第36話 偵察隊
「金貨十枚だと!? おっさん、ふざけるのも大概にしろよ。こんなボロ舟で騙し取ろうとは、そうはいかねえぞ」
「お客さんは見たところ、住民ではないので割引くことはできんのですよ。四名様で金貨十枚、嫌なら歩いていけばよろしい」
「んだと、こら…」「よせ、フォルクス。僕たちはS級冒険者なんだぞ」
「そうよ、それに金貨十枚ぐらいなら私たちなら安いものよ」
「なら、ルーシェ。お前が払うとでも言うのか?」
「あら、女に払わせるつもりなの? ねえオペル?」
「そ、そうっすね。割り勘でいいんじゃないすか?」
「みんな、僕が払うよ」
「さっすが〜メルセス」
「毎度あり〜。それではどうぞご乗船ください」
◇
「そろそろ戻るとするか」
俺は早速、魔導バイクで拠点をツーリングしている。この魔導バイクは思った以上にスピードが出せるだけでなく、時速二百kmでも、そよ風のように気持ちがいい。振動も伝わらないし、恐怖を感じることもない。
すべては〈環境耐性〉のおかげだ。
もちろん転倒することなんてないし、燃料切れにもならないとんでもバイクで、俺は一人爆走中だ。
どんどんスピードを上げていくと、いつのまにか300kmを軽々と越える。
これなら魔物でも振り切れそうだし、近いうちに王国へ向かうのもいいかもな。
あ、一人で行ったとなると、スフィアたちにバレると何を言われるか分からないが、その時は車を召喚して皆で行けばいい。
そろそろ自宅に帰って昼寝だな。
◇
《ビーッ、ビーッ、ビーッ》
「うわッ!? これは警報か!」
《マスター、お休みのところ申し訳ありませんが、クワトロ大森林から四名の人族がやって来ます》
「また難民か?」
《いえ、偵察隊と推定します》
「偵察だと? どこからだ?」
《ヴァイスクローゼ王国と推定します》
王国からの偵察か。
それなら今回もガトーに対応してもらうのがいいか? いや、騎士隊がいることを知らせると面倒なことになる可能性がある。
今回は俺が行くか。
一応、聖剣と傘だけでも持っていくとして、その前に……。
「おい、お前ら! 人が気持ちよく昼寝してたのに、何でいつもいつもいるんだよ!」
「あら、ダイチ様。あきらめ肝心ですよ♡」
「そうですわ。わたくしのこの胸でお眠りしていればいいのですわ」
「ん。ダイチ、シルフィの方がちょうどいい」
「領主様、わたしだって負けてませんよ」
「ダイチ殿……あ、あたしも邪魔して悪いな。その、あの、あたしもなかなかのものだと思うぞ……?」
ルナリスまでいたのかよ……。
てか、お前はそんなキャラじゃないだろ!?
ついでにベッドからよく落ちずにいられるな。
身動きが取れないほど挟まれてるからだろうが、いくら何でも暑苦しい。
「ダイチ様、偵察が来るようです。急ぎお支度してください」
いやいや、支度しようと思ったら、お前たちが邪魔してるんだろ。
◇
「毎度あり〜」
「もう着いたのか……」
「それにしても立派な城壁っすね。こんな高いのは初めて見たっすよ。それに、あの国旗は何て書いてあるんすかね?」
「私にも分からないわ」
「博識なルーシェでも読めないんだね。益々興味深いよ」
「それより見てよ。あれ教会じゃない? ティシリス聖教国のものより大きいわよ……」
「そもそも城壁より高い建物がいっぱい見えるっすね」
「チッ、ここは一体なんだってんだ」
「確かにすごいね。きっとこの城の城主は只者じゃないだろうね。いいかい、みんな。心しておくようにね」
◇
お、男三人と女一人か。
四人ともキラキラした装備してる。
それに出会って早々で睨まないでほしいんだが。
「僕たちは冒険者アイゼンフォートだ。名前ぐらいは知っているだろう? ここの城主に会いに来たので、入らせてもらうよ」
銀髪に銀の鎧のイケメン君。
というか、アイゼンフォートって何?
《マスター、王国の首都である王都のS級冒険者パーティと断定します》
やっぱS級冒険者って強いのか?
ルナリスたちとどっちが強いんだろうな。
「そこで止まれ。城主に何の用がある?」
「おい若造、俺たちが用があるって言ってんだ。鼻垂れは引っ込んでな」
え、鼻垂れ? この赤いバンダナ……木柵の角に小指をぶつけて絶叫したあげく、バナナの皮でも踏んで気絶してしまえばいい。
「ダイチ様に向かって、何たるお言葉を……」
「あたしたちが黙っていれば……」
俺がディスられたからか、スフィアだけでなく、ルナリスたちもプルプルし始めてる。
俺のために怒ってくれてると思うと、せめて俺だけは冷静にいないとな。
一応、大人だし、領主だし。
「やめないか、フォルクス。相手はまだ若者だよ」
「何の用だと聞いている? 答えられないのであれば即刻出て行け」
「あんの野郎、調子に乗り…」「すまない。僕たちは王国から依頼されて見に来ただけだ。この国に興味があるだけなんだ。城主と話をさせてもらえれば、すぐに帰ると約束するよ」
お、赤バンと違ってイケメン君は話が分かりそうだな。
「俺がここの領主だが、話とは何だ?」
「君が城主……? そうか。町を見てみたいんだ。どのようにして、ここまでの町を築きあげたのか非常に興味深いんだよ」
「断る、と言ったら?」
ん、やっぱりちょっと怒ったか?
イケメン君はちょっとうつ向いたし、他の三人は相変わらずめっちゃ睨んでる。
特に赤バンだけは今にも殴りかかって来そうな感じだ。
「断るには何か理由があるのかい? 僕たちも暇じゃないんだ。町を見回って少ししたら出て行くよ」
断る理由ならある。
こいつらが偵察した後、王国へ帰って報告する。
絶対に面倒臭いことになる。あ、でもここまで来たなら結局は同じか。
「分かっ…」「ダイチ様がダメだと仰っています! 帰っていただけますか?」
「んだと……」
「ね、ねえ、みんな。あの子って魔族じゃない? それにエルフまでいるわ」
「言われてみれば、そうっすね……」
「魔族だと!? こ、ここは魔族の国ってことか! ならエルフたちは捕らえられているということか。おい、メルセス!」
あ、スフィアが怒っちゃったから面倒なことになってきたな。赤バンは短剣抜いたし、黒の三角帽のメガネ娘は杖をこっちに向けてきてる。
ぽっちゃり気弱そうな男は、謎の魔法瓶を手にしてる。イケメン君は棒立ちのままだが、さて、どう出てくるかだな。
「時間を無駄にしたくないから最後に言わせてもらうよ。君は魔族、なのかな?」
おぉッ! このプレッシャーはオークロードの時に感じたものと似てるな。いや、そこまでではないか。
ひとまず、ここで返答を間違えると戦闘ってことだが、まあ正直に答えておいてやるか。
「おたくら何か勘違いしていると思うが、俺は普通の人間だぞ。それにこの子は魔族でもとてもいい子だぞ」
『そんな、とてもいい子だなんて♡』
『ダイチ殿は普通ではないぞ』
『人族の普通の神様ですね』
『御領主様、わたくしの方がいい子ですわよ』
『ん。普通とは一体』
こいつら好き勝手に念話するんじゃねえ……。
「ふっ、魔族がいい子か。少なくともこれまで僕たちが出会った魔族にそのような子はいなかったよ」
ありゃ、信じてもらえてない。
「おたくらは魔族に会ったことがあるのか?」
「もちろんだよ。極少数だけどね。普通の冒険者なら出会う機会はないと思うが、僕たちはS級冒険者だからね。王国から秘密裏に依頼を受けて前線に立たされる時もあるよ」
「メルセス、それ以上は」
「分かってるよ。話が通じる魔族は珍しくてね。つい僕の悪い癖が出たようだ」
「それで、話はしたぞ。約束通り帰るのか帰らないのかどっちなんだ?」
「ふっ。どちらでもないと言ったら?」
あーあ、イケメン君も剣を抜いてしまったな。
しかし、あいつの剣は赤色なんだな。
なんか俺の聖剣より禍々しいし、あれもレア武器っぽい。
《マスター、イケメン君の武器は魔剣アドマギアと断定します》
魔剣アドマギア? 魔剣グラムとかレーヴァテインなら聞いたことあるけど、また国の名前が付いてるんだな。
まあどうでもいいか。
それより城主と話をしたら帰るって約束だったのに何だよ、ったく、ひとまず念話で伝達しとくか。
『みんな、戦うことになると思うから、そのつもりでよろしくー』
「あーやめておいた方がいいぞ? 上を見てみろ」
「上? ッ!?」
「コ、コイツらいつのまに……」
「エルフがこんなに……」
「さすがに分が悪いっすよ。言われた通り、ここは一度帰りやしょう」
「悪いね、オペル。タダで帰るわけにはいかないかな」
『お前たち、向こうはやる気だが、ここは俺に任せてくれ』
『いけません、ダイチ様』
『あたしたちに任せておけばいい』
『私は支援しますね』
『わたくしがあの整った顔を別人に変えてさしあげますわ』
『ん。シルフィ、赤バン断罪』
『まあいいから俺に任せておけ』
「おたくら、どうなっても知らんぞ?」
「ほざけクソガキッ!」
「仕方ないっすね」
「炎の精霊よ……」
「悪いが斬らせてもらうよ!」
おおッ、速え! だが支援魔法がかかったガトーとレーナの方が速かったな。
気弱男は魔法瓶を叩き割ったし、三角メガネ娘は後ろで魔法の詠唱を始めてるが、その前に終わらせてやる。
「木柵木柵木柵木柵! 後、バナナ!」
バナナ:甘くて美味しい普通のバナナ。
効果:不腐・転倒
必要KP:1
「「ギャフッ!?」」
うっ、痛そう。
そんなに勢いよく突っ込んで来るからだ。
ほら、イケメン君は木柵に正面衝突して鼻血出てるし、赤バンはギリギリ木柵を避けたけど「足の小指がッ!?」って言った後、バナナに足を滑らせて後頭部を打って気を失ってるじゃん。
うむ。願ったり叶ったりだ。
「僕の魔剣でも斬れないとは…………」
「な、何だってんだ!? この柵をよじ登るしかねえぞ」
お、赤バンはもう気が付いたのかよ。
よじ登り始めたし。
んじゃ、これならどうだ?
「木柵を〈石壁〉に強化!」
「うおッ? なんだこの壁はッ!? これもクソガキの魔法か!」
ふっふっふ。高さ10mの石壁ならよじ登れまい。
あ、しまった。気付けばメガネ娘が詠唱終わりそうじゃないか。気弱男はまた謎のアイテム取り出してるし、さては、あいつは道具使いだな。
「我が手に炎よ、集いて来たれ。灼熱の炎! ファイアストーム!」
おーッ! 俺がやりたい厨二魔法じゃねえか!
めっちゃ熱いし、直撃すれば黒炭待ったなしだな。
だが甘い!
「石壁石壁石壁石壁!」
前方に〈石壁〉四枚で防いでやった。
「わ、私の上級魔法が石壁に塞がれるなんて……それに、あんな土魔法初めて見たわ……」
「おいらの魔力上昇ポーションも使ってこれっすよ……」
炎が収まったところで〈石壁〉を配置変更。
メガネ娘と気弱男も石壁と言う名の牢獄に入れておく。
一応、頭上に木柵を待機させてあるから、飛んで逃げ出すこともできない。
ま、さすがに人間相手に木柵落としをして、スプラッターにするつもりはないがな。
後は、こいつらをどうするかだな。
《マスター、住民にしますか?》
「ん? いや、こいつらを住民にしたところで、すぐ逃げるだろうからな」
《それではいい方法があります》
「いい方法って何だ?」
◇
現在の開拓ポイント:残394KP。
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