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拝啓、ハッピーエンド

作者: 何某

「そうだ。死んじゃおう。」


 そう。死んでしまえばいいのだ。そう思った。


「将来に対する唯、ぼんやりした不安」とかではない。

 もちろん将来に対して不安がないわけではないけれど。

 それはおまけに過ぎない。


 強いて理由をつけるとすれば、私はハッピーエンドが好きなのだ。


 このまま、大人になり、就職して毎日たくさん働いて、くたくたになるより、

 おばあちゃんになって、身体が動かくなっていくことを日に日に感じながら生きていくより、

 最高潮の状態で「みんなありがとう!」ってステージから降りたい。

 それって1番のハッピーエンドじゃない?


 今まで辛いことはたくさんあった。

 けど、それ以上に楽しいこともたくさんあった。

 家族で遊園地に行ったこと。そしてその帰りには外食をしたこと。

 志望校に合格して家族や先生にとても褒めてもらったこと。

 学校で友達と遅くまでくだらない話しをして、先生に叱られたこと。

 推しの周年記念ライブに行けたこと。

 これはチケットの当選倍率がすごく高かったのに奇跡的に当選して、

 夜も眠れないほど興奮した出来事でした。


 だから、どうか、かなしまないでください。

 私の人生はそれなりに楽しかったのです。


 それでも、最高の自分を保ったまま、

 最高の思い出だらけのまま終わるためには「今」しかないのです。


 これ以上、咲き誇った花が散る前に、私の肉体が衰える前に、私の人生に悲しい思い出が増える前に、



 もちろん、人生でやり残したことがなかったわけではありません。

 大学に行って大学生としての生活をしてみたかった。

 学校の近くにある面白そうな雰囲気の雑貨屋さんにも行ってみたかった。

 まだ、行ってみたいところもたくさんある。


 恋愛っていうものもしてみたかった。

 ずっと興味はあったけれど、なかなか一歩が踏み出せずにいた。その一歩を踏み出してみたかった。

 そして、彼氏に「愛される」という経験もしてみたかった。

 きっととても満たされて、楽しいんだろうな。

 小さな事で一喜一憂して、すごく充実した毎日になったんだろうな。


 お母さん、お父さんごめんなさい。

 2人のことを最後まで見送ることができないし、親孝行らしいことも、全然できなかった。



 ……ちゃん、……っち、……ちゃんノリ悪くてごめん。

 また来年、一緒に花火大会に行こうねって話してたのに。

 ごめんけど、次は私の分まで楽しんできてね。


 ……くん。

 私のこの想いは墓場まで持っていきたいと思います。

 ただ、最後に伝えさせてください。私の前に現れてくれてありがとう。

 貴方は私の人生の幸運な出来事のひとつでした。



 どうかみなさまお元気で。

 置いていってしまってごめんなさい。

 私は先にいってしまうけれど、みなさまはゆっくりきてください。

 大丈夫。怖くはありません。


 そしてどうか、そんなことはないと思うけれど、

 もし、仮にみなさまが私のことに悪い意味で囚われてしまったとすれば、それは私の本意ではありません。

 その時は私のことなんか綺麗さっぱり忘れるくらいに、充実した毎日を送って、それぞれの人生をめいっぱい楽しんでください。


          ーーそれではみなさまさようなら!また会いましょう。




こうして彼女は舞台を去った。

カーテンコールはもう来ない。


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