第64話 地下決戦
「DBT第三回戦、1対3の開幕だな」
今回は俺とスフィア、そしてセレナの三人でソファにもたれながら、ダンジョンの全景を眺めている。
セレナには控えるように言ったが、「私も姉様と一緒にいたいのです!」と涙目で懇願されて今に至る。
まあ、そんなことはどうでもいい。俺は慈悲深い男だからな。
直径10km、横幅1m、ボス部屋以外は、高さも1一mのミニマムダンジョン。ここを三人のダンマスがどう攻略してくるかは見ものではある。
俺たちのダンジョンはというと、前回よりさらに数を増やした偵察部隊を送り込んでいる。そう、ぷにまる率いるスライム隊だ。その数なんと、33体。
今回はチームを三組に分けて各ダンジョンに潜入させた。まるで社畜の出張部隊のようだが。
内訳は、インビジブルスライムが30匹と、スフィアにつくってもらった、新たなアルティメットスライムを2体加えた、計3体。
さらに俺が何よりも重要視する名付け。
ぷにまるを名付けたスフィアが他の候補として考えていた、バディムやオメデタイムもなかなかよかったが、俺のネーミングセンスには足元にも及ばない。
新しく誕生した二匹には、こう名付けた。
――ぷにお、ぷにこ、と。
こいつらに名付けをした時、全身を歓喜に震わせながら言ってたな。「ッ……!?」と。
そう、感動のあまり声にならなかったのだ。
自分で言うのもなんだが、俺のセンスは時として生命を進化させる。
そんなことを考えているうちに、敵は第二トラップ――爆裂エリアへ突入。
敵モンスターが綺麗に一列に並び、奥へ奥へと突撃する。まるで行列ができる人気店。だが前回の戦いで証明された、シンプル・イズ・ザ・ベスト。爆裂系エレメンタルが連鎖的に自爆していき、通路は一瞬で炎と爆音のカーニバルと化す。
だが、敵も進化していた。
炎に包まれても、なお突破してくる水属性のモンスターたち。ウンディーネ、フロストウルフ、そして氷蛇グラキエス。どれもA級クラスだ。
「水で炎を制すってやつだな」
とはいえ、俺のトラップエリアはまだ序章。
たかが爆裂エリアを突破したからとはいえ、俺が仕掛けたトラップエリアはまだまだこんなものではない。
「プラン、第三エリアの起動を頼む」
《承知しました。第三地点にて溶岩流の循環を開始しました》
「これで通路を塞ぐ防衛線は完璧だな」
敵が入口から1kmの地点に進めば、天井、壁、床底から溶岩が噴出する。灼熱の溶岩が正面から押し寄せる。逃げ場のない敵は一瞬で消滅していく。
「ま、いかに炎耐性があっても、あの溶岩の前では太刀打ちできまい。あーはっはっは!」
軽く魔王ムーブを決める俺、イケてるじゃないか。
「さすが、ダイチ様です!」
「な、なんか見てて敵に同情してきます……」
敵は行列ができる以上、引き返すことはできない。
これこそが横幅1mですれ違いも回避も不可能なミニマムにした理由だ。
ほとんどのモンスターが中腰で進み、進軍も遅くなる。罠ながらナイスアイディーアだ。
《マスター、敵勢力は第三エリアで65%の消滅を確認。しかし後続は変わらず、今回もモンスタースポットから生み出されるモンスターと推定します》
「了解。このまま待っていてもキリがないし、そろそろ攻めるとするか」
俺は顎に手を当て、ソファに深くもたれた。
今回の相手は三組合同――つまり、ダンジョンマスターが三人。
勝利条件は、三名のマスター、もしくはコアをすべて破壊すること。
一つずつ攻略していては、時間がかかりすぎる。
それに、ぷにまるたちの情報によると、敵のダンジョン構造は、なかなかに面倒くさそう。
水属性ダンジョン。
霧と流水による視界妨害、そして再生トラップが多数仕掛けられた防御型のダンジョン。内部は常に濃霧に包まれ、進行方向を失わせる上、足元の水流が侵入者の動きを奪う。
さらに、この霧はただの水蒸気ではなく、幻影を見せる。中に踏み込んだ者は、自分の仲間やかつて倒した敵の幻影に惑わされるそうだ。
戦わずして消耗させる、少し俺と似た思想のマスターかも。
続いて、雷属性ダンジョン。
金属床と導電壁で構成された高電圧トラップ地帯。
壁面には稲妻が走り、通路を歩くだけでも放電の危険がある。配置モンスターは、雷を自在に操るサンダーバードや、
雷を帯びた鋼鉄の翼を持つボルトレイヴンなど。
攻撃範囲が広く、一瞬でも動きを止めれば天から雷が降り注ぐギミック付き。感電死は免れない設計。
最後に火属性ダンジョン。
灼熱のマグマが回廊を流れ、空気そのものが焼け焦げるような攻撃特化型ダンジョン。
狭く、入り組んだ通路の下にはボコボコと噴き出るマグマの噴流。足場さえも一定間隔で崩落する、まさに火属性といえるダンジョン。
生息するモンスターも地獄の番犬と名高いケルベロスや、高熱の結晶を纏うマグマリザードなど。
火炎の奔流、爆裂の衝撃波、燃焼による酸素欠乏。
あらゆる条件が侵入者の生存を拒むために設計されている。
こうして確認してみると、三つのダンジョンは「防御の水」「制御の雷」「破壊の火」といった所。
「……となると、だ」
俺はふと口角を上げる。
スフィアとセレナが不安そうにこちらを見る。
「どうすれば複数のダンジョンを同時に、さらに手っ取り早く攻略できるか」
俺の脳裏で、ある非常識な作戦が形を成し始めていた。




