第三話 魔法吸収
俺は恐怖と驚きのあまり、声はおろか全身が震えあがった。
「…お前!さっぎは…よぐも!!」
野獣はゆうに2mを超えている、俺を見下し歯を噛みしめていた。
「殺じてやりでーが…俺が殺るべき相手はごいつだ…」
野獣はそう言ってラルのほうを見た、俺は腰がすくんでしまった。
野獣は全身を震えあがらせ、大きく口を開いた。
「お前……捕獲する…」
野獣の口からみるみると微かな光が放出され、丸まった玉になった。
その玉を野獣は右手で持ち、軽くほほ笑んだ。
「そんなに圧縮した光の玉をどうする気?」
野獣はほくそ笑みこう言った。
「これ…放づど、広がって爆発する…半径100mは吹き飛ぶ!…俺には効がない゛!!」
すると驚いた事に、ラルは微笑した。
「…何笑っでる!お前…!終わりだ!!」
「だって、馬鹿正直に何をするか言ってくれるかなんて思わないじゃない?」
ラルはそう言って、白刀・雪月花を自身の頭よりも高く翳した。
「おもしろいじゃない、やってみなさいよ」
野獣は完全にきれたようで、光の玉をすぐさまラルに向かって投げつけた。
ラルに向かうにつれ、その玉はみるみる大きくなり、光でたちまち何も見えなくなった。
「うわっ!」
眩しさのあまりとっさに手で自分の目を覆った。
どうなったのかはわからないが、不思議と爆発音が聞こえる事もなかった。
しばらくして俺が見た景色は、何の変化もない、ただ光の玉が消えただけのようだった。
「…なぜだ!玉……消えだ!」
野獣が慌てふためいている姿を見て、光の玉は消え去ったと分かった。
「…さっき私と戦った時に、私の能力に気付かなかったのね」
ラルは目を閉じ、悠長に話し出した。
「私の能力は‘光と炎を扱う事ができる’…そして同系統の技の魔力を吸収する事ができるの」
つまりはドレインと言ったところか。
ラルは‘相手の魔力でつくった光の玉を吸収した’ということだ。
おそらく白刀・雪月花の能力でもあるのだろう、刀は輝いていた…光を吸収したかのように。
「魔法吸収…そんな高度な術を使える訳がねぇ゛!!」
野獣は目が血眼になっていた。
それほど珍しい能力…光と炎の技を吸収する事ができるというのはその系統の相手には無敵なのだろう。
「…私以外にこの能力が使える人は見たことがないわ」
ラルはそう言い、雪月花を逆手に持った。
刀は光のように輝き、ラルの黄色の髪と混じるようだった。
「私は‘それ’ができるから、今ここに居る事ができているのよ」
野獣の目の色が恐怖に変わったようだった。
まるで何かに脅えるかのように…。
「‘野獣’デキムス…もう逃げ場はないわ。お終いよ」
その言葉と同時に眩い光がはしった。
俺はとっさに頭を抱えて倒れこんだ。
「――-光燕・特式陽の型!」
衝撃がはしった。
大地に、空中に…勿論全身にも。
俺は震えながらも目をあけた。
…予想通りと言っていいほどの光景が目に入った。
‘家はおろかその周辺までもがほぼ完全に吹き飛んでいた’からだ。
「…最後の力をふりしぼって逃げたみたい」
ラルはそれから少し間をあけて
「流石に壊しすぎたわね…修復するわ」
その言葉に俺は驚きを隠せず、目が点になった。
「少しの魔力でなんでもなおすことができるの。…人間もね」
ラルはそう言って右手を天空に翳し、スッと息を吸い込んだ。
「リバース・ヴァース」
するとみるみる家や大地がなおっていった。
まるでCG映像が次々とつくられていくかのように。
「建造物や地面がなおせるのはまだ…その、わかるけど。人間をなおせるって――-?」
そう聞くとラルは微かに微笑み言った。
「人も…‘モノ’と一緒、人の中にある魔力を使ってなおすの」
俺はあまりその言葉を理解できなかった。
「…そうね。一生分の魔力は決まっているの。その魔力をその人が使い果たす前に死んだのならなおせるのよ」
…俺は頭の中でその言葉を繰り返し、少し理解できた。
「死ぬ前の記憶ってのは…覚えたままなのか?」
「死ぬ数分前の事は忘れてしまうの――-だから今の出来事はこの辺の住民にはまったく知られていないわ」
その言葉を聞いて少し安心した。
…それは死因をしれない。そう言っているのと同じだ。
人間にとってはそれが…少なくとも俺にとっては気が楽になる。
「とりあえず…色々な事件があったから、おそらく今の件だけを警察で重視して調べられる事もないだろうから。きっと問題はないわ」
ラルはそう言って俺の家の2階の階段をのぼっていった。
その時気付いた事は、うちの家族は誰も家にいなかったことだ。
わざわざハシゴで2階にのぼる必要はなかったようだ。
自室へ入ると、ラルは真剣な顔をした。
「私がここへ来た本来の目的は…地球を護るため。それは言ったよね?」
真面目な話をするんだと理解した俺は、黙って頷いた。
「…その地球を壊す為に動く組織もあれば、私たちのように護る為に動く組織もある」
「それをソラは知ってしまっている。地球の人には本来…知られちゃダメなんだけどね」
ラルは少し間をあけて、溜め息をついてから続きを話した。
「ソラは‘知ってしまった’故にもう全宇宙での‘問題’と無関係ではなくなったの」
「…これからソラに重大な事を話すから、しっかりと受けとめてね」
これも、ある意味‘全ての始まり’だったのかもしれない。