第21話 ジャンポン
「ダイチ様、私もダンジョンを強化していきますね」
「そういえばDPが戻ってきたと言ってたな? あれはどういう意味なんだ?」
「ダイチ様が呪いを解除してくれたおかげで、本来取得できていたはずのDPが戻ってきたのです」
つまり、あの呪いが妨害してたってことか。
なるほどな。魔族の考えるようなことは、元現代人の俺でもよく分かる話だ。
「で、どのぐらい戻ってきたんだ?」
「およそ103万DPですね。それにルナリスさんたちと、帰らずの森の魔物のおかげで、今は毎日1,000DPほど入ってきます」
103万!? 何それ、すごくない?
それだけあれば、やりたい放題できるんじゃないか?
「私が課せられていた100万DPには到達していたんですが、あの呪いのせいで吸い取られていたみたいです。それを調べるために、一度コアルームに帰る必要がありました。ついでにクマちゃんやお洋服も持ってきちゃいました」
それで一度帰ってたのか。
まあ、ダンジョンは、スフィアに任せるだけだし。
「何はともあれよかったじゃないか。ダンジョンはスフィアに任せるから、自由にしてくれ」
「はい。それで一つ、ダイチ様にご提案があるのですが……」
◇
日が暮れて夕方になった頃、ルナリスとレーナが、また魔物を引きずって帰ってきた。
「相変わらず! ルナリス姉様は! エルフ使いが! いつも荒い! のです! わ!」
「あっはっはっ! あのデカ熊に比べれば、今日は小物じゃないか。シルフィ、後は任せたぞ」
「ん。シルフィ任された」
体長4m、茶色い毛並みを持つ巨大猪。
針のような毛で覆われているが、胴体に大きな穴が空いていた。
《マスター、あの魔物はグランドボアと断定します。帰らずの森からの道中で、マスターも何度も大木に隠れて回避したA級の魔物です》
ガトーたちも外に出ていたのか、慌てて駆け寄って来る。
「この魔物は……グランドボアか!? 二人だけで討伐したというのか……?」
「ああ、そうだ。まあ今回はこの弓で一発だったが」
「弓で一発だと…………」
ガトーが何やら驚いているが、シキさんの料理は今日も食べられそうにない。
「ルナリス、レーナ、帰ってきたところ悪いが、話があるんだ。ちょうど全員いるから皆も聞いてくれ」
先のスフィアからの提案を言い渡された俺は、その案を皆に話すことにした。
「まず始めに、今後の俺の考えを伝えておきたい」
「ダイチ殿の考えか。あたしも聞いておきたい」
「領主様のお考え、是非聞きたいです」
「俺はわけあってここに来た。詳細は話せないが、この村を大きくしていくつもりだ。食うものに困らず、種族の垣根を越えて、互いを尊重する素晴らしい村だ。そして、いつしか村から町へ、町から国へと築きあげてみせる!」
俺が熱量を込めて宣言すると、皆が静まり、真剣な表情へと変わっていった。一度でいいから、こういう熱い演説まがいなことをしてみたかった。
「だが、その前にやるべきことは山ほどある。まず一つは、ガトーに言われて気付いたことだが、この村に魔物が襲って来るかもしれないということだ。そういった有事に備え、各々が強くならなければ、村を守ることはできない」
「ダイチ殿、それは子供たちも強くさせるというのか?」
「ああ、そうだ」
「む、村を守るのは、あたしたちがする! こんな小さな子供に戦えというのは、いくら何でも……」
ルナリスだけでなく、皆が戸惑っている。
もちろん予想通りの反応だが。
「もちろん、戦うことができない女子供たちに戦ってもらうことはしない。あくまでも自分の身を守れる力を、今のうちに身につけておいてほしいだけだ。実際の戦闘には、ルナリスたちに手伝ってもらうことはあると思うがな。そこでだ、スフィアからの提案があるから聞いてくれ」
俺の隣にいるスフィアが、一礼して話を始める。
「始めに、みなさんに知っておいてほしいことがあります。私はダンジョンマスターと呼ばれる存在で、魔族の一人です。とはいえ、私はダイチ様をお慕いしている一人の女ですので、ガトーさんたちが思うような悪い魔族ではありません」
「やはり貴殿は魔族であったか……」
「父上、まぞくってなにー?」
「母上、ダンジョンマスターってなにー?」
「魔族……!?」
「みんな、今はスフィア様がお話しているのよ」
ルナリスたちはスフィアが魔族ということは知っているが、この時、初めてガトーたちは知らされることになった。
「私はダイチ様と似た力を使うことができます。もちろんダイチ様ほどではありませんが。その力を使い、ダンジョンモンスターと戦って、レベルアップをしてもらおうと思います」
スフィアの提案は、村を守ることができる住民の強化だった。
皆にはダンジョンモンスターを討伐してもらう。
討伐報酬として、ダンジョン製の武器やアイテムを入手し、村に役立ててもらう。これで好循環ループができあがる。
ちなみに討伐報酬だけを召喚することも可能だが、二倍以上のDPコストがかかってしまうらしい。
「今から実際に俺がやってみせるから見てほしい。スフィア、頼む」
「はい! スポット召喚っと」
スフィアが広場に魔法陣を出現させる。
「スライムだー」
「スライムだねー」
「その通りだ。皆知っていると思うが、こいつは最弱の魔物、ブルースライムだ。このように、ポンと踏むだけで簡単に倒せる魔物だ」
「ダイチ殿、確かにスライムは誰でも倒せるが、レベルアップにはかなりの時間がかかるぞ?」
「そこでだ。スフィア、設定の変更を頼む」
スフィアが出現させたのは、俺がダンジョンでレベル上げをした、スライムハウスの劣化版、スライムスポット。
このスポットはランダムで様々なスライムが出現し、およそ一分ほどでリスポーンする仕様になっている。
ただし、それは初期設定の状態であって、追加でDPを使用すれば、様々な設定を変更することが可能となる。
「スライムがたっくさん出てくるねー」
「わーい。スライムいっぱいー」
「こんなペースで出てくるのか……」
出現速度を一秒に変更し、スライムの種類を一種類に絞る。
「お兄ちゃんすごいー。ボクもジャンプ、ポン、ジャンプ、ポン」
「バニラもやってみたいなー! ジャンポン、ジャンポン」
ナッツとバニラが、その場で飛び跳ねて真似を始める。
俺はスライムスポットに入り、その場でリズムよくジャンプを繰り返しているだけだ。
すると、勝手にスライムがポンポン消滅していく。
「「ジャンポン♪ ジャンポン♪ ジャンポン♪ ジャンポン♪」」
もはやリズムゲーでしかなく、足裏マッサージも兼ねてクセになりそうだ。
これなら子供たちでも簡単にレベルアップすることが可能となる。
「スフィア、そろそろいいぞー」
「は、はい」
「あ、お兄ちゃんの足のとこに草が落ちてるよー」
「青いのも落ちてるー」
「そいつは薬草とスライムゼリーと言ってな。ポーションの素材になるものだ。ここではかなりの貴重品だな」
一分ほどジャンポンしてスライム60体の討伐。
ポーションの原料となる薬草四つとスライムゼリー二個を入手した。
これには設定を変更したスフィアまで驚いていた。
まあ、変更するように言ったのは、俺だから仕方ない。
「ココア、ナッツ、バニラ、それにショコラも試しにスポットに入ってくれ」
「は、はい……」
「わーい。スライムジャンポンだー」
「バニラもジャンポンがんばるー」
「ス、スライムぐらいなら、わたしにだってできるわよね……」
次は一つの魔法陣の同時出現数の上限である、4匹を出現させる設定に変更。
そして、スライムジャンポンタイムが始まった。
「ほっ、ほっ、ほっ……」
「あははっ! これ楽しいねー! ジャンポン♪ ジャンポン♪」
「きゃはは! ジャンポン♪ ジャンポン♪ ジャンポン♪」
「あら本当ね。柔らかい感触もクセになりそう。ジャンポン♪ ジャンポン♪」
この後、スフィアは一分ほどでリスポーンをオフに切り替えた。
《任務:〈No66〉を達成しました》
任務:〈No66〉住民にF級の魔物を狩らせよう。
達成条件:住民がF級の魔物を狩って来る。
達成報酬:10開拓ポイント。
任務が達成しているのが、未だによく分からない。
魔物を狩って来たわけではないが、達成とは……。
うん。まあ無視だな。
「もっと、ジャンポンしたかったー」
「バニラももっと遊びたいー」
「お母さんは疲れたわ。でもレベルが上がって9になったわ」
「これならお前たちでも簡単だろ? 今日はもう遅いから、また明日やればいい」
続けていくうちにレベルが上がらなくなれば、ブルースライムから種類を変えればいいだけだ。
これができるようになったのは、スフィアのおかげだな。
「こんな方法があるとはな……」
「ルナ姉様、今のは領主様とスフィア様だからこそ、できる方法ですよ」
「た、確かにエリスの言う通りだな」
「わたくしも明日してみようかしら」
「ん。シルフィも」
ルナリスたちもジャンポンしたいようだが、帰らずの森で魔物を狩ってくるほどの強者。何時間してもレベルは上がらないだろう。
だからこそ、ルナリスたちには特別スポットを用意させてある。
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