第60話 毒霧ダンジョンの攻略法
本日、二話連続投稿です。
猛毒の霧で霞んでいた視界が、急に開けた。
そこは広大な円形状のホール。
天井は、おそらく20mはある。
黒い岩壁で囲われ、紫色の毒霧が辺り一面に立ち込めて視界を奪う。地面には、無数の毒沼が点在している。
「いかにも体に毒なボス部屋だな」
リルの背中から下りると、靴底が「ジュ〜ッ」と音を立てる。地面に触れるだけでも、装備はおろか、肉体までも溶解するほどの猛毒。侵入者の足止めと、装備の耐久度を削る狙いだろう。
ここのダンジョンマスターは、少しは考えているようだが、俺の革靴やスーツは溶けないどころか、ダメージを受けることもない。ただ……顔にかかった場合は、皮膚がただれてしまうかもしれない。
そう思い、あらかじめダンジョンに突撃する前に、すでに装備しているものがある。
すごい鼻栓:鼻を完全ガードする、すごい鼻栓。
効果:不壊・不匂・清潔
すごいゴーグル:目を完全ガードする、すごいゴーグル。
効果:不壊・不入・清潔
イケメン君たちに使用した、シキ神式最終兵器。
その巻き添えから避けるために使ったものだが、今さらながら、置いといてよかったと思う。
何より、俺には毒もダメージも受けないが、臭いは分かるからな。
このダンジョンを見た瞬間に分かった。あそこは絶対に酸っぱい匂いがすると。
そのため、今の俺は、右手に聖剣、左手に折り畳み傘、スーツと革靴。そして鼻栓とゴーグルという最高の姿をしている。
どうやら俺には、装備を見極める選定眼だけでなく、ファッションセンスまで限界突破してたとは、我ながら天才すぎて怖い。
そういえば前世でも言われたことがあったな。
「あれ、切開先輩。またネクタイ変えたんっすね。そ、その、な、何というか……ネクタイ、お、お洒落っすね……」と。
この勇姿を皆に見せられないのが、唯一の欠点だな。
《マスター、私もかっこいいと断定します》
『しゅじん、かっこよいぞワン」
『ぼくは、にんげんわからないけど、かっこいいぷに♪』
ここに見てくれている者たちがいた。
俺は、もうそれだけで幸せ者だ。
「それじゃ、とっとと終わらせるか」
ゆっくりと歩き始めると、中央の巨大な毒沼から、「ボコボコッ」と泡が立ち上ると、ボスモンスターが現れた。
「ギィシャアアアアアアアアアアアアアァァァァァァッッッ!!!」
毒沼が跳ねる中、紫色の甲殻に覆われた巨大なサソリ型モンスターが、全身を震わせながら凄まじい奇声をあげた。
背中には至るところに棘が生え、尾の先からは絶え間なく、毒が滴り落ちている。尾の毒が地面に落ちるたび、「ジュ〜ッ」と音を立てて煙を上げる。
《マスター、あのモンスターはS級のヴェノムスコーピオンと断定します》
「ただの禍々しい巨大毒サソリだな」
大抵のゲームでは、猛毒のスコーピオンは苦戦必至の強敵。毒耐性がなければ、戦闘開始から十秒で全滅する、そんな当たり前の設定が多かった。
まあ、俺たちにとっては、ブルースライム程度の脅威でしかない。
つまりは無害ということだ。
「ワオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォンンンンッッッ!!」
ヴェノムスコーピオンが姿を現すと同時に、リルが、<神獣の咆哮>を放つ。その効果は相手を萎縮させ、行動不能にするだけでなく、自身の全ステータスが一時的に倍増する、謎のぶっ壊れスキルだ。
隣で遠吠えをした、リルの姿が消えたかと思うと、ヴェノムスコーピオンに、<究極噛み砕き>を浴びせていた。
「まさに秒殺とは、このことだな」
「ぷに〜♪」
俺と一緒にただ観戦していた、ぷにまるは、『ぼくがいるひつようなかったぷに……』と、体の形状が少しゲル状になっているところを見ると、へこんでいるようだ。
確かに、ボスの一撃ぐらいは、せめて見たかったところではある。おそらく尾で大量の毒針を放ち、両爪で挟み込んで、尾で追撃。そんな感じだと思うが、こうも一瞬だと、あまりに呆気なさすぎて、達成感も何も感じない。まあ、とっとと終わらせるかと言ったのは、俺だけど。
「さてと、ドロップアイテムはと……尾の毒針か」
《マスター、猛毒の毒針ですが、武器に加工する素材と断定します》
「なるほどな。まあ一応もらっておくか」
ボスを倒すと、辺りの毒霧がゆっくりと晴れていく。紫に霞んでいた視界が一気に明るくなり、中央の毒沼も澄んだ水へと変わっていく。
水面が淡く光り始め、帰還魔法陣が現れると同時に、奥から悲鳴が響き渡った。
「きゃあああああぁぁっっ!!」
悲鳴が聞こえた先にいたのは、紫のローブを纏い、フードを深く被った、 ダンジョンマスター。
あからさまに高い少女の声。
敵対的な気配はないが、確かな魔力を感じる。
「お前がダンジョンマスターだな」
宣言通りに挨拶をする俺。
こういう漫画みたいなシーンを、一度やってみたかったんだよな。
「…………」
俺の問いに何も答えない。
まあ、そりゃそうだけど、シカトはなかなかに堪えるものがある。
「何も答えたくないなら、別に俺は構わないが……さて、どうする? 我と戦って死ぬか、コアを破壊されるか、どちらか選ぶがよい」
なかなかに魔王ムーブをかました俺。
このアニメみたいなシーンも一度やってみたかった。やってみたいリストを一度に二つもできるとは、今日はなんていい日なんだ。
それにしても……長い。何この沈黙。俺の問いに答えないし、ピクリとも動かない。さっきの悲鳴は間違いなく、女の子の声だし、俺には<言語理解>もあるから、言葉は伝わっているはず。
「…………」
さすがに、ここまで黙られると、俺が悪いことをしているみたいに感じるんだが。まあ実際、そうかもしれないが、スフィアの命が懸かってるんだ。
今さらそんなことは言ってられない。
「聞こえてるのか? 俺は別にどっちでも構わないぞ」
そう言いながら、一歩前に出る。
「……っ! ま、待ってください……」
か細い声が、ボス部屋に響いた。
小さく震える両手で、ローブの裾をぎゅっと握っている。
「待つって、何をだ?」
「た、戦いたく……ない、です……。こ、殺さないでください……」
涙交じりの声。フードの奥に見えた、紫の瞳は、怯えと必死さが入り混じり、どう見ても悪いやつには見えなかった。
《マスター、この少女は虚偽の発言をしていないと断定します》
なんだ、ちょっと拍子抜けだな。
俺が予想してた、「お〜ほっほっほっ! 敵は皆殺しにしなさい。泣いて謝っても許してあげませんよ〜! お〜ほっほっほっ!」と、自信満々ツンデレ悪役令嬢ダンジョンマスターかと思っていたが、フードを脱ぐと、完全に命乞いモード全開のコミュ症少女に見える。
紫の瞳と頭のツノと尻尾。腰まで伸びた紫の髪を後ろで束ねた、どことなくスフィアに似ている美少女魔族。
でも実は近寄ったところで、毒のナイフで「ブスッ」と、一撃。みたいなことも想定してはいたが、今のが本音というなら、そのパターンでもないということか。
まだまだ時間はあるし、せめて事情だけでも聞いてやるか。他のダンジョンマスターとも、話はしたかったし。
「殺されたくないのは、こっちも同じことだが、開幕と同時に攻めて来たのは、お前の…」「わ、わたし、こんなダンジョン……か、勝手につくらされただけで……ど、毒も、モンスターも、全部指示されたんです……」
《マスター、先と同じく、嘘をついている様子はないと断定します》
なるほど。ということは、スフィアと似たようなパターンかもな。ま、詳しく聞けばいいだけだ。
「それで、その指示してたやつってのは、どこにいるんだ?」
「あ、あの……えっと……」
少女は何度も、「えっと」、「その」と、繰り返すばかりだ。完全にコミュ症の極地かと思ったが、実は話してしまうと、何かの呪いで死んでしまうパターンかもしれないと思い、率直に聞いてみる。
「そいつの正体を話せば、お前が何かの呪いで死ぬとでもいうのか?」
「はっ、はい……! その通りです……。あの、でも、怖くて……」
涙をぽろぽろと溢しながら、言葉を絞り出している姿を見て、俺の考えは一変した。
「お前は悪者ではなさそうだし、俺が助けてやる」
「へ……?」
「だから俺が助けてやる。その代わり、後で話してもらうが、いいな?」
「え……は、はい! その、で、ですが、どうやって……?」
「簡単なことだ。俺たちのダンジョンに来れば、それですべて解決する」
「俺たちの……? ダンジョンですか……?」
そう、この少女を、俺たちのダンジョンに侵入させてやれば、その時点で領民にできる。
スフィアのダンジョンは、俺の領地。言わずもがな、スフィアのものは、俺のものとやらだ。
「そういうことで、早速……と思ったが、その前に、お前の名前を教えてくれ。俺は切開大地だ」
「は、はい! わ、私の名は――・・」
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