないんだ。そんなことをしても、初夜で取り返しのつかない大失敗を犯す気がするから」


「くくっ、やりそう」


「二度と関係修復ができなくなる前に、何としても自分自身で彼女に想いを伝えたいから」


「こうなったら『結婚する』って、新聞で言えばいいだろう。それから彼女の元へ迎えに行けば、いくらレオナールがエメリーヌ嬢に余計なことを言っても結婚してくれるって」


「それは本当だろうな!」


「まあ、大丈夫だろう。他の令嬢と話すときみたいに、レオナールが普通にしていれば悩む問題でもないんだけど。どうしてエメリーヌ嬢にはできないんだろうな」


「エメリーが、可愛いのが悪い」


「ははっ、これでは当分無理だな。まあ失敗してもレオナールと結婚したい令嬢なんて山のようにいるし、当たって砕けろ」

 その言葉に、すでに心が折れてしまい肩を落とす。


「そんな言い方をするなよ。万が一にも砕けたら……。立ち直れる気がしない」


「レオナールはどうして、エメリーヌ嬢のことになると駄目男になるんだろうな。それ以外は完璧なのに。農民への意識改革で、今年の農作物の収穫量は軒並み上昇しているのを陛下が高く評価していたぞ。レオナールが普通に接すれば、エメリーヌ嬢だって、すぐに惚れるだろう」


 ウスターシュは、げらげらと笑っているが、うまくできたら煩わしい日々を何年も過ごしていない。


 最後の優良物件と呼ばれているが、事実はただの売れ残りだ。

 俺がエメリーに想いを伝えられないまま月日が過ぎ去ったせいで、最後までパートナーが定まらず、残っているだけにすぎない。


 俺の心の中では、とっくにエメリーに売約済みなのだが。


 心から愛する女性にはうまく向き合えないにもかかわらず、どうでもいい令嬢たちから、執拗なまでにつけ狙われ、もはや身の危険さえ感じる。



「新聞か……。試してみる価値はあるな」


「一つだけアドバイスをしてやろうか?」


「聞きたくない」


「そう言われても、レオナールなら変な啖呵をきって撃沈しそうだから見ていられない」


「言うな……。本当にそうなる気がしているんだから、変な予言をするなよ」


「エメリーヌ嬢がレオナールの婚約者だと、世間に広めるまではへまをするな」


「あのなぁ……。俺はいつだって、へまをするつもりは毛頭ない。エメリーへ、真剣に全力で当たった結果が、全戦全敗でいつも大喧嘩だ」


「それなら少しは学習しろよ」


「学習も深い反省も毎回しているさ。だけど、エメリーの前で緊張した俺が、彼女の気を引く方法を変えると、そのたびに、余計おかしくなっていくんだよ」


 そう言うと、気の毒なもを見るような目を向けられた。


「いいか。エメリーヌ嬢に素直になれないレオナールは、目標を一つに絞れ。無理に好かれようとするな」


「他人事だと思って悲しいことを言うなよ。俺はエメリーから愛されたい」


「それは後から考えろ。とにかくエメリーヌ嬢をレオナールの婚約者にするんだよ。『婚約者のふりを頼む』でもいいから、適当な理由で社交界中に二人の関係を公表すれば、あとは何とかなる。第一段階はそれだ」


「何とかなるって言ってもな……」


「一度世間に広げてしまえば、婚約破棄をしなければいいんだ。婚約の解消は、子爵家の彼女から公爵家へ言い出せないだろう。いくらレオナールでも、『婚約解消する!』と、啖呵は切らないでしょう」


 ウスターシュは、いつにも増してあくどい王子スマイルを見せた。

 なるほどなと頷く。

 エメリーを目の前にすると、悪い意味で別人に変わる俺だが、この作戦はいける。


 そうして俺は、以前から決まっていた我が家主催のパーティーで、自分の婚約者を披露する準備を始めた。


 ◇◇◇

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ