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番外編その3【ガトーの決断】

 俺はガトー。ガトー・オーフレーズと申す者。

 ヴァイスクローゼ王国の王国騎士隊隊長を務めているが、王国から派遣要請として、ティシリス聖教国に一時的に移り住むことになった。


 かねてより王国と聖教国は同盟国。

 祖国を離れるのは寂しくもあったが、こればかりは致し方ないものだ。


 その後、王国から軍事支援として滞在せよとの命令を受け続けている。


「隊長、未だ帰還要請がないなんて、明らかにおかしいですよ。それに法律も厳しくなって、遊ぶにしても遊べないですし、つまらないんですよね」

「まあそう言うな、フェイン。副隊長のお前がそんなことを言ってどうする。他の隊員たちに聞かれでもしてみろ。規律が乱れてしまうぞ」

「隊長は綺麗な奥さんや可愛い子供たちがいるからいいじゃないですか。俺なんて…ぐすん」

「はっはっはっ! お前も山でも行って、魔物から女を助けてやればいい」

「そんな偶然は隊長だけですよ」


 滞在してからというもの、早五年。

 軍事支援も何も平和そのものだ。何よりここは、山々に囲まれた国。魔物の襲撃も、地元の警備兵だけで十分に対応できる。


 我々がここに残る意味はないが、強いて言うなら、妻が熱心な聖教徒で、三人の子供たちがいることだな。せめて隊員たちだけでも帰らせてやりたいところではある。


「大変です、ガトー隊長! 聖司祭様が突然引退され、新しく就任した聖司祭様から、税制度の見直しが発表されました。これ見てくださいよッ! もうめちゃくちゃですよ!」


 内容を見る限り、横暴と言わざるを得ない。

 これでは王国だけでなく、近隣諸国に喧嘩を売っているも同然。


「この国で何が起きているというのだ……」


 オレは急ぎ聖教議事堂へと足を運んだが、門前には剣聖教団が立ちふさがり、誰一人として立ち入ることができなくなっていた。


 ◇


 あれから一月が経った。

 剣聖教団から何度も門前払いを食らい、民の声を聞こうともしない新聖司祭に、悪意すら抱きつつある。

 抵抗しようにも、王国との関係がさらに悪化しかねず、さらには多勢に無勢。

 中には善良な民が警備兵に捕まることもあり、何もできないオレは、自分を憎んだ。


 せめて隊員達だけでも帰らせてやりたいが、軍事違反は重罪。帰還命令なしに帰還したとなると、王国でも行き場を失ってしまうばかりか、投獄される恐れが十分にある。


 だが、今や金貨どころか銀貨を稼ぐことすら難しく、貧しい人たちは、奴隷落ちしていく姿も見かけるようになった。


 そんな時、さらなる事態が起こる。


「ガトー隊長ッ! 大変ですッ! ヴァイスクローゼ王国と同盟を破棄したとの通達がきましたッ!」

「何だとッ!?」

「それだけではありません! 周辺諸国のアドマギア帝国や、ミラテスラ魔法国までも同盟破棄をし、物資の輸出を止めたとの報告が…………」


(何ということだ……これでは近いうちに戦争になるぞ。何をしているのだ、新聖司祭は……こうしてはいられない)


 ◇


「何度来ても無駄だ。即刻立ち去るがよい。聖司祭様は、王国との同盟を破棄なされた。七日も経たぬうちに、正式に貴様たちは拘束されるだろう。おっと、逃げ出そうとしても無駄だぞ? 国境は我々剣聖騎士団が警備に付いているからな。一時の安らぎを味わっているがいい」

「こ、このままでは戦が始まるぞ? お前たちはそれでいいのか?」

「我々に個人的な感情は持たぬ。すべては聖司祭様の御心のままに。これ以上は、貴様であっても切り捨てるぞ」


(クッ……もはや限界だな)


「フェイン、皆に伝えてくれ。任務を放棄し、明日の深夜に国を出ると」

「で、ですが国境には剣聖教団の連中が見張っているんですよ。先日も何百人と出て行きましたが、ほとんどの者が捕まり、中には切り捨てられる者もいました。武力行使でも多勢に無勢。今や警備は何倍にも膨れ上がっていますよ! やつら国から誰一人逃がさないつもりです……」

「そのことなら安心しろ。数日前から調べて分かったが、警備が薄い場所が一つだけある」

「まさかあそこを通るおつもりですか!? 例えこの国を出れたとしても、待っているのは……」


 いわば賭けでしかない。

 だが、あの道なら、連中も追って来ることはできないだろう。最悪の場合はオレが囮になり、必ず皆を逃がしてやる。


「それだけではありません。帰還命令が出ていない現状で、王国へ帰ることは厳罰ですよ」

「承知の上だ。だが同盟は破棄され、我々の身に危機が迫るのも時間の問題。オレが丞相様と話をし、お前たちだけでも無罪にしてみせる。このまま滞在したところで、待つのはよくて奴隷だ。お前も分かっているだろ、フェイン」

「ですが…………」

「作戦を伝える―・―・・」


 ◇


 翌、作戦決行の日。


「隊長、俺たちはまだ出ていくことはできません」

「おい、フェイン。ここに来て何を言うか。見てみろ。連中もここを通るとは思ってもいない」

「はい。だからこそ、善良な者たちを逃がす案を思い付きました。俺たちがやつらの気を引くので、隊長はご家族と共に先に行って下さい」


 他の者も逃がす案だと?

 皆の顔を見る限り、元々こうすることを決めていたということか……。


「私はともかく、隊員たちも今や家族がいます。我々王国騎士隊が国を出たと知れれば、さらに警備が増強され、逃げたい者たちは二度と出ることはできないでしょう。隊長には大変お世話になりました。今まで受けた借りをここで返します。なあ、皆ッ!」

「「「おうよッ!!」」」

「隊長、これで貸し借りはなしですよ」

「ガトー隊長、後から行くんで待っててください」

「俺たちは隊長に叩き上げられた精鋭ですよ。近いうちに会いましょう」

「お前たち……三日だ。三日以内に国を出ろ。必ずだぞ」

「承知しました。このフェイン副隊長が責任を持って他の人たちも連れて行きます。さあ、お早く」


 思いもよらない事態となってしまった。

 隊長であるオレが、部下よりも先に出ることになってしまうとは、何とも情けない。


 ◇


 聖教国を離れて五日。

 この辺りはデススネイクの巣があると聞いたことがあるが、産卵期のため、運よく遭遇せず抜けることができた。


 フェインたちは上手くやっただろうか?

 そうだ。あいつらならきっと大丈夫だ。

 必ず後を追って来る。


「父ちゃん、まだー?」

「つかれたー」

「「ああ、ティシリス神様。どうか我々をお助けください……」」


 これまでの道中、皆よく頑張ってくれている。

 オレの食料を減らし、妻と子供たちに分け与えていたが、今や手持ちの食料と水も尽きてしまった。

 どこかで補給したいのも山々だが、見渡す限り、荒れ果てた荒野が続く。


 ここが死の荒野といわれる所以か。


 ショコラやココアが言う通り、最後は神頼みということか……ん? 何だ、あれは?


 突然、上空の雲が裂け、死の荒野を激しい光りが差し込んだ。


「あ、あぁ!? こ、これはティシリス神様のお導きかもしれないわ!」


 ショコラの言う通り、神は我々を見離してはいなかった。あの村に神の使者がいるのだろう。


 ◇


「俺がここの領主の切開大地だ。お前たちはなぜこのようなところへ来た?」


 これは驚いた。このような若者が神の使者というのか? いや、見た目にだまされるな。

 オレたち王国騎士隊でも、この荒野を迂回するというのに、こうして平気で暮らしているではないか。

 

 オレは神の使者に、ここにたどり着いた理由を話すと、風変わりだが、立派な家屋に案内され、王国でも味わえないほどの絶品シチューを食べさせてくれた。


 数日ぶりに食う飯だったが、驚くほど美味く、さらに回復していくのが分かった。


 ショコラの料理も一級品だが、この料理を作ったエルフの娘も相当な腕の持ち主。

 エルフたちは神の使者の配下なのだろうか。


「事情は分かった。それでお前たちは、これからどうするつもりだ?」


 すべてを話さなくとも使者であれば理解して下さると思い、仲間たちのことまでは話さなかった。

 

「あ、あなた、ここに住みましょう。あんな綺麗な水まであって、料理もとても美味しいですし、領主様も村の皆さんも、とてもよくしてくださってますし」


 あれほど聖教国を溺愛していたショコラが、瞬時に虜にされてしまうとは、さすがという他ない。


「ああ、構わない。家も提供するし、お前たちの好きにするといい。ただし犯罪だけは許さない」


 自由は与えるが、やはり非人道的な行為は、天罰を受けさせるということか。


「今日からガトーたちが住む家はここだ。後は自由にやってくれ」


 「ドーンッ」という轟音がすると、使者と全く同じ屋敷が現れたのだ。

 だが、それだけではない。


「ズドドドドドドドッッ!!」 


 地震が続き、揺れが止むと同時、堀と木柵が村を囲っていた。井戸や鉄風呂、小屋をいとも簡単に動かし、石橋や松明台まで瞬時に出現させる力。


 オレは職業柄、凄腕の魔法使いを何度も見てきたが、あまりにも異質。魔法を超越した神の力だと思い知った。

 神の使者が住む村であれば、仲間たちも導いてくれるに違いない。そう方針を変更し、王国へ向かうのではなく、ここで仲間を待つことにした。


 フェインたちは、オレたちと同じ道を必ず通る。

 ここで待っていれば皆に会える。

 そう信じて、しばらくは村に滞在し、世話になろうと思う。


 そして、いつしか王国へ帰らなければならない。

 王国は我々騎士隊を見捨てたのか、それとも特別な理由があったのか。


 どちらにせよ、事の真相を確かめる必要がある。

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