第四話 二つに一つ
「重大な事?…地球を護る事じゃないのか?」
そう聞くと、ラルは少しうつむいた。
何から話せば迷っているといった表情…というのだろうか。
「…そこから発展する話だけど、護る為には‘攻める’事が必要なの」
俺が少し怪訝そうにしていると、ラルは俺の顔を見ずに言った。
「惑星ベルガモットの‘魔王’の狙いは‘今は地球だけ’みたいなの」
「敵の進行が‘地球だけ’と限られているのなら…何をすべきかは‘二つ’あるの」
俺はまだ話を理解できず、頭を掻きむしられたような感じがしていた。
俺が続けてと言うと、ラルは少し間をあけてから話し出した。
「一つは‘惑星ベルガモットを壊滅する’。勿論、容易な事ではないわ」
「もう一つは‘惑星ベルガモットからの進行を阻止することだけをする’…今の方法だけどね。これじゃラチがあかないわ」
つまりラルは、ブレイブハンターとして地球を護る為に来ている。
しかしその方針には今は反対。といったところか。
「惑星ベルガモットを滅ぼせる事が全宇宙にとって‘一番の平和’になる…けど」
けど、とまで言っておいてラルはかなりの間をあけた。
「惑星ベルガモットの戦力は強大だから…今まで誰一人止める事ができなかった」
‘滅ぼす事なんてとてもできない’と言っているように聞こえた。
…想像してみた。
‘地球が支配されたらどうなるのか’を。
奴隷のような扱いをうけるのだろう、それこそ最も酷い扱いを…。
このまま黙っている訳にはいかないが、俺は無力だ。
そんな想いにふけっていると、ラルは話を進めた。
「止めないといけないの、なんとしても。だから…知ってしまった‘唯一の地球人’としてあなたにも力をかしてほしい」
その言葉に俺は驚愕した。
俺には何もできないというのに…。
‘知ってしまった’からなのか?
裕也はまだこの話を知らないから、おそらく…俺だけしかしらないのだろう。
「地球は平和よ。地球ほど自然に溢れている惑星は他にないわ」
「自然が多いということは、それだけ‘魔力が溢れている’ということなの。それに触れて生活している地球人なら絶対に誰しも‘能力’があるはず」
俺の返答を待っているのか、ラルはそこで話を終えた。
…まとめるとだ。
ラルは俺に‘惑星ベルガモットを滅ぼす’事を手伝えと言っているんだ。
勿論他のブレイブハンターもいるだろうが、戦力不足なのだろう。それは話からも察せた。
俺は‘それを手伝う’のか‘現実を直視せず、逃げるのか’の二択を迫られている。
…人は一人でも多いほうがいい。おそらくは兵法の常識だろう。
手伝うとしたら、下手すれば死ぬだろう。
しかし、手伝わないでのほほんと過ごして‘逃げる’のは嫌だ。
なら‘やってみせる’。それが俺の…‘今の答え’だ。
「…無理に戦えとは言わない、ソラの思う通りでいいから――」
決意を決めたと同時にその言葉が聞こえた。
即答だ。
「俺は逃げたくないから!」
そう言うと、ラルは微笑み、手を差し伸べてくれた。
今日から決まった。
俺の役目は…‘地球を護る’為に戦うことだ。
必ず護ってみせる。
家族を、友を。…自然の溢れる地球を、明るい未来を。
俺はその時知らなかった。
いや…知ろうともしていなかった。
俺には戦うほどの力はなく、力をつけるためには何が必要なのかを。