第4話 村が待っている
ようやく森を抜ける所まで来たのだが、俺は今かなり不味いことになっている。
《マスター、お急ぎください》
(分かってるって! これが全力なんだよッ!)
「グゥガアアアアアアアアアァッッ!」
後方から魔物の雄叫びが再び聞こえる。
大木をものともせずに突進し、鳥の群れが一斉に羽ばたき鳴き声をあげていく。
あまりの轟音に走りながらも後ろを振り向くと、巻き起こる砂煙の中でその巨大な魔物の姿を捉えた。
異常発達した鋼鉄の身体。
鋭い牙と額から生えた二本の角。
無数のトゲが連なる大きな尻尾。
全長10mの四足歩行の魔獣だった。
(な、なんなんだよあの化け物は!?)
《マスター、逃げ切るのは不可能です。大木の裏に隠れてください》
「ハァハァハァ…………」
ギリギリの所だったが姿までは見られていないはずだ。荒い呼吸を静かに抑え込んで息を潜める。
「グゥガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッッッ!!」
大地が揺れるほどの咆哮に思わず耳を塞いでしまう。
(あ、あの化け物は一体なんだ?)
《この森のヌシですが、わたしのデータベースと大きく異なります。突然マスターがこの森に現れたために警戒されたと推定します。ただし特殊な魔力が融合されているため、何者かに操られている可能性があります》
(あの化け物を飼い慣らしている化け物がいるってことかよ……)
「ズシンッ!」と、すぐそこで重い足音が響いた。大木を挟んですぐそこにヤツが嗅ぎ回っている。
(おいプラン! このままじゃ見つかるのも時間の問題だぞッ!)
《あのヌシは音に敏感です。今動けば跡形もなくなると断定します》
(クソッ!)
もはや隠れることは無理か。
ならば一か八かで再び全速力で逃げるか、いっそのこと戦うかの二択。とはいえ逃げるといっても足はもう動かない。
(戦う道しかないってことか……)
このオーパーツでどこまでやれる
いやいや、こんな傘で戦えるとは思えないぞ……そもそも体力も残ってなければ足も動かないんだぞ。
最悪の状況だが、あきらめて何もせずに行動しないのは生憎と今世で辞めにしたんだ。
俺は覚悟を決め、動き出そうとしたその時だった。
「もうよいベヒモスよ。御方から帰還せよとのお達しだ」
どこからともなく謎の声が森に響き渡った。
「グルガアアァッ!」
俺をあれだけ追っていた魔獣が、謎の声を聞いて森の奥へと引き返していった。
(た、助かった……?)
《魔力反応が離れていきます。危機は脱しました》
あの声は一体何者だ? まぁあんな化け物を飼い慣らすヤツだ。きっとろくでもないヤツに違いない。
それに御方とも言っていたということは、ヤツに上司がいるのは間違いないだろう。ここは俺が思うよりもはるかに危険な場所のようだ。
まぁそんなことよりプランのおかげで助かった。
あの時、俺がスライムと戦わずに逃げていれば、今頃はヤツの腹の中だろう。いや、その前に別の魔物に殺されていたかもしれない。
今の俺はまるでダメだ。この世界で生きていくためには強くならなければいけない。
俺は強くなる。そうでなければドデカい国なんて到底築けないからな。
《マスター、あの先が出口です》
こうして短くも長いホラーの森を抜けた。
◇
《マスター、南5km先に見えるのが目的地の村です》
「あの米粒が目的地か……」
それにしても見渡す限り荒野だな。
俺は森の入口の前で座り込み、ペットボトルの水を飲み干す。
「悪いがしばらく休憩だ」
休憩している間、ここまでの道中でプランに教えてもらったことを整理することにした。
一つ、この世界には大きく6つの国がある。
1. 強大な軍事力を持つ〈アドマギア帝国〉。
2. 魔法技術最先端の〈ミラテスラ魔法国〉。
3. 愛と親和の宗教国家〈ティシリス聖教国〉。
4. 最も産業が栄える〈エルエスドーラ共和国〉。
5. 獣人族が治める、〈ビースタッド獣王国〉。
6. 他種族が集まる、〈ヴァイスクローゼ王国〉。
二つ、俺はヴァイスクローゼ王国最北端に位置する〈帰らずの森〉にいる。名前の通り、足を踏み入れると二度と帰れないと言われている。
確かに名に恥じない森だった。
三つ、人族だけでなくエルフやドワーフ、獣人族などファンタジーおなじみの種族がいる。
四つ、言わずもがなここは剣と魔法の世界。いわば中世ヨーロッパに近い文化レベル。ちょっと歩けば、コンビニでおにぎりやコーラが買える世界ではない。
はっきり言って超不便。
五つ、俺の<称号>のことだ。
称号とは簡単に取得できるようなスキルとは違う。その道、何年何十年、種族によっては何百年と経験を積み、何らかの功績を残した者や、ある分野で高みに到達した者に送られる特別報酬みたいなものだ。
取得難易度は高く、複雑なタスクをこなさなければ取得できないがその恩恵は凄まじい。
つまり称号一つでユニークスキルが一つもらえるのと同じだ。
最後に称号を持つ者は〈称号持ち〉と呼ばれ、国の英雄になる者もいれば貴族の仲間入りをする者もいる。ただし称号を取得するには教会に高額なお布施を支払い、お祈りを捧げてもらう必要があるようだ。
そんな俺も入手経路はさておき、称号持ちの一人だ。一応俺もスカウトされる立場にあるが、ぶっちゃけどうでもいい。
「ふぅ……」
ま、こんな所か。
俺は休憩を切り上げて目的地である村へ向かうことにした。
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