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31 顔が赤いのはドレスのせい?②

 眠っているレオナールをしばらく見ているのだが、私の視線にも気づかずに、随分と気持ち良さげだ。


 彼ってば、こんな無防備な姿を私に晒して大丈夫なのかしらと、胸がざわざわしてしまう。


 以前の彼であれば、私の横で眠るなんて絶対にしなかったはずだ。


 令嬢たちから常々つけ狙われるレオナールが、外で気を抜くなんてあり得ないもの。


 今日も、優しい笑顔をずっと見せてくれていたけど、少しだけ彼の目が充血していた。


 彼は、私と会う時間を作るために相当無理をしているのだろう。


 そんな風に考えていると、舞台そっちのけで、レオナールを魅入ってしまう。


 令嬢から熱い視線を一身に集めるレオナールを、独占観賞しているんだもの。


 こうして見ていると、思わずうっとりする令嬢の気持ちは、分からないでもない。


 綺麗な肌に高い鼻。薄い唇が色っぽく、さらさらとした金髪に触れたい誘惑に駆られてしまう。


 今の彼なら撫でても怒らないだろうと考え、触れるか触れないかの寸前の所まで手を伸ばし、冷静になってやめた。


 安心しきって眠っている彼に触れてしまえば、起こしてしまうだろう。

 そうなるくらいなら、このまま静かに彼を見ていたい気がする。


 ──しばらくレオナールを見つめていたはずだが、不安げに「エメリー」と呼ぶ声が、見ていた夢に重なる。

 二回目は、先ほどより少し大きく聞こえた。


「エメリー」

 という声に反応して目を開くと、私を覗き込むように見ているレオナールの姿があった。


「あれ?」

「……良かった、目が覚めた」


「レオナール……。ん? あれ、どうして会場が明るいのかしら?」


「もうとっくに演劇は終わっているからね。それでも起きないから、エメリーの目が覚めないんじゃないかと心配になった」


 それを聞いて、思わずのけ反った。


 演劇から興味を失ったのは間違いないのだが、寝るつもりはなかったし、彼と二人して眠ってしまっては、何をしにきたのか訳が分からない。


「ごめんなさい。せっかく招待してくれたのに、寝てしまって……」


「いや、俺も眠ってしまったから、エメリーのことは言えない」


「ふふっ、私たちったら、デートの場所選びを間違えたかしら」


「どうかな~。俺としては、エメリーの近くが心地よくて癒やされたから、観劇に来て良かったけどね」

 やけにすっきりとした表情の彼が言う。


 彼への返答に戸惑う私は、周囲を見回し、閉館時間の迫る劇場に長居するわけにもいかないだろうと空気を読むことにした。


「とりあえず会場から出ましょうか」


 そうすれば、「そうだな」と言った彼に手を取られ、馬車へと向かった。


 二人きりの馬車の中でも、彼が手を繋いだまま離さないため、自然と距離が近い。


 絶対に好きになるはずないと思っていたのに、胸がドキドキと煩い。


 こうなってしまえば、いつもどんな顔をしていたかわからなくなり、どうも表情が定まらない。


「あ~あ、今日のデートも、あっという間に終わってしまったな。またしばらくエメリーに会えないのか」


「ふふっ、しばらくって言っても、たったの一週間でしょう。次はどこに行こうかしら?」


 露骨に寂しがる彼を見て、元気付けようと自分から誘ってしまった。


 そんなことを言う自分にハッとしたが、彼は気に留めることなく話を続けた。


「次はオペラでも行こうか?」

「ふふっ、それは同意し兼ねるわね」


「どうしてだ?」


「演劇の声を子守歌代わりにできる私たちなら、オペラに行けば、一瞬で爆睡するわよ」


「確かにな……」


「寝る気はなかったのに、今日の主役がピンクのドレスの女優だったということくらいしか、覚えていないわ」


「ん? 今日の主役は黄色のドレスの女優だけど」


「え~、レオナールも観ていないのに、どうして言い切るのよ」


「最後のカーテンコールで中央にいたのは、その女優だったからな」


「そう言われてしまうと、自信がないわね」


「帰りの馬車の中で、舞台の感想を言い合うのを楽しみにしていたのに、エメリーがこれでは無理だな」


「何よ。レオナールなんて、すぐに寝ていたじゃない」


「舞台よりもエメリーを見ている方が、有意義だからな。エメリーの横顔を見ていたはずなんだが、気づいたら拍手が鳴っていたんだ」


「私も眠っているレオナールを見ていたと思っていたら、起こされたわ」


「そんなに俺の顔が気になったのか?」


 嬉しそうに照れ笑いする彼に、「そうよ」と言うのは少しばかり釈然とせず、そのままそっとしておく。


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