第63話 王国軍地上決戦
「――来たな」
地平線に広がる黒い波。
およそ十万の王国軍が、砂煙を巻き上げながらこちらへ向かっている。その中には、メルセスや赤バンたちの姿も見える。
《マスター、敵軍との距離およそ1km。人族と獣人族合わせて90,086名、人族に扮する魔族10,024名が戦闘態勢に入りました》
「了解。それじゃ、予定通り進めてくれ」
《承知しました》
プランとの念話を切ると、整然と陣を敷いた群勢が戦闘体制に入った。
――だが、王国軍の大半はすでに俺の住民だ。
スキル、<忠誠共有>。住民の<信>の忠誠を他の住民へと連鎖させる。それはつまり、住民の全員が俺の信者になるということ。
王国軍の人間たちは、すでに領地に足を踏み入れた時点で俺に忠誠を誓う住民。進軍を始めたと聞いた時にすでにあいつらは俺の味方だ。
ついでに魔族の中にもスフィアやセレナのように心優しい奴もいると思ったが、何者かに生み出された存在と聞かされ、従わせることはできなかった。
「さてと、後は芝居をしてもらうだけだな」
俺はコアルームのゴシックベッドに寝そべりながらつぶやいた。
ちなみに、俺がここにいる理由は至ってシンプル。
あのふざけた【お知らせ】のせいだ。
地上では王国を陰で支配する魔族との戦争が勃発し、地下のダンジョンでは三組のダンマスとの戦闘に巻き込まれることになった。
このタイミングからして、間違いなくDBTの糞運営の仕業だと確信している。
「ふう」と息を吐きながら、俺はディスプレイに表示された戦況を確認する。
そこに映ったのは、人族たちが魔族の将に進言をする姿。
『ヌーロ閣下、まず我ら騎馬隊と歩兵に突撃の許可を! あの程度の防衛線など我らで突破してご覧に入れます!』
『ふっ、よかろう。せいぜい先陣を切って武功を上げよ』
『はっ、感謝いたします!』
その瞬間、王国軍の号令が響く。
およそ九万の兵が一斉に動き出した。
荒野を駆け抜け、突撃の咆哮が天を震わせる。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉッッッ!!!』
地鳴りのような足音。
だが、それは敵の行進ではなく味方の帰還だ。
突撃してくる者を迎えるのは、城壁の上で待ち構える、ルナリス率いるエルフたち。
両軍がぶつかる直前、合図を合わせたかのように、両者は武器を収めた。
《マスター、人族82,356名と獣人族7,730名を陣営に迎え入れたと断定します》
「予定通り【事前に念話共有で突撃する振りをして街に入って来い大作戦】は成功だな。これで九万人を無傷で救えただけなく、敵は魔族一万になったわけだ」
「これぞ無血開城ならぬ無血迎城といった所だな」
後は気になるのが、魔族の中にいる十三魔将と呼ばれる猛者たち。プランによれば、竜人族の王に匹敵する力を持つらしい。中にはそれ以上のやつもいると。
映像を見る限り、一際豪華な甲冑を身にまとい、後続に控えているやつらだと思う。そのうちの一人は俺が宇宙へ飛ばした、クラン・ベレトとかいうやつ。
ただ引っかかるのが、十三魔将と呼ばれるからには13名いるはず。俺が一人消して残り12名。一人足りない。
(戦場に参戦していないだけか? まあ気にしても仕方ないか。悪い芽は摘んでおくことに限る。プラン、次の作戦に移ってくれ)
《承知しました》
プランが返答すると同時に地面が大きく揺れる。事前に仕掛けた無数の転移魔法陣が、光と共に魔族を呑み込んでいく。
強制転移からの毒沼の底行きが決定した前線の魔族たち。毒沼には定番のウイルスをたっぷりと投入してある。さらにモンスター召喚リストにいた、サンダーイール(D級)を進化の魔石で進化。
結果、強力な雷撃を放つ、エレクトロヴォルトイール(S級)というモンスターを複数体泳がせてある。
この電気うなぎモンスターは雷で自身を守っているため、状態異常は無効。つまり毒沼もなんのそので泳ぐことができるため、今や毒沼ではなく雷毒菌沼になっている。
最初はシキ神様の最終兵器も投げ入れようと思ったが、さすがに食べ物を粗末にすることはできなかった。
まあ、何はともあれ、魔族共は瞬殺に限る。
見たところ、魔族の軍勢は混乱に陥っているようだし、我ながらイケイケの作戦で自分に惚れてしまいそうになる。
『なぜだ!? なぜ人間どもは敵を攻撃しないのだ!』
『アスモダイ様、突撃した人間共が敵の陣地に入って行きます』
『何だと!? ま、待て! まさか奴ら、始めから裏切っていたとでもいうのか? おのれ……人間如きが許さんぞッ! ヴァレファルよ、全ての魔将に攻撃命令を出せッ!』
『はっ!』
その言葉を最後に、アスモダイとヴァレファルたち魔将たちの身体は光に包まれ、雷毒菌沼に呑まれて蒸発した。
「悪いが、もう遅いんだ。戦いってのは始まる前に終わらせるのが一番効率的なんだよ」
「さすがダイチ様です♡」
「ダイチ様って何者なんですか!? すごすぎて意味が分かりませんでした……!」
「まあ、俺のKPとスフィアのDPがあってできる合体技みたいなものだな」
「まさに私とダイチ様の夜の戯れと同じですね♡」
「姉様、夜の戯れとはどういうものなんですか?」
「それはですね、セレナ。私の中にダイチ様のある部位をズッコンバッコン…」「おい、スフィア!? なんて話をしてるんだよ! そもそも俺は何もしてねえし、妹にそんな話をするんじゃねえっ!!」
《マスター。スフィアとイチャラブのところ申し訳ございませんが、敵勢力の壊滅を確認したと断定します。しかしながら敵は地上だけではありません。すでにダンジョン内に侵入しています》
「……そ、それじゃ、今度は――」
俺はディスプレイからダンジョンウインドウに切り替えると、マップ上に赤い光点が次々と現れた。
「次は、地下の戦の開幕だ!」
「ダイチ様、姉様とズッコンバッコンとはどう…」「セレナもうるせえっ!」
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